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彼女が作った料理はどれでしょう!

遼介さんと最近のFXの話をして、俺は遼介さんとともにリビングに戻っていた。

食卓には、料亭かよと思う、彩りの良い和食が綺麗に並べられていた。


「はは、碧くんが来てくれたからお母さんも嬉しかったんだろうね」

「お父さん、私も作ったの1品!1品だけど…!」


はい、はい!と挙手をして、一生懸命アピールする来海。おや?と遼介さんは、驚いた顔をした。


「すごいね来海。お母さんと並んでも、遜色ないんだから。お母さんに似て料理上手だねぇ」

「えへへ〜」


遼介さんはつくづく褒め上手だよなぁと思う。俺の目指す道を示してくれるお人である。


和泉も現れて、夕食の席には宮野家と俺の5人が揃った。いただきます、と手を合わせる。美味そうだ。


まずは、小鉢に入っていた春雨と錦糸卵のサラダをいただく。うん、美味しい〜。さっぱりとした風味が主な印象だが、後から効いてくるごま油の風味がいいなあ。春雨だから、スルスルといける。


勿体無いので、半分ほど後に残した。俺は、好きなものは、最初と最後に食べたい派なのである。


次に、メインらしいあさりの酒蒸し。宮野家特製きゅうりの糠漬け、ごぼうのマヨネーズ和え、と順に箸をつけていくが、どれも舌鼓を打たざるを得ない。

流石、和食を作らせたら店出せるレベルの都さんである。


談笑を挟みながら、夕食の会は進んだ。

何故かそこでは、俺と来海の幼少期のエピソードが次々と語られていった。


「碧ちゃんはね〜、くるちゃんが生まれた時からもうベタベタだったわねぇ。当時は赤ちゃん同士の微笑ましい戯れみたいに、私たち両親ズは思っていたのだけれど、成長するにつれて、『あ、これ本物なのねぇ』って、すごく驚いたわ〜。本能って、すごいわね…」

と、都さん。


「…………………」

「碧兄ちゃん、しっかり!しっかりして!」

「碧くん……っ、何度聞いても素敵なエピソードだよ……!そんな、生まれた時から、私のこと…?」


うん。まあ、知ってるよ?

ガキの頃どころか、バブの頃からヤバいのなんて、知ってるよ?

俺の母さんが帰国するたび、しつこく揶揄ってくるから。


ハイ。本能って、スゴイネ。


遼介さんは、はは、と笑った。

「ふふ、お母さん、うちの来海もなかなかだったじゃないか。ほら、赤ちゃんって、何でも口に入れてしまうだろう?碧くんの指を、来海がーーーーー」


「お父さんっ……、やめて、お願いだから、それ以上はやめてぇ……!」

「お姉ちゃんしっかり!負けちゃ駄目だ!」

「く、来海……っ、なんて素敵なエピソードなんだ……っ!俺の指は既に来海がぱくっとしてたか……どうしてその感触を覚えてないんだ、俺の馬鹿野郎ぉ!」

「碧くんっ、言わないでぇー!」


そんな嬉しいんだか、いたたまれないんだか分からない思い出話とともに、夕食は進んで行った。


俺は、最後に、春雨と錦糸卵のサラダを食した。うん、やっぱこれだわ。めっちゃ好み。


ご馳走様でした、と箸を置くと、俺の対面に座っていた来海は、にこにこしていた。


「ねえねえ、碧くん!この4品の中で、私1品だけ作ったんだけど〜、どれか分かる……?」


きらきら〜!と期待に満ちた瞳を、俺に向ける来海。

来海の隣の和泉が、若干顔をしかめた。


「……うわっ。この人、めっちゃ面倒くさい質問してきたよ……」


何か前に似た構図を、鶏のトマト煮版で見た気がするんだが、気のせいだろうか。

来海は、瞳を揺らして、弟の言葉にちょっと拗ねたように言う。


「わ、分かるもん……!あ、碧くんなら、た、多分、分かってくれるもん………」


自信がなくなったのか、段々と後半になるにつれ、声がしぼんでいった来海。

和泉は、やれやれと言ったふうに肩をすくめた。


「お姉ちゃん馬鹿なの?碧兄ちゃんがお姉ちゃんの手料理食べた回数なんて、意外とまだ数えられるほどしかないんだよ?分かるわけがなくない?」

「え……。……た、確かに……?そうだね……?そうだよね………」

「お姉ちゃん、あんまり面倒くさいことばっか言って困らせちゃ駄目だよ。ごめんね、碧兄ちゃん。うちのお姉ちゃんが」

「うん……そ、そうだね………ごめんね碧くん……私は面倒くさい彼女です……発言を撤回します……」


俺は首を傾げた。


「いや、分かるぞ?何言ってんだ和泉は」


普通に分かるに決まってるだろ。

当たり前だ。


和泉が上体を逸らして、オーバーなリアクション。

来海は、目の輝きを取り戻して、顔の前で手を組んだ。


「えええええ!僕なの!?僕がそれ言われる側なの!?」

「碧くん……っ、流石っ、そうだよね〜!碧くんなら分かってくれるって、私信じてた!」


俺はうんうんと頷いた。対面の来海の手を取る。

来海はちょっと伏し目がちになって、でもはにかんだ笑みを俺に向けた。


「ああ。錦糸卵と春雨のサラダだ。見た瞬間に分かった。来海が去年の花見で持ってきてくれた、ちらし寿司の錦糸卵と違わない黄金の輝きを放ってたぞ?あ、これは来海ちゃんの料理だって、もう俺すぐに分かったぞ?うん、この1ミリの細かさが来海の丁寧な性格がよく出てる」

「へ……ぁっ、そ、そんな、細かいところまで分かってくれるなんて……っ!」

「美味しかったよ。来海の手料理、本当にどれも美味しいから、また食べたい」

「うん……っ!あ、明日の朝、も、作るね…?」

「最高か。来海の朝食味わえるなんて、幸福だわ」

「も、もう、碧くんたら……っ」


和泉の口角がピクピクと痙攣していた。


「何だこの人たち……ていうか、碧兄ちゃんは何なの?超能力者なの?」

「和泉。お前も早くこのステージに登ってこい。愛があれば何とかなる」

「いや……碧兄ちゃんの特殊能力だよ多分……」


えー。

そんなんじゃ、翠は渡せないぞ?義弟よ。


ずず、と茶を啜る遼介。


「流石、柊色(ひいろ)の子だねぇ…いや、柊色はここまでではなかったような……?」

「栴檀は双葉より芳し、よ。だって、柊色くんが藍ちゃんと出会ったのは、高校生の頃だもの」

「そっか幼馴染な上に、大倉家の血を引いてるから」

「うふふ」



「碧兄ちゃんとお姉ちゃんは相変わらずだし!お父さんとお母さんは、2人は2人でいったい何の話してんのーっ!?」


和泉は、総ツッコミに走った。






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