花冠
「俺の幼馴染…あ、今はもう彼女なんだけどな?それはもう昔から可愛くて可愛くて…」
「ちょっと待って下さい。私は、今何を聞かされてるんですか?」
「でさ、小学校の帰り道に花屋があったんだけど、よく2人で立ち寄ったりして。それはもう花の似合う子で…前世はお姫様か天使だな」
「あの……」
「俺思ったんだ。花冠似合うなって。今年の誕生日はそうしようって、齢9の時に思い立った」
「………あの…」
「俺は来海の誕生日は、2ヶ月前から準備するんだ。でさ、やっぱり本物の花であげたいなと思って、花屋に弟子入りして」
「………はい?」
「そこでフラワーアレンジメントの基本を学び、花冠を作る技術を磨いたんだ。どうしても、誕生日に最高の状態の花冠をプレゼントしたかった」
「………は、はあ…」
「もちろん、誕生日当日来海は喜んでくれたさ。でも気付いたんだ」
「何をですか?」
俺は、肩を落とした。
「試作品は18個作ったんだが、誕生日って、1個しかあげられないなって…」
「馬鹿なんですか!?」
いおちゃさんの鋭いツッコミが入った。俺は慣れた反応なので、笑い飛ばす。
なに、いおちゃさんが暗そうな顔してたから、俺のアホな話でもしてあげようと思ったんだよ。
うむ、花屋がくれたリボンがやたら長かったのが助かったな。俺はそれを巻きつけて、最後の仕上げをする。お、なかなか上出来じゃないか?
ガーベラ、スイートピー、エピデンドラム。淡いピンクの系統で揃えられた花冠。
花屋へ弟子入りしていたあの期間の腕は、まだ残ってくれてたようだ。
これなら、ののちゃんも喜んでくれるのでは。
「…はい。完成したぞ」
「え!?いつの間に…っ!?」
来海とののちゃんの元へ向かう道の途中で、なんとか間に合わせた花冠に、いおちゃさんは目を丸くした。おずおずと俺から花冠を受け取る。
「え、え…?」
「まあ、間に合わせにしてはなかなかなもんだろう?」
「あ、貴方…何者ですか…っ?」
「なに、ただのそこら辺の幼馴染狂だよ。あ、もう彼女か。いやー、彼女かぁ。彼女なんだよなぁ……」
「さっきからちょくちょく挟んでくる惚気みたいなのは何なんですか!?」
「すまん。俺は今、誰でもいいから惚気たくて仕方ない時期なんだ」
「何この人ーっ!?」
そんな簡単に言ってくれるな、いおちゃさん。そこに漕ぎ着くまで大変だったんだぞ?
両想いだと思って告白しようと思ってたら、来海に彼氏居ること発覚するわ、もう一人の幼馴染がむちゃくちゃやってくるわ、俺は何度脳破壊されたか。
惚気たくて仕方ないは、仕方ない。(キリッ)
いおちゃさんは、俺の方を見上げた。
「………はあ、びっくりしましたけど…でも、その…ありがとうございます。こんなに良くしていただいて」
「いえいえ」
「………のの、喜んでくれるかな…」
いおちゃさんは、まだ不安そうな顔だった。妹の宝物を不注意のために壊してしまい、妹が泣きながら迷子になったことが、相当彼女の中で悔いが残っている様子だった。
「愚問だ。いおちゃさんが妹を想って選び、俺が丹精こめて作った花冠だぞ?」
「………いおちゃさん…?…はい」
「大丈夫。何よりさ…」
「……はい…?」
正直15分にも満たない間柄だが、それでもいおちゃさんの人となりというのは、十分に伝わってきた。
律儀な人だと思う。
花がピンクのものばかりだったのは、きっとののちゃんの好みだからだ。
「いおちゃさんは、妹思いのいい姉なんだ。部外者の俺が分かるくらいだ。つまり、妹の…ののちゃんなら、誰よりもそれを分かってくれてると思うぞ?」
「………っ!」
安心させるために、いおちゃさんに向かって、俺は笑って強く頷いた。
いおちゃさんは、花冠をそっと胸の前に抱えて、俯いた。ぽつり、と溢した。
「……ありがとう、ございます……。そんなこと、初めて言われた……」
「そうなのか?俺でも分かるくらいなのに?」
「親は…もっといいお姉ちゃんしなさい、て。私は、頑張ってるつもりだったのに……」
「……そか。じゃあ、ますますののちゃん本人には分かってもらわないとなぁ。本人がいおちゃさんをいいお姉ちゃんだと知ってるのなら、それ以上の言葉なんてないよ。いおちゃさんは、いいお姉ちゃんということで、片がつく。自信持ってればいいよ」
「ふふ、そうですね……!」
いおちゃさんの顔にようやく笑顔が浮かぶ。うん、良かったぜ。俺は、一仕事を終えた気分だった。
「あの……貴方の名前って……」
「ん?ああ、俺は、大倉碧だ」
「……大倉さん。えっと…長篠伊緒と申します」
「どうも、長篠さん」
「ど、どうも……」
今更ながら自己紹介し、俺たちはようやく1階に居る来海とののちゃんの元へ辿り着いた。
来海は、すぐに俺に気付いた。
「あ、碧くん!」
「悪い、来海。待たせた」
「ううん、全然大丈夫だよ!ののちゃんとお話してたから、楽しかったよ。小さい子って、可愛い…」
いい子かて。
可愛いのはどっちだよ、お前だよ。
こりゃ、やはり未来予想図の妄想が捗るわ。
思わず笑みが自然と溢れた。
「のの!」
「いおちゃん!」
姉妹も再会を果たした。2人でぎゅう、と抱きつきあっていた。微笑ましい限りである。
俺が作った花冠も、ののちゃんは喜んでくれている様子だった。頭の上に乗せて、わあ、と感動していた。
長篠さんは、そんなののちゃんを優しく撫でていた。
俺も妹がいる身だからな。昔を思い出して、何だか懐かしくなった。
俺と翠にもそんな時期が………
時期が……
……あれ、ないな。
お互い俺たち兄妹は、それぞれ幼馴染に夢中だった。
うんまあ、別に仲は良い方だと思うけどね?
「そういえば、フライト大丈夫?もう搭乗時間過ぎてるんじゃ……」
姉妹に俺は、声をかけた。
そもそも俺と来海が、ののちゃんの家族探しに急いでいたのは、ののちゃんが既に搭乗開始した飛行機に乗る予定らしいから、だった。
はっ!と長篠さんは、目を見開いた。
「あ、本当っ!!急がなきゃ!!」
「……おおう」
こりゃ大変だ。
「あ、えっと、大倉さん!大倉さんの彼女さん!ありがとうございました!ええっと、あのっ、大倉さ…」
「いおちゃんー!」
「あ、うんっ、行こっか!ま、またいつか…」
長篠さんが俺と来海に手を振ってきたので、おう、と俺は、片手を上げて応じた。来海も微笑んで、片手を振り返す。
2人が去って行った後。
「………ねえ、碧くん」
「ん?」
「あの花冠、碧くんが作ってあげたんでしょ?」
「おう。よく分かったな…?」
「私に昔、誕生日にくれるために碧くん練習してたなって、思い出したの」
「そっか、覚えててくれたのか!?嬉しい」
相手の記憶に残るプレゼントになっていたことに、俺はたまらなく嬉しかった。
「私のために頑張ってくれたのに…今日はあの子のために使っちゃったんだ……そっか…」
「来海?」
「…………ううん。何でもない!良かったね、ののちゃんすごく喜んでくれてたね。流石、碧くん〜!」
「いやぁ、来海に褒められると照れてしまうな…」
俺は、微笑んだ。
姉妹の軽い手助けをし、それを来海に褒められたことで、俺は大変気分が良かった。
そして。
言えばいいのになぁと、静かに思った。
最近ブックマークが減っていくのは何故だろう…泣
増えてくれとは言わない…
減らないでほしいーーー!!!(魂の叫びby作者)
読者の皆様は、一人の反応ひとつで作者にすごく影響与えてくれる存在です。
いつもありがとうございます。
完結までついてきてもらえるように、作者も頑張る所存です。という改めて決意しました……とほほ。
そして思った。すべては、この頭のおかしい主人公のせいなのではないかと…!
うむ。ちょっとは抑えて欲しいが、これからもどんどん暴れさせます。(矛盾)
なぜなら、この物語はこの男の成長がテーマなので。
見守っていただけると、幸いです。




