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謎のよいしょ団体<<<カプ厨

俺は人助けというのは、それほど嫌いではない。

…いや、人助けというほど、そんな大層なものはしてないので、その発言は一回撤回しよう。


まあ、悩んでいる者に対してちょっくら提案するくらいなら、割と日常的にやっている方ではある。


しかし、それを盲目的に捉えすぎてしまった悲しき連中もいたもんだ。

それが、今俺の目の前に居る謎のよいしょ団体。

俺は彼らに恐ろしいことに「賢帝」などという高貴なように見せかけてくそ痛いあだ名で呼ばれている。

……もしかして、いじめられてる?


俺が明日の保育園でのボランティアに行くという情報を聞きつけ、彼らはそれに従おうとしていた。

いや、保育園児たちの前で、賢帝とか言って俺がいじられる羽目になっちゃったりしたら、マジでそろそろしめるぞ!?


俺は頑固として拒否。


「「俺たち賢帝のような存在になりたいんです!」」

「……いや、く、来るな…」

「「賢帝ーーっ!」」

「だから何なんだそのノリは、さっきから!?」


俺は、ここで部活帰りの来海を待ってるだけなのに!

一緒に帰ろうと思ってうきうきしてるだけなのに!


どうしようかと思っていると、俺の耳に待ち望んでいた人物の可愛らしい声が届く。


「碧くんー!」

「来海っ!」


俺は、破顔した。

俺の姿を見つけて、廊下の向こうからこちらの昇降口まで手を振りながら、来海がとたた、と走って来てくれた。

俺の手を取って、ぷらんぷらんと揺らした。

身長差のある分、来海が俺を見上げるようにして、ごめんなさいの顔をした。

か……っ、可愛……っ!


「ご、ごめんね碧くん…っ!すごい待たせちゃったよね…?…部活が長引いちゃって…ご、ごめんね」

「ううん。俺、10秒前にここ来た」


いや、全然待ってないぞ?

ごめんなさいしてくる来海はもう語れないほど可愛いお顔してるが、謝る必要なんて全然ないのに。


「「いや、賢帝それは流石に嘘……」」

「あ?」

「「何でもございません!」」


よいしょ団体が余計な口を挟んできそうだったので、俺は笑ったまま睨みをきかせた。

よし、それでいいぞ。


「うふふ。碧くん、帰ろうー!」

「ああ、帰ろうか」


俺と来海は靴を履き替えて、昇降口を出ようとした。

その後を慌てて追ってくる、よいしょ団体。


「え、ちょっと待ってください賢帝!」

「明日の件の話」

「まだ終わってなーーー」


しかし、俺と来海を追いかけようとした彼らの肩を、さらに後ろからガシっと掴む影があった。

めりめりと彼らの肩に指が食い込んでいく。


「よおよお、空気読めやお前ら。あの学校中が待ち望んでいたカップルの邪魔をするんじゃねぇ」

「ねー?くるあおの甘い空気ぶち壊す者は何人たりとも許さないよー?あはは」


ぎゃぁぁぁと男たちの断末魔が俺たちの背後から聞こえてきた。ご愁傷様。

悪いが俺には最強の味方が、ついていたのだ!


助かったぁ。

流石だぜ、カプ厨たちの方が強かったな。

入学式の日からずっと「くるあお親衛隊」なるものを結成し、徐々にメンバーを増やしていき力をつけて学校を支配し、来海の誕生日に告る腹づもりだった俺に、まだ告白しないのかと脅迫してきただけはあるぜ。


もう来海とは恋人同士になったわけだし、彼らは俺への反勢力を勝手に排除してくれる心強ーい味方である。

はは、今までの親衛隊トップとやり合ってきた苦労が身に染みるぜ……

マジで当時は殺されるかと思った。


校門を出て、俺たちは薄暗い夜に包まれた駅までの道を、2人で寄り添って歩いた。


俺はそっと来海の手に触れる。

来海はそれだけで、分かってくれた。小さく微笑む横顔が俺の視界に映る。

いいよ、と言っているのが伝わってきて、俺は安心して少しの勇気を出せた。


何かこう……改まると、その、シャイな自分が出てくるというか。

だから、来海が安心させてくれたのは、すごく助かった。


その手は、俺がずっと……ひそかに憧れていた、恋人の形で指が絡まっていた。


それは、俺にとって人生で初めてで。

手を繋ぐことはあっても、繋いだ手越しにこうやって恋人だと実感できた瞬間は今日が初めてだーーーー


「…ね、碧くん」

「うん…」


ふふ、と来海は俺の方を窺うように見た。感慨深くなってるのバレたかもと思って、決まり悪かったのは内緒だ。


「…今日くらいちょっと遅くなってもいいよね…?」


俺は、小さく目を見開いた。

俺が叶えたかったのを知ってたのか、それとも来海も同じ気持ちだったのか。


どっちでも、幸せだった。


俺は微笑む。

「…悪い子だ来海ちゃん。何だそれ、最高じゃないか」

「ふふ」

「何買う?」

「アイス!」

「…風邪引かないようにな?」

「風邪引いたら、碧くんがお泊まりして看病してくれる?」

「する、めっちゃする」


彼女が嬉しそうに笑った横顔は、多分恋人の新しい初めての思い出として、この温もりと一緒に、俺の中に残るんだろうなと思った。


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