第22話:ナタリアさん
翌朝日も昇らない内から朝食を済ませ出発をする。
「今日中には魔王領へ入りたいよねぇ……」
「旦那ぁ……結構厳しいですぜ。山道だし速度は出ないですから」
「まぁ、そこは殆どの荷物は収納しようと思うし、それでも無理になるかな?」
「そうですねぇ……問題は山道がどのくらい混雑するかですね」
「そんなに混むの? 行き先は魔王領でしょ?」
「何も観光客や商人だけじゃ無いですぜ、武器や糧秣を積んだ軍の馬車も通りますから」
「そうか、空間収納が便利過ぎて忘れてたよ」
「良いですねぇその力欲しいですよ……」
「あはは……」
流石に空間収納の魔道具は渡せないから、苦笑いをするしかない。
「ねぇ、ユウキ。この服で良いの?」
馬車の中から法衣を着たアミリアがひょっこりと顔を出す。
「あぁ、その格好で大丈夫だよ。他の皆は?」
俺も聖騎士の正装をしている。
「大丈夫、皆着替え終わってる」
「そっか、じゃあ皆の事任せるよ」
「えぇ、任せて」
そう言ってアミリアは馬車の中に戻る。
「しっかし旦那、俺達までこの格好で良いんですか?」
「あぁ、一時的に二人は教会で雇い入れてるからね。その格好で大丈夫だよ」
「でもこの格好、少しきついですね」
「はは~んライラ、お前ふとっ――ぎょへぃ!」
出てきたライラに顔を蹴飛ばされるレギル、そういう事は言っちゃ駄目だろ……。
レギルを馬車から落とし手綱をを握るライラ、落とされたレギルがガシャガシャと音を鳴らしながら走っている。
「まってくれぇ~」
◇◆◇◆◇◆◇◆
そしてそのまま街の入口へ到達する、すると門兵の1人が駆け寄って来る。
「聖女様御一行ですね! こちらへどうぞ!」
「私達は教会者です、皆様を置いて先に入るなど出来ません」
「ですが……」
「大丈夫ですよ、聖女様は気の長い方ですから、ですがこの先の戦場に居る兵士たちの死に対して心を痛めております、ですのでなるべく早めにこの街を出立させていただきたいと思っております、それをお伝えしていただけませんか?」
「は、はい!」
そう言って、門兵さんは走って戻って行った。
「ふぅ~これで余計に絡まれる必要は無くなったね……」
前回の街で司教なりに絡まれたのが面倒だったみたいだし、これ位で回避できるなら十分だね。
「はぁ~旦那は何でも出来るんですね……」
「あはは……いつの間にか出来る様になってただけだよ」
「俺には到底できませんよ……っと、何か来ましたね」
城門の方から騎馬が数騎駆けてきた。
「聖騎士様方、こちらへどうぞ」
「ですが、並んでる皆様より先に行くのは……」
「それなのですが、これから軍の輜重部隊が出発されまして、こちらの列を待っていると丁度重なってしまうのです、ですので我々で誘導しますので、開門前に抜けて頂きたいのです」
「そうなんですか……わかりました。それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
そうして騎馬に囲まれ先頭へ、そして貴族用の出入り口から先に通される。
中に入ると、貴族の馬上服を着て帯剣した女性と、先程の門兵達と同じ意匠をした兵士たちが待っていた。
その前に止められる、そして兵士たちが綺麗に整列し直す。
「こちら、この領の領主様代行です」
「今、ご説明されました領主代理のナタリア・ミローズです、この度は我が夫は戦場におりまして。代理の私が聖女様へのご挨拶を務めさせていただきます」
深々とお辞儀をする領主代理、オレンジ色の長髪でエメラルドの瞳が綺麗な人だ。
「ユウキ」「はっ」
その声に応じて俺がアミリアをエスコートして馬車から降ろす。
「ありがとうございますご婦人、私聖女を務めさせていただいておりますアミリアと申します、こちらは私の護衛のユウキでございます」
俺とアミリアは軽く一礼をする。
「では、すみませんがお時間が無いとの事でしたので、馬上でのご案内でよろしいでしょうか?」
「えぇ、構いませんよ」
「!?」
「それでは馬をご用意します、少々お待ちを」
そう言ってナタリアさんは馬の用意をしに行った。
「ユウキ、私は馬に乗れません」
「アミリア様、大丈夫です、私が相乗りしますので」
「あいっ!?」
そして用意された馬にアミリアと共に乗る。
「すみません、ユウキ。私が馬に乗れないばかりに……」
「大丈夫ですよアミリア様、その為の私ですから」
前に乗ったアミリアを包み込む様に抱えながら手綱を取る。
(新年のパレードの時に馬に乗る練習しといてよかったぁ~)
「すみません、聖女様が馬に乗れないとは、露とも知らず……」
「はい、こちらこそすみません。私もつい先日までは一般の人でしたので、馬に乗る機会はありませんでしたから」
「そうだったのですね、私も一般の人でしたから分かります……」
ナタリアさんが疲れた顔をしていた。
「でも、一般の方が貴族の方とご結婚なされる事は珍しですよね?」
「えぇ、でも旦那様はこの家の四男でして……元々継承権はなかったのですが。ご兄弟に不幸が続きまして、市井に降りていた旦那様と共に私もいつの間にかこの地位に……」
遠い目をしている、大変そうだなぁ……。
「そうだったのですね、想像出来ないほど大変でしたでしょうね……」
「いえ! 旦那様の為なら苦にはなりませんでしたから! それに、旦那様の奥さんは私だけでは無いですから……」
快活そうな顔から、少し寂しそうな顔をするナタリアさん
「ナタリア様……」
「でもこれが私の役目ですから! もう、到着してしまいましたね。すみません私の話ばかりで」
そう言って少し申し訳なさそうに、朗らかな笑みを浮かべるナタリアさん。
「いえ、楽しかったですナタリア様。戻って来る際はまたゆっくりとお話を聞かせて下さい」
「はい! 是非」
馬を降りて馬車へ戻るアミリア、ナタリアさんに手を振って出発した。




