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今度は彼女が暴走する朝がやってきた

メッセージカードは手に持っていて角が曲がるのも嫌なので、ひとまず来海の部屋の机に置いた。後で回収する腹づもりだ。


その時俺は気付いた。


え、ちょっと待て。

これで俺に告白しようとしてくれたってことは、ここに俺への告白の言葉が書かれてあるということーーーーー!!


見たい!

めっちゃくちゃ見たいんだが!!

来海は何て言葉で、俺に告白しようとしてくれたんだ!?


でも、今は来海の誤解をとくのが優先だ。

くっ、お前のことは、後でじっくり堪能するから、そこで大人しく待っとけ諸悪の根源にして家宝級のカード!


俺は部屋を出て、慌てて一階に降りた来海を追いかけた。

来海は、「ふぇぇん!」とキッチンで朝ご飯の支度をしていた都さんに後ろから抱きついていた。

都さんは、「あらあら」と不思議そうにしながら、特に来海に理由も訊かずに、いつも通り料理していた。

こういう時、案外、都さんはドライだ。


俺は料理中の都さんの邪魔をしてはいけないと、少し離れた位置から、来海に声をかける。


「く、来海っ、頼むから俺の話を聞いてくれ…!」

「うわーん、私が碧くんの彼女じゃなかったなんてぇ、……しかも、あのメッセージカードのせいで時間なくなっちゃったよ、今日は碧くんに朝ご飯作る約束してたのに……!」

「ありがとう!俺も食べたかった!でも、それは今はいいんだ来海!それより大変、可及的速やかに、解決しなければいけないことがーーーーーぼはぁっ!?」


俺の後頭部がクッションで殴られる。


来海は都さんにコアラ状態でしくしく泣いてる。都さんは料理中。遼介さんも多分、もうこの時間は出勤している。

そんな芸当ができるのは、ただ今1人しか居ない。あまりに予想だにしない、後ろからの刺客だった。


振り返ると、和泉が立っていた。クッションをソファに投げて定位置に戻し、和泉は苛立った様子で俺を見ていた。


「うっさい、碧兄ちゃん」

「ええ!?」


嘘だろ……?

いつも実姉に叱りこそすれ、俺には基本的に優しい和泉が………?碧兄ちゃん、と後ろをついてきてくれてた弟分が。

中学生になり、反抗期を迎えたのか。


俺はショックを受けた。来海の誤解は、まだいい。こじれた原因も理由もはっきりしてるし、最終的に行き着く場所は見えてる。

しかし、温和な和泉が突如として反抗期になった理由は、皆目見当もつかなかった。

そんなに和泉を怒らせてしまったのか。


「す、すまん………」

「…………あ……あ、いや!ご、ごめん、何でもない!何でもない……ごめん、碧兄ちゃん、…羨ましくてつい…」

「和泉?」

「顔洗ってくる」


和泉がはっとした表情をしたのち、俺に背を向けて洗面所へと引っ込んで行った。


どうしたんだ和泉は…?

昨日から様子が変だ。

いつもは絶対言わないのに、うちの妹と大倉家に泊まりたいとか言ってたり。悲しそうな顔をしていたり。


俺がうざかったのだろうかとも思ったけど、でも何となく違う気がした。和泉があそこまで感情が変わるのは、うちの妹に対してだけだ。

だから、やっぱり……翠と何かあったのか?


「ふぇぇぇ…ん……」


来海の泣き声で、義弟と実妹のことを考えていた俺の意識は全部持っていかれた。すまん、和泉。来海が優先だ。お前の悩みには、勿論、後で寄り添うがちょっと待ってて欲しい!


俺はこのお姫様をどうにかしなきゃならんのだ!


よし分かった。

俺と来海が恋人でしかない明白なる根拠を、提示すればいいのだ。論理で俺は納得させてみせる!


「来海。どう考えても俺たちは恋人だろ?誕生日に俺が告白したのを、忘れたか?」

「忘れるわけないよ…っ、人生で最高の瞬間だったよ?でも、アレは本当は、恋人になったって浮かれてる私に恥をかかせないために、幼馴染のよしみで、可哀想にって、私に告白して虚構を真実にしてくれたんでしょ…!!」

「はぁぁぁ!?んなことある訳なくない!?どう考えても俺来海のこと好きじゃんっ、分かるよな!?」


俺は目をひん剥いた。

何かたった数分の間にとんでもない解釈されてるんだが!俺の一世一代のあの告白に、どうやったらその解釈つくの!?


「碧くんならありえるよぅ……私のこと、幼馴染のくせにすごく甘やかしてきたし……」

「そりゃあ、好きだからね!?好きだからね!?ここ大事!ここ大事だからな!?」

「知ってるよ……っ、私を好きなのは知ってるけど、でもでもっ、恋人関係に昇華する好きかどうかは、分からないと思うの!」

「分かるだろ!?」


んな、馬鹿な!


来海はこういうとき頑固だ。

一度そう思ったら、ずっとそう思い込む。

それが俺との恋人関係に対して、適用されると誰が予想していたであろうか。


来海は都さんの背中にくりくりと顔を押し付けて、都さんはあらあらと安定の微笑み。

いやそんなとこも可愛いけど!親に甘えてる来海も久しぶりで、可愛いけど!


ていうか、都さんにこの会話を聞かれてるのが恥っず!俺、すごい、この瞬間に色んなモノを失ってるぞ?


でも俺は一瞬で、この問題の争点を覆せる切り札を持っているーーー!

この紋所が目に入らぬか!


「指輪は?」


実の父親には、プロポーズかと思われたほど。

来海の誕生日には、来海の理想の告白プランの一環で来海に指輪をプレゼントしていた。

アクセサリーのためじゃないぞ?

本気のやつだぞ。左手薬指の。


「私のことが好きな碧くんは、幼馴染のよしみでくれたの………」


は?


俺は、泡吹いて倒れるかと思った。だが、かろうじて耐え抜き、俺は顔を引き攣らせた。ぴくぴく、と自分の頬が跳ねてるのを感じた。


「…おい、嘘だろ……?!それも、その解釈するのか!?来海、指輪だぞ?ゆ・び・わ!」

「碧くんなら、やるよ……私のこと好きだもん……」

「合ってるのに、何か違う……!多分、何か含んでる意味が致命的に違う……!」

「……ぐす………ひく………」

「な、泣かないで!?俺とのことで泣いてるなら、それは全然なく必要ないことだからな!?俺たちは、恋人です!はい!」

「………ずず……ぐすん……」

「何でだ……!?」


俺は全力で説き伏せるが、来海は全然泣き止む気配がない。どうしたらいいんだってばよ…!

近くに置かれてあったボックスティッシュを差し出すと、来海は一枚取って、ちーんと鼻をかんだ。

俺がよしよしすると、来海はまた泣き出すから、すごく困った。


「ーーーーあ、碧ちゃん」

「はい…?」


ここまで俺たちを口を出さずに見守っていた都さんが、俺の名前を呼んだ。いつの間にかキッチンの上は綺麗に整えられていて、朝食が皿に盛り付けられていた。都さんは料理と同時並行に後片付けまでこなす、優れた家事スキルをお持ちだった。


都さんはいつも通りの微笑みで、リビングにかけられた時計を指差した。

俺もつられて見ると、7時を少し過ぎたあたり。

電車通学組の俺と来海にとっての、家を出なければいけないデッドラインは7時30分ーーーーーー。


「碧ちゃんも、くるちゃんも、そろそろ学校に遅刻するわよ?」

「マズい、遅刻だー!?ちょ、俺、一旦自分の家戻って着替えてきます!」

「はーい。朝食用意して待ってるわねぇ〜」


俺はまだ使う様子のボックスティッシュを箱ごと来海に手渡して、急いで玄関に向かった。


「来海!後で話そうな!だから、絶対、マジで、先に家出るなよ!?2人で一緒に家出るからな!いいか!?来海はいい子だから、待てるよな!?」

「……………」

「ぜっったいに、先出ないでくれ!いいかー!?」

「……………」


くっ、返事がないよ!

でも時間がないから、仕方ないので、家に帰らせていただきます!


ここから、めちゃくちゃ俺は頑張った。爆速で家に帰り、ハンガーから制服をむしり取り、急いで着替えて、宮野家に戻った。


ぜぇ、はぁ、と俺は久しぶりに呼吸困難に陥っていた。こんな走ったの、いつぶりだ。


「……み、都さん、来海は……?」

「あら、くるちゃんならもう家出ちゃったのよう。制服だけ着替えて、髪も整えずに〜」

「おい、来海ちゃん!!」


制服持参しときゃ、良かった!

誰がいきなりバレンタイン闘争始まると思いますか、ええ!?


「碧ちゃん、コレ、おにぎりにしておいたから、くるちゃんと2人で学校で食べて。あと、お弁当作っておいたから、持って行ってね〜」

「すいません、マジですみません都さん!ありがとうございます!」

「いいーえー」


本音を言えば「何故来海が家を出るのを止めてくれなかった?」と思いつつ、頭の下がらない思いで俺はシゴデキ都さんから、諸々の荷物を受け取った。


「ああ、もう、来海ーーっ!待ってくれ!」


俺は慌てて、宮野家を飛び出した。



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