第69話:最終決戦に向けて・パーティー準備①
婚約披露パーティが近づいてくると城下も騒がしくなってくる。
今日はセレーネとクロコと共に城下の警邏に回っている。
「人が増えると、どうしても治安が悪くなるからなぁ……」
「そうですね……今日だけで3件の喧嘩と窃盗ですもんねぇ……」
「いつもならそんな悪い人は居ないですもんね……」
しかも人が多い、クロコは常にフードの中から様子を伺ってもらい、セレーネの手を時々引きながら見回る。
「うーん……さっきからチラチラこっち見てる奴が居るな……」
正確には〝セレーネ〟をだけどね……。
「そ、そうなんですが!?」
「うん、聞かれちゃうから声は小さくね。クロコ、セレーネの服に隠れられそう?」
「はい、大丈夫です。おねーちゃん、入るね」
「ふぇ!? ちょ!? んんっ!?」
もぞもぞとセレーネの服が動き、首周りにクロコの魔力が移る。
「もしかしたら人攫いかもしれないし、気をつけとこうか……」
セレーネは希少種である宝石獣であるが故に狙われやすい、まぁ本人は「私を攫える人は居ないでしょうけどね」と言って笑っていた。
アミリア達4人の中で実力は4番目だが強さはこの世界でも上澄みである。
魔族の近衛兵20人を肉弾戦のみで倒せてしまう程の強さだし実力なら鈴香に少し劣るくらいだ。
「んーこのまま放置できないし。私が囮になるよ」
「少し考え込んだセレーネがとんでもない事を言う」
「いや、危ないでしょ」
「大丈夫大丈夫、少し人通りの少ない方へ誘導するから。相手が追ってきたら捕まえて下さい」
ニコッと笑うセレーネ、でもなぁ……。
「それでしたら、私が影移動でおねーちゃんを逃がします!」
意気揚々とクロコが言う、それならまぁいいか……。
「わかった、クロコに任せる」
「はい!」
「えー、私信頼ないのぉ!?」
頬を膨らませて詰め寄って来るセレーネ。
「いや、信頼はしてるんだけど……」
「むぅ……」
「おにーちゃんは、おねーちゃんが心配なんですよね~」
「うっ……」
図星であり、返答が詰まる……すると、セレーネは少し照れながらニヤニヤしている。
「えへへ~、うれしーなぁ~ユウキさんに心配されたぁ~」
「くっ……わかった、わかった。セレーネを囮にしてクロコは助けてくれ。そしたら、二人は袋小路に向かってくれ」
「は~い!」
「はい!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
それからローブを着せたセレーネと別れる、俺は屋根の上から観察をする。
「しかし、こんな白昼堂々仕掛けるかね……」
裏路地に入ったセレーネを追う二人、顔は見えないけど背格好は男性だ。
「『——鑑定』ってレベルと名前と種族みたいな簡単な情報くらいしか無いな……」
両方とも男で、1人は〝オジュジュ〟レベルは150か一般人にしては高い、多分護衛なのかな、もう一人は〝ホラークス〟レベルは45か。
それと気になる事柄が一つ判明した。
「身分とかは無いし只の男が何でだろうな……」
次第に足早に進むセレーネ、袋小路の突き当りに着くと振り返る。
「誰ですかこんなとこまで付けて来て!」
「はぁ……はぁ……。ようやく、止まったか……」
「ったく、手こずらせますね……私を忘れたのですか?」
フードを取る、俺は見知らぬ顔だ。
「だれぇ?」
「ぐぬぬぬぬ……」
「いいじゃねーか、さっさと捕まえて楽しませてもらおうぜ……」
「そ、そうですね! 貴女を汚せば新魔王の名も傷つく、私の鬱憤も晴らせる! 一石三鳥です!!」
気付かれない様に背後に降りて近づきながら声をかける。
「いや、一石二鳥だろ……」
「「!?」」
ばっと振り向く二人、その隙にセレーネはクロコによって俺の背後に転移する。
「んなぁ! 貴様ぁ!!」
「……だから、誰だよ?」
「ワシの顔を忘れたというのか!!」
「だからそうだって……」
「もういいじゃねーか、あんなモヤシ野郎さっさとぶっ殺しちまえば!!」
「待てオジュジュ!!」
「死に晒せぇ!!」
剣を抜いて飛び掛かって来るオジュジュという男、こちらも殺さない様に強化した手で叩き落とす。
「ぎびゅっしゅ!?」
脳震盪が起きたのか、少し痙攣しながら崩れ落ち動かなくなる。
「くそっ! こうなったら!!」
小瓶を取りだし服用する、すると手足の端からドロドロとスライムのようになる。
「セレーネ、下がって!」
「はい! ひゃぁ!?」
下がらせたセレーネを抱えるそのまま屋根上に飛び広がりと並走する。
いきなり増えた体積が路地に溢れる、先程の男も取り込み大きさを増す。このままじゃ大通りに溢れて面倒な事になりそうだ……。
「クロコ! 壁を作るから街の外にこいつを転移させられるか!?」
「やってみます!!」
「わかった! 頼んだ!!」
進行ルートの先に飛び降りて土魔法で壁と庇を作る、そのままクロコが街の外まで転移させていく。
「転移出来ました! おにーさん達も!」
「あぁ!」
「えぇ!」
影に飛び込み転移する、降り立った先は郊外の平原だ。
「ゴロス……ショウヒンノグゼニ、ニゲダシヤガッデ……」
「商品? 何言ってるんだ?」
「ギザマモダ! ワジノトウギジョウヲ、メチャクチャニシヤガッテ!!」
「闘技場? まさかお前あの闘技場の支配人か!?」
「あーそう言えば……そんな顔だったかも?」
セレーネも確か……みたいな感じで手を打つ。
「グゾガァァァァァ!!」
俺達が忘れてた事にキレたのか、触手を伸ばし暴れ出した。
作者です。
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