彩葉伯亜─面接
今日の収益化記念配信も当然リアルタイムで見ていたわたしは、ハルくんがお酒を飲み始めたところで一緒に飲み始めた。
わたしもお酒は弱くて、気持ちがどうしようもなくなった時しか飲まないから、ハルくんがお酒に弱いって聞いたら、些細な共通点に嬉しくなった。
ちびちびしか飲んでいないくせに、少しだけ気が大きくなってしまったわたしは、とうとうハルくんにRAINを送ってしまった。
真っ当じゃない手段で一方的に知っていた連絡先を、いつもいつも眺めてはそれだけで満足していたのに、アルコールのせいかハルくんの酔った無防備な姿のせいか、ついに一線を超えてしまった。
配信中に送ったメッセージは、当たり前だがすぐに既読にはならない。
配信が終わって既読がついたのが分かると、ただでさえアルコールで早くなっていた血流は更に加速する。
わたしとハルくんが繋がった高揚感、違法に連絡先を手に入れた罪悪感、今にも通報されるのでは無いかという恐怖に、わたしは人生で一番興奮していた。
『今から面接するからビデオ通話かけるね』
え?
こんな返信は想定してない。
混乱する私を待ってくれるつもりは無いらしく鳴り響く着信音。
ビデオ通話という単語に頭を揺さぶられたわたしは、慌ててPC版のRAINを立ち上げる。
Webカメラよし、マイクよし、スピーカーよし。
…録画ヨシっ!
『あっ、やっと繋がったぁ遅いよ〜? 減点!』
いきなり減点されてしまった。
「あっ、あっ、あっ、えと、えへへ…は、伯亜ですいつも見てます、あっ、好きです…わた、わたし、あの、ごめんなさい、急に連絡して…で、でもあのっ─」
『えー、なんて? 伯亜ちょっと画面暗く無い? よく見えないんだけど』
会話だ! いま、わたし推しと会話してる! 名前よんでくれた! わたしの名前!
溢れ出す多幸感に脳がドロドロに溶け出していくような錯覚を覚える。
暗い? 確かに部屋の電気をつけていなかった。
「あっ、あ、ごめんなさい、すぐつけます、すみません──アイタァ!」
慌てて立ち上がり、スイッチを押すと、そこらに散乱していた服に足を取られて派手に転んでしまった。
『あは、あはは、なにやってんの!? おもしろ…って─ブフッ、ちょ、部屋でもちゃんと服くらい着た方がいいよ』
スピーカーからハルくんが大爆笑している笑い声が響いている。
『あは、あははは、ひーっ、んふふふ、ゲホッゲホッ─』
いや笑いすぎ…。
確かにアホみたいな格好で、馬鹿みたいに大股開いて転けた自分は滑稽だったかもしれないけど、そんなに笑われてしまうと──ってあれ?
いまわたし推しを笑顔にしてる?
あっやばい、いまわたしすごいかも。
「えへ、えへへ、わたし面白かったですか? もう一回こけましょうか? えへへ…」
『うーん、キミ採用!』
採用されてしまった。
…え? なんで?
『いやー、好きだわ。ぽんこつコミュ症ずぼら無自覚えっち娘は性癖テスト100点! メガネも添えてバランスもいい! 採用!』
ふぁ? いま好きって言った? 両想い…ってコト!?
「あっ、あっ、わたしも好きです…あっ知ってるか…えっ? じゃあ、けっ、結婚ですかね。うふ、ふふふ、あっ、わたし引っ越しますね。ハルくんの住んでるスカイタワーマンションの42階、まだ部屋余ってましたよね。えへへ、すぐ引っ越します、ね。待っててね」
『おーナチュラルに住所特定してくるじゃんこえーな…まぁいいか! よろしくな!』
やった。やったぞわたし。
ちゃんと言質もとった。証拠も録画してある。
…確かに舞い上がってるのは自分でも分かる、そしてハルくんがお酒で前後不覚になっているのだってちゃんと分かってる。
でも、全く思ってないなら好きなんて言わないよね。
少しは期待してもいいんだよね。
忘れないように、ちゃんと録画データもRAINで送ってあげるからね、ハルくん♡




