絆されてしまった……
ホームルームが始まるギリギリまで、来海王女の頭を優しく撫でてあげ、その後俺は机と仲良しになった。
教科書を読み上げる教師の声を聞き流しながら、俺はぐったりとしていた。
来海を甘やかすのは、俺にとって生きがいであり、ただの享楽だ。
だから、疲れているのは別の理由だ。
来海には、つい最近出来た彼氏が居る。
そして、その彼氏は来海の弟曰く、愛が重たいと。
来海が浮気しようものなら、その浮気相手は処され、来海はお外に出れなくなってしまう。
正直、俺はだいぶ重たい部類だと思っていたのだが、それを凌駕する来海の彼氏の愛。
考えただけで恐ろしい。そんな男を引いてしまうとは、来海もなかなかの豪運である。
その来海の彼氏が、俺の悩みの種だった。
さきほど俺と来海は、ただの幼馴染あるまじき行為に及んでしまった。
もしも来海の彼氏がこの学校の生徒だった場合、俺は抹殺対象に認定され、今週中に消される恐れがある。
来海も然り。
ーーー『くるちゃんのこと、本気で奪いに来なさい』
今朝の都さんの言葉を思い出す。
都さんとしては、ぽっと出のヒーローよりも、幼馴染の俺を推してくれているのだと思う。
だから、略奪しろと。
だけど、それは俺の信念とか、流儀に反する。
俺は愛は重たいが、好きな人の幸せを願えるタイプである。
……だけど、多分、無理なのだ。
仮に、略奪はしなかったとしても、俺は身を引くことが出来そうにない。
今築かれている幼馴染のポジションを、動けない。
根っからの来海大好き全肯定人間が、来海を拒むことなど不可能。
だけど、来海も俺を拒まないから、この状況は詰んでいる。
どうすればいいんだ?
……ていうか、来海の彼氏って誰だ?
その時、俺はこの状況を打開する案を思いついた。
感動のあまり、席を立った。
「………ああ!そうか、本人に会いに行けばいいのか!」
「授業中に何言ってるんだ大倉。座りなさい」
「先生、俺天才かもしれません!」
「天才なら、この英文を即興で訳してみろー」
「人間の長きにわたる食料獲得の歴史において、共生という側面は、これまでの学者が予測してきたものよりもはるかに大きいものであり、食事を一緒に囲うことは人類の文化を一般的に発展させてきた様相を示している。あ、落ち着いてきたので座ります。ありがとうございました」
「……本当に訳せちゃうのやめろ…扱いづらいだろ不良優等生め……」
俺が思いついたのは、そう。
来海の彼氏を探し出し、彼に誠心誠意の土下座をするのだーーーーー!
古来より受け継がれし和の心で、来海の彼氏を丸め込もう作戦である。




