第62話:死者に会えるダンジョン③
黄泉比良坂ダンジョンで出会った柳原兄妹、どうやら最下層に用事あるようなので連れて行くことにした。
「ブギイィ!!」
「ほら、剣を構えて!」
そして今は、オークと対峙させていた。
「優希さん! 戦った事無いんですが!!」
「初めて……怖い……」
「大丈夫、魔法で二人は怪我しないから! まずは攻撃を見て避ける事から!」
「「は、はい!!」」
二人共オークの攻撃をひょいひょいと避ける、中々に筋が良い。
「次は避けてからカウンターを入れよう!」
「は、いぃぃぃ!!」
「ひゃあぁぁぁ!」
「プギイィ!!」
中々に当たらない事に苛立ったのか大振りな攻撃モーションに入るオーク。
「今だ!」
「「はああああああ!!」」
兄の悠真が左アキレス腱を、妹のさくらが飛び上がり右目を奪う。
(効率的だけど……攻撃の仕方がえぐいな……)
「ブギイィアァァァァ!!」
「離れて様子見を!」
「「はい!!」」
距離を取って、オークの動きが落ち着くのを待つ。
「二人共、攻めるなら右側からね」
「優希さん目くらましで、砂とか投げるのは駄目なんですか?」
オークを注視しつつ悠真が聞いてくる。
「槍とか弓なら安全位置から攻撃できるから有効だけど、剣だと近づかなきゃいけないから不用意に暴れさせない方が良いね」
「優希さん。私、槍使ってみたい……」
「ゴメン、今は持ってないんだ」
「うぅ、残念……」
さくらちゃん、殺意高いな……。
そうしてる内にオークが疲れたのか、落ち着いてくる。
「さて、もう一息。だけど油断はしない様に」
「「はい!」」
そうして今度は逆のアキレス腱を斬り、倒れ込んだところにとどめを刺す。
「はい、お疲れ様」
タオルとポーションを紙コップに入れて差し出す。
「ありがとうございます」
「ありがとう、ございます」
「それじゃあ魔石を回収して来るね」
オークをひっくり返して胸を開く、魔石を取り出して水魔法で綺麗にする。
「はい、二人共。おめでとう、初めてのオークの魔石だ」
「「わぁ……!」」
拳大の大きさの魔石を手に取り眺める二人。
「それじゃあ下で、軽くご飯にしようか」
「はい!」
「ごはん……」
小さく、さくらちゃんのお腹が答えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇黄泉比良坂ダンジョン―6階・セーフエリア―◇
「それでどうだった? オークの討伐は」
サンドイッチを食べながら話をする。
「大きくて怖かったです……」
「怖かった……」
「最初はあの大きさに圧倒されるよね」
「でも、優希さんが見ててくれるのでしっかり戦えました!」
「心強い」
「あはは、ありがとう」
それから軽食を終えて進みながら、二人に再度聞いてみた。
「それでもう一度聞きたいんだけど、二人はどうしてこのダンジョンに?」
「それは……お父さんとお母さんが交通事故で……」
「そっか……」
想定していた理由だった。
「それで今は、どこに住んでるの?」
「東京……おばあちゃんち……」
「良く来たね、ここまで……」
「それはインターネットで動画を見てたらここの事が、動画にあったので」
それにしても兄弟でここまで来るなんて行動力が凄いな……。
「わかった、なら絶対一番下まで行かないとね」
「「はい!」」
(しかし……鳳さんはこの階にも居ないな……)
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇黄泉比良坂ダンジョン―最下層―◇
最下層までやって来たものの、鳳さんも居なければ件の心霊現象も起きない。
「少し待ってみるか……」
「はい!」「うん!」
その間に鳳さんにもう一度連絡をする。
『――――♪♫♪♬——』
「――――♪♫♪♬——」
「ん? どうして音が?」
音のする方向へ進むと、そこには壁しかない。
『——鑑定』
鑑定をするとそこには隠し階段があり、下へ続いていた。
「「あっ!!」」
その声に振り向くと、白くぼんやりした大人二人の姿がこちらへ来ていた。
そうしてそのまますれ違い、隠し階段へと吸いこまれていった。
「壊すか……」
身体強化と魔装の原理で魔力の爪を作り。思い切り削り壊す。
「二人共、はぐれないで付いて来てね」
「「は、はい!」」
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇黄泉比良坂ダンジョン―??―◇
そのままかなり長い階段を降りていくと広間に出た。
(微かにモンスターの気配がする)
『——鑑定』
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名前:ミミック
状態:擬態
備考:このミミックはダンジョンに寄生して上階に来た獲物の記憶から、死んでしまった人を読み取り、獲物を誘引して捕食する。
捕食した獲物は体内で一時的に保存され、長い時間をかけて消化される。
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「二人共少し離れてて……」
二人に離れててもらい魔力を高める。
『小鳥遊流刀剣抜刀術改——風影斬!』
「————!!」
魔力の斬撃を飛ばしてミミックの本体を両断する、するとぼとりと肉片と共に魔石が落ちてきた。
「死者の見えるって現象の正体はこいつだった……」
「それじゃあ……あれは……」
「うぅ……お母さん……」
泣き出した二人の背中をしばらく撫でていた。




