第51話:好きになって良かった ※残酷描写有り
◇鈴香side◇
私が屑男に追(負)わせられた致命傷を回復魔法で直したあと優希君は私に「絶対守る、必ず皆のところに届けるから…」そう言い残すと守りながらひたすらモンスターを倒していた。
そしてその数はもう千体は超えているだろう、だけど奥から湧き出てくるモンスターは際限なく出てくる。
(惜しい事に、武器さえ壊されて無ければ…)優希君が渡してくれた自衛用の小太刀を必死に振りながら私は考える。
ゴブリン程度の低級のモンスターならまだしも、刃の通りにくい鱗を持つリザードマンや分厚い脂肪が致命傷を防ぐオークまで居る始末、しかもゲル状のスライムも紛れ込んでいる、いくら回復出来るとはいえ左上半身はスライムによって爛れ、体の所々にはリザードマンやゴブリンの爪痕が残る。
一心不乱に刃を振るい命を刈取り、敵の爪を弾き、歪に折れた左手で殴り飛ばす。
流した血も既に限界迎えるだろう、先程からふらついている。
(あれだけ私の醜い感情で嫌ったのに!それでいて私と私の家族を助けてくれることを考えてくれたのに、その心を口汚く拒絶したのに!それでも彼は私に優しくしてくれた…)
きっと、彼には何てことない日常なのだろう、それが彼本来の性格なのだろう、それに彼はそんな私をも守ると言ってくれた…こんな嫌な女なんて庇わなくても一人ならもっと楽に戦えるのに…
(それに今更だけど自覚したんだ…私、彼の事割と初めの頃から好きだったんだ、それにそんな彼の隣に居れる彼女達に憧れたんだ……ハハハ、みっともない…)
私の世界を変えてくれた人、才能の無かった私を助けてくれた人、私が家族と向き合える様にしてくれた人、それが己の苦も無く助ける事が出来る、そんな彼に絆される私を私が反発していた、それを彼に押し付けてしまった。
そんな自分がみっともなくて、それで居て恥ずかしく思えてくる。
そして彼は遂に膝をついてしまう、限界だ…
倒れそうになる彼の元へ走り出す、彼が最後まで立てるように、彼が愛した人達の元に帰れるように、そして…謝りたい、悪く言った事を嫉妬していた事を、何より私自身が愛しく想う彼を死なせたくない…彼の命の為に少しでも時間を稼ごうと…
◇◆◇◆◇◆◇◆
だめだ限界だ、もう声も出ない、血を流しすぎた為か、常時体に強化魔法流し、回復魔法を巡らせた為かわからないが視界がぼやけてきた。
そうして遂にオークの攻撃を貰い背骨が折れ膝を着く、その瞬間3匹のゴブリンに纏わり付かれる、左目が潰され刀が奪い取られた、このまま獲物を無くせば生還は絶望的だ、空いた手でゴブリンの頭を地面へ叩きつけ、もう一匹は左手で首の骨を砕く、そうして刀を奪ったゴブリンへ手を伸ばす瞬間目の前に緋色が飛び込んで来た、その瞬間そのゴブリンとオークの首が吹き飛び抱き留められる。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
泣きながら神楽坂さんに抱き留められる。
泣いてる彼女の背中をぽんぽんと叩くと彼女はそっと俺を降ろすと俺の渡した短刀と先ほどゴブリンより奪い返した刀を両手に持ち戦い始める。
その姿は凄まじく、それでいて美しかった、舞を踊るように敵の間を抜けその間の敵は血の華を咲かせている。血飛沫なのだが幻想的でそれでいて光を反射する二本の刀が妖しく軌跡を描く、飛び散った血嵐、刀、その緋色の髪で彩る舞。
ゴブリンは一太刀でリザードマンは鱗の薄い腹を捌かれ腸を撒き散らす、オークの巨体も星が駆け上がる様な軌跡を見せ首を切り落とす。
俺も敵も見惚れる程の美しさがそこにはあった。
だがその時間も長くは続かない、彼女はただでさえ血を多く流してしまっている。
回復魔法もそこまで多く造血は出来ないので限界は来る、足の止まる瞬間が。
その瞬間を待っていたかのように際奥に居た牛頭の投げた岩に神楽坂さんは弾き飛ばされ壁へ叩きつけられた、即死はしなかったが体の半分が潰れている。
完全回復をかけるため駆け寄ると神楽坂さんは焦点の合わない瞳をしていた。
口からは息の漏れる音しか聞こえない。
「鈴香!鈴香!」そういうと虚ろな瞳が俺を捉えた。
「私の前で傷付きし者、私の力をもって癒「まって…」」
「もう私は無理よ、お腹から下の感覚もない…からだも、段々と寒くなっているもの…」
「大丈夫だ!必ず助けるから!」
「それよりね、きいて…」
彼女は息も絶え絶えに言葉を繋いで行く
「ごめんね……ひどいこと……いって……ごめんね……」
段々と彼女の声が小さくなる。
「それでね………さいごに…………………」
彼女の途切れそうな声を聞くため顔を近づける。
その瞬間神楽坂さんの手が首に回り顔と顔がゼロ距離になった。
「すきに………なって………………………よかった」
その瞬間彼女の体から力が抜ける
体の奥底より力が湧き出る、神楽坂さんの最後の瞬間【英雄色ヲ好厶】の能力が発動した、一瞬だったが、体の傷は治り魔力も全快となった。
愛してくれる人を一人亡くしてこの程度なのかと怒り狂いそうになったが、それとは逆に頭の中の血は引き潮の様にさっと引いていく。
「波よ波よ母なる海よ、その厳しさと命を飲み込む荒々しさ、その全てを用いて我が敵を呑み込み給え―――血嵐の大海」
魔力使いを大量の水を呼び寄せる、並々とそれは部屋を満たし次第に渦となり大嵐となる、そうして出来た大嵐はダンジョンの壁面を削りモンスターを呑み込んでいく。
俺は神楽坂さんの亡骸を抱え風の防壁で耐えている。
そして全てを呑み込んだ海は赤黑く染まりダンジョンの奥底へと消えていった、モンスターの影すら遺さず。
大魔法により上の階層への階段に続く通路を塞いでいた瓦礫は無くなり通れるようになっていた。
神楽坂さんの亡骸を抱え直し通路を行く、魔力も限界まで使い切ったので足取りもおぼつかない…
「セーフエリアがあるダンジョンでよかった…」
やっとの事で階層を跨ぐ階段を登りきった瞬間何かが光った、軽い衝撃と共に視点が落ちていく、最後に見たのは逃げた筈の久墨の笑う姿と忌々しい台詞だった。
「駄目じゃないか…ちゃんと死んでなきゃ…」




