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彼氏特定班発足会②

******


「私、彼氏出来ちゃった!」


とっても嬉しそうに報告する来海に、ああやっと大倉くんと落ち着いたのねって、思ったのよ。

ほら、今まで貴方は、定期的に来海のことで私に探りを入れてくるわ、面倒な頼み事をしてくるわで、大変だったから。

やっと解放されるーって、私も嬉しかったのよ。


「もしかして、昨日のバレンタインで?」

「そうなの!私から告白したの〜!どうしようかなって思ってたけど、思ったより短い時間で決心ついちやった!自分でも、びっくりだよ〜」


******


「おい、ストップ」

「…ちょっと、何よ?」

話を再開したばかりなのに俺が止めたもんだから、桜井さんはじとーっとした目で俺を見た。


「俺は、十何年も告白に時間かけたのに……まあ、結局させてもらえなかったんだけど……っじゃない!何だ、来海のあの発言は!」

「え、どの辺?」

「『思ったより短い時間で決心ついちゃった!』のところだよ!それって、例の彼氏とはまだ出会って間もないってことだよな…?短期間で恋に落ちたって話だよな?」

「えー。それは深読みしすぎじゃないかしら大倉くん。単に、告白しよう!と思い立ってから、実行に移すまでが短かったって、話じゃないの?」

「まあ、そういう見方もあるか……ただなあ」


俺としても、桜井さんの説を推したいが。

その発言でちょっと、引っかかる案件が出てきた。


「もう、続けるわよーーーー」


******


来海の方から告白したって聞いて、私は大倉くんの意気地なしって思ったわ。

だって来海は告白されたいタイプじゃない?

待たせすぎね馬鹿ねーって思った。


「ちなみに、どんなふうに告白したの?」

「ふふーん。バレンタインチョコの箱の底にメッセージカードを仕込んでおいてね!そこに告白の言葉を書いておいたの!もちろん、自分の言葉でも『好き』だって伝えたよ!そしたらね、向こうが『俺も好きだよ』って〜!!!」

「あら、やるじゃない来海〜!良かったわね!おめでとう!」

「うん!」


弾けんばかりの笑顔を浮かべて、来海は可愛かったわ。

私たちはこの日パンケーキ屋で、何段にも積み重なったふわふわのパンケーキとともに、その恋の成就を祝ったのーーーーー



******


そこで桜井さんの話は終わった。


「…………そうか」

「身に覚えはない?」

「……この世の悲しみを濃縮したレベルの心で言わせてもらって、身に覚えがない。……やっぱり、俺じゃない」

「………そう」


どうして俺じゃないんだ、なんてこの数日の間にいくらでも思った。


だけどどんなに想っても。


想いは、過去の確定された事実を、超越しない。



「…だけど、来海の彼氏を特定するヒントは、得た気がする」

「ええ!?嘘っ?そんなのどこにも……」

桜井さんは珍しく大仰な反応を示す。

俺は、顎に手を当てた。

考え事をしているとき、つい触ってしまう。


「俺は基本的に、来海の予定を把握している」

「……前から思ってたけど、結構ドン引くわ…」

「ドン引くな。来海とお互いに部活の予定表の写真を毎月送り合って、友人や家族と出掛ける日は報告し合ってるって、だけだ」

「ねえ、やっぱり来海の彼氏って貴方よね?」

「だからこの世の理不尽へのやるせなさを全て濃縮したマインドで申すが、あの告白エピに聞き覚えがない」

「…おかしい……こんなことって、あり得ないでしょ…」


俺もあり得ないと思ってるよ。

両想いじゃなかったという事実に、震えてますよ。

俺は人差し指を、ぴんと立てた。


「…………ただな。1日だけ、俺が把握出来なかった日がある。冬休み中だ。先月の初旬……」

「……っ、へ、へぇ?」


声が上擦って、急に桜井さんが慌て出す。

クールと見せかけて、ポーカーフェイス下手か。

バレバレだわ。


俺は桜井さんにじりじりと詰め寄る。

「………やっぱり知ってたんだな、桜井さんよ。俺が前に訊いた時は、はぐらかしてたよな…?」

「っし、知らない!知らないわよ!」

「ほう?話が違うじゃないか。来海の彼氏探しに、いくらでも協力してくれるって、言ったよな?」

「ううううう……っ!!」


自分の発言を反故にするような真似は出来ないと思ったのか、桜井さんは唇を噛む。悔しそうな顔半分、恐れ顔半分ってところだ。


「お、怒らない…?」

「俺が怒ると言ったら桜井さんが言わないのなら、怒ると言わずに桜井さんに言わせて俺は怒る」

「やっぱ、怒るんじゃないっ!もう!」

「冗談だ。怒らないから、言ってくれ」

「本当に?」

「本当」

「本当に、本当ね?」

「はいはい、本当だって」


こんなに念を押してくるとは。

俺も別にそこまで怒りのラインは、低くないぞ。

一体、その日何があったのやらーーーー


「実は……その日、そのー、ちょっとした集まり?みたいな……」

「あー、はあ、男女混合だったと。別にそれくらいじゃ怒らないって。桜井さんも居てくれたんだろ?」

「…………」

「おい、待て正直か。だから、信頼してるんだが、正直だな!?」

「お、怒った?」

「う、怒らないって。いつも桜井さんには助かってるし。たまには行けない日くらいあるだろ」


桜井さんはしっかり者なので、俺もついつい来海の件で頼ってしまう。

まあ、確かに桜井さんなしで男女混合のグループの中に来海が放りこまれていたと思うと、不安になってくるが。

過ぎたことだ、仕方ない。


俺の言葉に、桜井さんはほっと息をつくように、胸を撫で下ろした。


「はあ〜っ、良かった、すっきりしたわ〜!合コンの件、叱られなくて良かったぁ!!」

「………は?」

「あ」


口を押さえる桜井さん。うっかり、口を滑らせたらしい。

一気に顔が青ざめていく、桜井さん。


「………あ、いやあ?ち、違うの…違うのよ…あの日はちょっとした手違いがあって……!」

「別に男女混合で遊んだからって俺は怒らないさ。だけどな桜井さん………」


俺はにこりと笑った。


「カレカノ作りが最たる目的の合コンは、話が違うんだよなあ…!?」

「……あー、そうよね!もう、そうだって知ってたから、言わなかったのにー!!」

「おい、何で来海が合コン行っちゃってるの?…は、まさか来海、そこで例の彼氏と出会ったんじゃ……!?おい、桜井さんどういうことだー!!全部吐かせるまで教室帰さないからな…?」

「はあ、もー!!この幼馴染過激派がぁ!!」


俺は桜井さんの肩に手を置いて、じじじ…と詰め寄る。

最初に空けておいた俺たちの距離は、もうだいぶ縮んでいた。


これでも俺は、合コン疑惑で気が動転していたのである。

俺は重要な情報を握っている犯人を追い詰める刑事のようなつもりだった。カツ丼と照明があれば完璧だったろう。



ーーーーだから、気付かなかったのである。

「うふふん。何してるのかな、碧くん?」


階段の一番上の段に、来海が立っていたのである。

まさかの母親から受け継ぎし、撫子笑顔を浮かべていた。

元々の顔立ちが華やかな来海による撫子笑顔は、来海の母親の都さんとは、違う圧がある。


宮野家の撫子笑顔は、嵐の前兆。

皆んな、覚えておこう!ここ、重要だから!


俺はすっ…と、桜井さんの肩から手を退けた。

元の位置に身体を戻す。

ややあ、と来海に笑いかける。


「い、委員会お疲れ様。びっ、びっくりしたぞー、急に現れるから」

委員会終わりの来海に労いの言葉をかけて、俺は何とか状況を打開しようとした。


しかし、来海の撫子笑顔は深まるばかり。

「……うふふん。誤魔化しても駄目だよ、碧くん。さっきのはギルティです」

「ああ、いや、さっきのは、違うんだ…!なあ、桜井さん!」

「え、ええ…!」

桜井さんに目でヘルプを求めると、桜井さんも加勢に入る。

だが、焼石に水!


にこにこにこ。

「そもそもこんな所で、2人で何をお話してたの?」

「………」

沈黙しか起きない。

来海の彼氏特定班が発足してたなんて、言えないのだ。

「ふぅ〜ん、言えないんだぁ……」

来海の口がとんがってきた!


思うに、来海のジェラシーに火をつけてしまったのは、この場所のせいだと思う。

しかし教室では誰かに聞かれるし、中庭は恋人たちの憩いの空間。

こそこそ話が出来そうなのは、ここしかなかったのだ!

が、来海に言わせれば「何でこんな暗がりに?」という心境であると、推測いたしまする……。


「あ、そう言えば朝に碧くんのスマホ見ちゃった!碧くん、一昨日唯ちゃんに電話してたでしょ〜?私、メッセージはいいけど、電話はダメだーって、言ってたのに、もう」

「…………!???」


い、いつの間に!?

今朝、俺が来海を膝の上に乗せて、ごめんごめんしてた時にか!?

多分、来海を泣かせてしまったショックで、意識が明後日に飛んでしまってたのだ。

まったく来海が俺のスマホを操作していた記憶がないでございます……。

ちなみに電話というのは。

来海に彼氏が居るのかどうかで、俺が桜井さんに電話かけた時のことを指してるのだろう。

つ、通話履歴消すの、忘れてた……!!


「碧くん」

「はい、来海王女…」

「今日、私部活オフになったの!碧くんもお休みだよね?」

「そうでございます」

「うふふん〜、じゃあ今日は私の部屋で一緒に過ごそうね〜?」

「もちろんでございます……」



ああ。

これ、あれだぁ……。

久しぶりに甘〜い仕置き、やられちまうパターンだぜ………





何されちゃうんだーーーーー。

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