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父親の勘違い

来海は俺が着替えるというと、今度は部屋を出て行った。それはそれでちょっと残念な気がしたが、事を急ぐのはよくない。

距離感バグってたとはいえ、幼馴染時代もそういう意味ではお互い…というより俺がきちんとさせていた。え?本当だよ。


まあまあ、内に潜んでいる男子高校生の欲求がいつかやらかしそうな気もするけど、多分大丈夫だ。


俺は着替えを済ませて、階段を降りた。

ダイニングテーブルに座っている来海の頭が見えた。

部屋では真正面から見てたので気付かなかったが、後ろで編み込みしてる、可愛い。

編み込みは自分で出来ないって言ってたから母親の都さんにやってもらったんだろう。うーん、俺も練習しよっかな。そしたら…言わずもがな。


だが、来海の向かいにもう1人。


妹の翠によく似た綺麗な顔だ。しかし、本日も安定の能面である。父親の柊色だ。


「あれ?父さん居たのか」

「…ああ。仕事が落ち着いてな」

「へぇ」


仕事で多忙な父さんが日曜の朝に家に居るなんて、珍しい光景だった。しかも来海と座って話をしているようなのが、驚きである。

この父親に女子高生と話せる度量があったのか。


ちなみに、朝食がテーブルの上に用意されてあった。まことにできる父親である。スマイル以外で非の打ち所がない。スマイル以外で。


その寡黙さで、どうやってあの自由人の母さんと結婚したんだろ。唯一開示されてる情報は、父さんと母さんが高校の同級生ということくらい。どう考えても、交わらなそうな男女が何故結婚という運びになったのか。謎である。


「………良かったな」

「何が?」

「渡せたみたいで」

「………その節は、ども」


表情は一切変わってないのに、何だろう。なんか、含みの感じる目線だった。

父さんまで母さんみたいなことしないでくれ。子供の恋路につっこまないで……親に把握されてるって、気まずいすわ。


何より、俺の来海に関して頭おかしい部分知られてるだけに、気まずいんだよ……。

いっそ翠みたいにボソッと「キモ…」って、言ってくれた方がマシ……いや、それは傷付くから嫌だな?翠よ、もっとお兄ちゃんに優しくして。


この寡黙な父さんから何故俺が生まれたのだろうか…?


謎は深まるばかりである。


朝食の席につく前に、俺は父さんのそばに寄って、来海に聞こえないように、ぼそりと呟いた。


「………ありがとう。まあ、…その……父さんのおかげだ」


俺は気恥ずかしくなりながらも、素直に感謝を口にした。


本当は誕生日に来海に指輪を渡すつもりはなかったし、何なら決意代わりに捨ててしまうところだった。だが父さんに助言を貰い俺が行動したことで、おおよその抱えていた問題が解決に向かった。


見つからないメッセージカードという大問題を1つ抱えたままだが……。

ひとまず、来海と恋人になれたのは父さんによるところが大きい。


「……。ああ」

短い返事だった。父さんの表情は変わらない。だけど一瞬、口元が緩んだ気がして、俺は見間違いかと目を擦る。

見間違いだった。


……ま、そりゃそうか。


俺が朝食の席につこうとしたところ。


「……良かったな、プロポーズ受け入れてもらえたみたいで」

「………ん?」


父さんの口から、聞き逃せない単語が聞こえてきた。

俺はもう一度父さんのそばにカムバック。


「………父さん」

「………何だ?」

「プロポーズじゃない」

「………プロポーズ……」

「プロポーズじゃなくて、告白」

「告白?」

「あの指輪は恋人になった記念みたいなものだから」

「恋人になったキネン?」

「どうしたんだ父さん」

「ああ……お前が頭おかしいのを忘れてたな」


失礼な!

告白で指輪渡す男だって居るーーーー


居るーーーー


居る………


「……俺って、頭おかしいのかな」

「まあいいんじゃないか。来海ちゃんがいいっていうなら」

「うん、そうだよな!」


そもそも告白の時指輪欲しいって言ったの来海だし。

俺はその願いを全力で叶えただけだ。

そもそも幼馴染だし?例外ケースだし?


父さんは、僅かに首を傾ける。

「……ああ、俺はてっきり2人はとっくの昔に恋人だと思ってたんだ。お前があんな渋ってたから、内心ドン引きながら、ああ俺の息子はプロポーズをするんだと思ってた」

「俺、あの瞬間父さんにドン引かれてたのか!?」


顔に出ねぇから全く分かんねえよこの父親!

ていうかプロポーズだと思ってるのも、おかしいだろ!天然か!


「………困ったな。プロポーズだと思ってたから、俺はさっき来海ちゃんに『愚息を一生よろしく』と言ってしまった」

「さらっと、すごいこと言わないでくれるか父さん!?ていうか、愚息じゃねぇよ!失礼な!」


父さんのまさかのカミングアウトに、俺は慌てて来海を見た。

来海はえへへへ……と、宙を見ている。


「お義父さんに『よろしく』って言われちゃったぁ……えへへ……ふふふ……」



大好物のスイーツを前にした時のような幸せの溢れた笑みを浮かべていた。


おうおう、やってくれたぜ父さん。


まあ、いいけど……。


どうせいつか現実になるしな?




うーむ、順調すぎて怖い……


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