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flappers 0  作者: さわきゆい
hunter's eyes
16/25

6話

遊歩道を戻る途中で須藤が後ろから追いついてきた。

「ご苦労さま」

それだけ言って、よく晴れた空を仰ぐ。

「うーん、仕事日和だなぁ」

のんびり伸びをする須藤に隼也はため息をついた。

「参ったね。まさかの2人とは」

車へ戻り、あかりに状況を説明し終えると

須藤はそう言って車内のメンバーを見渡した。あまり参っているとも思えない口調、どちらかというと、楽しんでいるようにさえ聞こえる。

「クラスは?」

「2人ともキューピッドクラスです」

アイの答えに須藤は腕組みをして、しばし考えた。

「とりあえず、女性2人は今日はここまでにしようか。あかり、悪いけど地下鉄で帰ってくれる?」

「了解です。この処理だけ終わらせますね」

あかりがパソコンを操作していた手を一旦止めて頷く。

「桜木くんは残業ね。もう少し付き合って」

「…わかりました」

ため息混じりで返した隼也だが、それほど嫌がっている様子はない。

「今、警察にいる広田に顔写真見せて、素性聞いてる。女性の方はともかく、男の子の方は小学生みたいだし。慎重にいきたいからね」

アイに向かって須藤はそう説明した。後の2人はだいたいの仕事の流れは分かっているようだ。

「じゃあ、後は警察からの連絡待ちだから。おつかれさま」

須藤の言葉に見送られ、あかりはパソコンを座席に置いて、車を降りた。アイも続いて降りる。

「んー」

と思い切り背伸びしてから、車の2人に手を振って、あかりは歩き出す。五分ほど歩けば地下鉄の駅に着ける。アイも一緒に歩いて、まずは自転車置き場へ向かった。

「すごいね。本格的な初仕事で結果、出したじゃない」

にこやかにあかりが話しかけてくる。

「はい、なんとか。緊張しましたけど」

今になって、肩にガチガチに力が入っていたことに気付いた。でも、緊張しつつもどこか楽しんでいた気もする。

刑事かスパイにでもなった気分。心の中にはそんなワクワクした高揚感もあった。

なにより、自分の能力がなければ今回の件ではウィンガーの特定は難しかったはずだ。須藤ですら予想外の展開に驚いていた。

車に戻ってからの隼也が自分と目を合わせようともしなかったのは、半信半疑だったシーカーの能力を認めざるをえなかっただろう。そう思うとハイタッチでもしたい気分だが、さすがにあかりとハイタッチするわけにもいかない。

上がるテンションを抑えつつ、駅であかりと別れると、全速力で自転車を漕いだ。


「ただいま!」

いつもより勢いよく玄関を開けてしまう。

母はいまの時間ならきっといるはずだ。

仕事の内容は話せないけれど、自分の能力が大いに役立ったことは報告したい。

その母が、リビングから飛び出すように出てきたので、アイは息を飲んだ。

母の表情はアイが言おうとしていた言葉を飲み込ませた。

青ざめ、怯えたような顔。

シーカーの能力がわかって、アイロウの職員がやってきた時も、こんな顔を見たな、とアイは思った。

「か、海人が、いなくなっちゃったの…」

母の震える唇はそう漏らした。語尾がかすれる。

「え…いなくなったって…」

時たまだけど、一人でコンビニに行くこともあったし、部屋にいないくらいで騒がなくても…そう言おうとしたアイの目の前に、母は手にしていたメモ紙を突き出した。

カレンダーの裏紙だ。ボールペンで走り書きされた文字は海人のものだった。

―仕事が見つかりそうです。落ち着いたら連絡するので、心配しないでください―

それだけだ。

そんなはずはない、とアイはすぐに思った。昨日の夜の会話をおもい出す。

「うそ…でしょ…」


その頃、須藤は公園の駐車場の車でパソコン画面を見ていた。

隼也は先程まで須藤がいた東屋に向かわせて、少年グループの監視をさせている。

ついさっき、警察の連絡担当になっている宮本から電話が入っていた。

『女の方はマリーと呼ばれてるね。ただ、本名かどうか…3カ月ほど前からメンバーになっているらしいが、素性は広田はよく知らないと言ってる。この女とリーダーが中心になってスリの計画は立てているそうだ。

少年の方はナンジョウ レン。14歳。子供っぽく見えたみたいだが、中学生だ。父親は日本人。母親は南米出身。両親は飲食店を経営していて忙しいらしく、ほったらかしにされてるんじゃないかと広田は言ってるよ。学校にもあまり行っていないと本人は言っているみたいだが、彼のことも広田がどのくらい知っているか怪しいな。2人がウィンガーだとも知らなかったと言ってるし、言われてみれば思い当たることは色々ある、とは言ってるが。広田自身も、グループに加わって間もないからな…』


その後に送られてきた南条蓮の情報を見ながら、須藤は腕組みして

「ふうん」

と鼻を鳴らした。彼にしては珍しく、眉間にシワを寄せて画面を凝視している。

少年の素性より、マリーと呼ばれている女性の情報が全くないことが、須藤には問題だった。国籍すらわからないとなると、日本国内で保護するしかあるまい。マリーにしてみれば、願ってもない幸運かもしれないが。

「さて、どうしようかな…」

須藤は画面を軽く指で弾いた。


隼也は東屋にやってきたアベに広場の少年グループを教えていた。アベはたまたま近くの体育館で行われていた柔道の大会を見に来ていたのだという。

ウィンガー2人の確保のため、召集をかけられたのだ。

「幸か不幸か近くに居合わせちまいました」

アベは実に残念そうに言った。

「だよな、せっかくの休日に」

しばし、2人でため息をついて広場を見下ろしていた。

少年達は2人の恨めしげな視線など知る由もなく、バスケをしたり、談笑したり、思い思いに過ごしている。

隼也から情報の引き継ぎを受けたアベは、ため息をつきながら広場の方へ向かった。

隼也は広場にいたことを見覚えられていると怪しまれるからと、東屋で待機するよう命じられている。

ただ、アベにしても休日の公園を1人散歩しているのが自然に見える男ではない。あまり長い時間待機せずに済めばいいが、と隼也は考えた。

だが、動きが出るのは早かった。

広場にアベがたどり着いて間もなく、隼也の携帯端末が震えた。

『捕まった男に電話してます。大丈夫ですかね?』

アベからのメールに、隼也はヒヤヒヤしながら電話している少年を探した。

(!あれか…)

赤いTシャツのリーダーの隣で電話をしている少年がいる。

また、端末が震えた。

『大丈夫。対策はしてある』

須藤からのメールだった。ややおいて、今度はアベから

『動きます。ポートメッセのイベントの話してます』

隼也は立ち上がった。程よく、アドレナリンが体に巡っていく感覚。口元に笑みが浮かぶ。

さあ、今日のメインイベントだ。


ポートメッセは絵洲市の港近くにあるイベントホールだ。ここからだと車を使って30分ほどかかるだろう。

隼也の端末が震えた。須藤からの音声着信だった。

「ポートメッセでゲーム関連のイベントやってるね。狙いはそのお客さんだろう。ぼくはちょっと寄り道しなきゃならないから、アベくんの車で彼ら追いかけて。警察の方にも連絡は入れてある。とりあえず、女性の方は絶対目をはなさないように。素性が分からないだけに、逃げられたら追跡が大変だ。現場に着いたら、メール入れて」

一気に指示を出すと、隼也の返事も待たずに電話は切れた。

まあ、須藤が一方的なのはいつものことだ。こんな時に寄り道というのは気になるが、どうせ聞いてもはっきりした答えは返してもらえないだろうと、この頃は諦めている。

少年達の車はどこにあるか確認してあった。ナンバーと車種も記録しているし、行き先も分かっているとなれば、尾行はそう難しくない。


少年達が分乗したワゴン車とスポーツタイプのコンパクトカーを数台後ろから追いながら、アベの車の方がよっぽど目につくな、と隼也は思っていた。

黒のスポーツタイプセダン。アベの体格でも座席には悠々と座れる。マフラーをいじっているらしく、アクセルをふかすと重低音が響く。

(今時の若いヤツでこんな車乗るのいるんだな)

見た途端、苦笑いが出そうになったが、明らかに新車のそれはアベの自慢らしく、否定的な意見は引っ込めておいた。

この職場くらいの給料がなければ、隼也やアベの年代の人間がたやすく買える値段ではない。

隼也の場合、目下借金の返済にかなりの額を取られているから車には金はかけられないし、経済的な問題がなくてもこんな車を買う気はなかった。

今、隼也が使っているのは中古の小型RV車だが、この車より、よっぽど使い勝手がいい。

アベの運転はなかなかうまかったが、この手の車好きによくあることで、ブレーキアシストなどの補助運転システムは全てオフにしてあるようだ。

自動運転システムが標準搭載されている車が主流になりつつあるこの世の中でも、ハンドル、アクセル、ブレーキ操作全てを自分でやらないと気のすまない人間はいる。

自衛隊時代は非常時対応のため、マニュアルモードでの車両運転は訓練時の基本だったが、市街地を移動する時はオートモード利用が普通だった。

アシスト機能がついた車に慣れてしまうと、全て人間がコントロールする車に乗るのは緊張するものだ。おまけに、アベはともするとアクセルを踏み込みたくなる様子が見られる。普段は相当飛ばして乗っているのだろう。

少年達の車は、というと、2台ともそこそこ年期が入っている。色も形もいわゆる"よくある車"で、逃走する際に目立ちにくいようにあえてこんな車を選んでいるのではないか、と隼也は推察した。


会場近くで、ワゴン車が急に路駐し、バラバラと少年達が降りてきた。コンパクトカーからもマリーと蓮が降りて後に続く。

急いでアベに近くのコンビニに入るように指示した。

アベも慌ててハンドルを切る。

「車の連中は逃げる時の足として付近で待機ですかね」

「そういうことだろうな」

コンビニで車を降りるとすぐに隼也は少年達の姿を探した。

幸い、マリーのすらりとした後ろ姿がすぐに見つかった。


「あと15分くらいで着くかな。駐車場にスムーズに入れればいいんだけど」

マリーの姿を追いながら、須藤に連絡を入れるとそんな返事が返ってきた。

「あと2時間くらいで終了ですから、帰り足の人間も多くなってきてます。アベくんも駐車場はそう待たずに入れたって、さっき連絡きました」

数歩先で、蓮が手に持ったジャージの上着をマリーに渡し、靴紐を結び直している。2人に合わせて隼也も立ち止り、周囲のブースを見回した。

「会場周りながら、状況見てる感じですね。すぐには動かないと思います」

「警察の方もマークしてるはずだから、ぼくらが気にするのはウィンガーの2人だけでいい。ぼくの到着前に確保することになったら女性の方優先で抑えといて」

あのマリーがどれくらいの身体能力を備えているかは分からないが、女性とはいえ、甘く見てはならないのは分かっている。せめて、アベが合流してから確保に向かいたかった。


ウィンガー2人は会場を一回りすると、外へ出てしまった。屋外の広場にも結構な人がいる。どうもイベントに合わせて、フリーマーケットが開かれているらしい。

そして、さらにその奥の方にステージブースが作られ、結構な人だかりができている。フリーマーケットの方はボチボチ店じまいをしそうなブースもある中、ステージの方へ人の流れができている。

2人を見失わないようにしつつ、アベに場所を連絡しようとすると肩を叩かれた。

「よかった!建物入ろうとしたら桜木さんの姿が見えて!」

息を切らせたアベだった。

「結構遠くに停めさせられて…急ごうにも人多いし」

汗を拭うアベに隼也は前を行く2人を指した。

「他の連中はバラけてどこにいるかわからない。警察も張ってるから、オレらはあの2人に集中すればいいって」

アベは頷いて、

「ああ、ポップメイトのライブやるんですね」

マリー達のことでなく、ステージのイベントの話題を振られて、隼也は一瞬言葉に詰まった。

「ポップ…メイト…?」

「育成ゲームですよ。知りません?」

隼也は首を振った。ゲームなんてここ最近やっていない。

「ご当地アイドルを育てるゲームなんですけど、絵州市が舞台の町のモデルなんですよ。商店街の老舗の店のペット達が、商店街を盛り立てるために人間のアイドルになってデビューを目指すんです」

2人の動きを目で追いながらも、隼也はずっこけそうになった。

「ぺ、ペットが…アイドル?わけわかんないな。人気…あるのか?」

今度はアベが首を振った。

「知る人ぞ知る、でしょうね。制作側は市とタイアップしたりしたかったんでしょうけど、うまくいかなかったみたいです」

「詳しいな」

「友達に育成系ゲームのマニアがいまして」

なるほど、そのマニアらしい人々が最前列の座席を占めている。ネコ耳やイヌ耳、鳥の被り物の集団だ。

「まさか、アイツらもそれ見に来ただけとか言わないだろうな」

「いや、あの様子だと違うんじゃないっすか」

確かに2人とも座席の方に向かうそぶりもなく、遠巻きに何が始まるのか待っている感じだ。

マリーは手に持ったショールのような布を何度もたたみ直しながら、時間を気にしている。

ガヤガヤとステージの方が騒がしくなり、いきなり大音響で音楽がなった。


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