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兄と妹の分析会議

颯の恋路をはからずして邪魔したっぽい部活仲間の谷山に『馬に蹴られないように』と伝え、『どういうこと?』と言われた。有名な江戸時代の慣用句くらい、知っておけ。


残念ながらストレートに伝え、颯の想い人は暴露された。勿論、谷山は言いふらすような奴でないし、颯にも許可は取ってある。

すると、

『へえ、松枝って桜井のこと好きなんか。意外だわ』

と言われた。


まあ、確かに意外と言われれば意外かもしれない。

颯が優男系の控えめイケメンなのは、これまで語ってきたが、どれだけモテるかは諸君に語ったことがないだろう。この機会に申しておく。


結論:めちゃくちゃモテる。


この一言に尽きる。

なのに彼女を作らない硬派なところも、またよい。女子の好感度ぶち上がりだ。

学内では、颯のタイプはどの女子か?という大論争まで巻き起こり、女子の派閥が生まれ、その結果何故か「低身長の小動物系女子」という結論が出た。

何故かは、知らん。興味ない。

多分、身長の高い男子は低い女子が好き!みたいな謎の偏見が採用されたのだと思う。何故だ。


という訳で、選べられたのは、高身長クールビューティー桜井さん。

大衆の予想を裏切った…というより大衆が好き勝手言っていただけだが、まあ、あんまり接点なかったし、意外だなとは俺も思ってる。

そういや、いつから好きだったんだろうな?

今度訊いてみよう。



部活を終えて、俺は昇降口に向かいーーーーー



そして、鞄を床に落とした。

どさり、と中に入ってた教科書類が床に叩きつけられた音がしたが、それどころではない。

呆然としている俺を、部活終わりの生徒たちが抜かしていく。


居ない。

弓道場の電気は消えてたのに、弓道部の来海が居ない。

毎日一緒に帰ろうって、約束は…?



スマホの電源を入れると、新着メッセージがホーム画面に出ていた。

来海からである。

『ごめんなさい、先に帰るね』


「……………」


俺はスマホの電源を落とした。鞄を拾い、校門を出て、駅まで歩き、電車に乗って、また歩いた。

我が家にたどり着いた。

がちゃり、と玄関のドアを開けた。


妹が夕飯のために、米を研いでいた。うむ、ありがとう。

ちなみにそれどころじゃない。


俺は鞄をソファに放って、キッチンのカウンターに肘をついた。妹はこっちを見てくれさえしない。無視しないで?


「なあ、翠どうする!?どうすればいいんだ俺は!?事態は思ったより深刻だ……っ!来海に避けられてるんだが!?」

「うわ、何。いきなり帰ってきて、何叫んでるの」


返事は返してくれたが、翠はやはりこっちを見ようともしない。米をじゃこじゃこ研いでいた。ありがとうだけど、冷たくない?

和泉にみたいに、お兄ちゃんにも優しくしてくれていいんだよ?


聞いてくれないらしいので、シャツの袖をまくり、夕飯作りに兄は参加することにした。手をよく洗って、食材を冷蔵庫から取り出す。


「今日、ハンバーグがいい」

「ほい、分かった」


ふ、()い奴め。中学1年生も、まだまだお子様だな。可愛いらしい夕食のリクエストである。


「お兄ちゃん、ハンバーグ好きでしょ?」

「……え…あ、そういう……いや、自分で作って自分の好きなもの食ってもな……」

「まー、私も手伝うから。何か落ち込んでるみたいだし。好きなもの食べたらちょっとは元気出るでしょ。話も聞いてあげるから、2人で作ろ?」

「妹と来海しか勝たん!」


淡々としてくるのに、こうやってたまに甘いとこ見せてくれる妹……!

和泉の『翠ちゃんのギャップが好き』発言が今まであんまりよく理解しきれてなかったが、今分かった。弱ってる時にコレされたら、好きになるわ。俺は今豆腐メンタルだから、すごく沁みました。

なるほど、なるほど。


「で?どういう話?」

「うむ……実はーーーーー」




俺が一連のすれ違いを翠に話すと、翠は眉を上げた。

小さく口を開いた。


「え。2人で知らない間にそんな壮大なすれ違いしてたの。全然気付かなかった。和泉も何も言ってなかったし。せめて私が知ってれば、すぐにお兄ちゃんに教えてあげられたのにね」

「それなー」


ボタンのかけ違いって、恐ろしい。

何気ない日常の選択次第で、いくらでも未来が変わってしまうとは。


もし、俺と来海が付き合っていることを、来海の口から1ヶ月前に聞いていた和泉が、翠に話していたらどうだっただろう。俺の暴走した彼氏探しも、すぐに解決したんだろうか。

………うーん、五分五分だな。

俺、来海が絡むと頭悪くなるらしいし。


翠は米を炊飯器にセットして、ぽつり、と呟いた。


「………何で、和泉、私にお兄ちゃんたちが付き合い出したこと、教えてくれなかったんだろ」

「うーん。翠は、俺の方から話聞かされてると思ってたんじゃないか?」

「………そうなのかな…………」


翠は納得の行かない顔をしていた。父親に似て、表情で感情が他者に伝わりにくい翠ではあるが、兄である俺には流石にある程度分かる。

翠は、「違うと思う」という確信めいた意志を目に浮かべている。ただ、この妹は、それを言葉には出さなかった。


どういうことだろうか。

では、和泉は何故翠に言わなかったのか?

俺には、分からん。

俺も、来海も、実際に口に出すかは別として、考え方はストレートだしな。


うむ、薄々勘付いていたが………翠と和泉はどうも両想いのくせに難しい恋愛をしてる。

今朝の様子のおかしかった和泉を、思い出す。

でも、あんまり兄が干渉しすぎてもなぁという躊躇いがあったので、訊いたりはしなかった。


「………そもそもさ。バレンタイン当日のお兄ちゃんと来海ちゃんの様子が気になるんだけど。流石にお兄ちゃんが間抜けすぎるでしょ。分かるでしょ、雰囲気で」

「いや、俺が悪いよ…?俺が悪いけど、でも、でもなぁ、分からなかったんだよ………」

「え?どんな感じだったの」

「うむ、聞いてくれるか妹よーーーーーー」


そういや、まだ語ったことなかったな?


そもそもすれ違いは何故生まれたのか。

すれ違いの原因はメッセージカードだとしても、それだけで何故こんな悲劇は生まれたのかーーーーー



俺は翠の促しで、朝から夕方まで過ごしたベッタベタの今年の来海とのバレンタインデートについて語るーーーーーーーー、





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