【番外編】『影の忠誠――ヴィルゼルとセレヴィス』
このお話は本編の合間にある「主と従者」の静かなやりとりを描いた短編です。
恋愛ではなく、揺るぎない忠誠と友情――ブロマンス(男同士の深い絆)をテーマにしました。
セレヴィスが抱く思いと、ヴィルゼルの「特別な認識」を、少し覗いてみませんか?
夜更けの執務室。
蝋燭の灯が揺らぐ中、机に並ぶ書類はすでに整えられていた。
セレヴィスは背筋を伸ばし、静かにペンを走らせている。
扉が開き、遅れてヴィルゼルが姿を見せた。
「……また俺より先に始めていたのか」
「主をお待たせするわけには参りませんので」
セレヴィスは顔を上げずに答える。その声は淡々としているが、机の上には彼の几帳面な性格を映すように、寸分狂いなく整えられた書類が並んでいた。
ヴィルゼルはふっと笑みを浮かべ、彼の隣に腰を下ろした。
「カナコのことを、どう思う?」
手を止めずに、セレヴィスは返す。
「主に笑みをもたらす方……それ以上の評価は必要ございません」
完璧な忠臣の言葉。
だが、その指先が一瞬だけ揺らいだ。
ヴィルゼルはその微細な変化を見逃さず、視線を彼に向ける。
「……セレヴィス。お前は俺にとって、誰よりも信じられる存在だ」
言葉に込められた温度が、静かな空気を揺らした。
セレヴィスの瞳がかすかに揺れる。けれど彼はただ深く頭を垂れ、感情を隠すように声を低くした。
「恐れ多きお言葉です」
主の幸せを願い、誰より先に歩む。
その影で、胸が軋んでも――決して口にはしない。
彼の忠誠は、黙して語らぬまま、永遠に続いていく。
読んでくださりありがとうございます!
今回の短編は「恋愛ではないけれど、それ以上に濃い絆」を描きたくて書きました。
セレヴィスにとってヴィルゼルは唯一無二の存在。
そして、ヴィルゼルにとってもまた、セレヴィスは「絶対に揺るがない支え」なのだと思います。
少しでもブロマンスの空気を楽しんでいただけたら嬉しいです!




