宿題の答えはすぐに出る
いつの光景だろうーーーーー
ああ、あの朝か。
中学の頃の……
俺は、来海に押し倒されていた。廊下の床には、来海のお気に入りのブラシが転がっていた。
「来海ちゃん、どう、した?」
「嘘つき……私だけ、て言ったの……碧くん、私だけだって、言ってくれたのに……、私には、碧くんしか居ないのに……」
「どうし、」
た、と口にしようとして、消えた。
両手首に、痛みが走る。
きゅぅっと、締め付けられた手首に、俺は顔を歪めた。
「来海ちゃん、痛い…」
「碧くん、碧くん….…、どうして……、見なきゃ良かった……、碧くんが、この部屋に居ないとき、外で碧くんが何してるかなんて、見なきゃ良かった……碧くんがこの部屋でかけてくれた言葉も、やっぱり、信じなければ良かった…!.」
「………っ、く、来海ちゃ、っ、」
俺の手首がもっと締め付けられ、思わず声を上げそうになった。
違う。痛くない、こんなの痛くない。
俺がしっかりしなくてどうするんだ。
きっと、俺が何かしてしまったのだ。
泣いている来海の心の方が、何倍も痛いんだよ。
しっかりしろ。
俺がしっかりしなきゃ、駄目だ。
駄目なんだよ。
倒れるから。
2人とも、倒れてしまうから……
「何が、あった……?」
「碧くんが、映ってたの……皆んな、すごく楽しそうで、碧くんは、そこに居たの……私には、碧くんしか居ない……でも、碧くんは、違う……」
「…何の、話、だよ来海ちゃん。ちゃんと、教え…」
「分かってた……分かってたもの……!碧くんは、私以外にいっぱい居るなんて…っ、でも、碧くんはこの部屋で言ったのに…!私だけって、言ったのに!私だけって言ったの!!なら、そんな薄っぺらい言葉、最初から私にかけないでよ!!」
「何言って…っ、!」
華奢な来海の力になんて、男の俺はいくらでも抵抗できた。
だから、全部受け入れた。
「嘘つき!嘘つき嘘つき!碧くんの嘘つき!約束が違う!守れない約束なんて、要らない!!」
「嘘なんて、吐かない……っ」
「あの日から、ずっと私の味方は碧くんしか居ないんだよ……っ、私を、捨てないでよ……っ、」
「ずっと味方だよ…来海ちゃんを、見捨てるなんてしない…」
「それが嘘なんでしょ!!もう、やめてよ!!」
「何で、何で分かんないんだよ来海ちゃん…っ、俺は、」
「やめてよ!!嘘つきっ、碧くんの嘘つき………」
来海の涙が止まらない。
どんなに想いを込めても、来海に届かない。
どうして。
お願いだから、もう泣かないでくれ。
俺は、俺はーーーーー
******
目が覚めた。
過去の回想は、そこで途切れた。
何の….
何の回想だっただろうか。
夢を見ると、すぐに忘れてしまう。
「あれ……」
自分の頰が濡れているのに気付いた。
泣いたのだろうか。
どうして?
幸せに、悲しむ余地なんてない。
胸に残るこの感情が、俺は不思議でならなかった。
ーーーークルミを更生させるべきだと思うよ。
幼馴染の男の宿題の答えは、簡単だ。
更生させる必要なんてどこにもない…
いいや、それを更生と呼ぶ方が間違ってる。
どうしてアイツは昔から、俺に甘いのだろう。
来海じゃない。
もし更生すべきだとしたら、それは、きっと。
ーーーー罪を犯した俺の方だ。




