【番外編⑤】「秘書の仕事は詩の後始末」セレヴィス視点
お読みいただきありがとうございます。
今回は、セレヴィス視点でお届けする番外編「秘書の仕事は詩の後始末」です。
ヴィルゼル様の飄々とした詩心と、セレヴィスの苦労(?)を、少しブロマンス&ギャグ風味で描きました。
この番外編で一旦『天使様』シリーズは区切りとなりますが、もし「また読みたい!」や「このキャラの話がもっと見たい!」というお声があれば、特別編として再び書くかもしれません。
今日もまた――ヴィルゼル様の“詩の時間”が始まった。
深くため息をつきながら、私は書斎の隅に散らばった紙片の山を見つめる。
昨日書いたらしい“恋文”を添えた詩の束だ。しかも封筒の端には、なぜか小さなハートの落書きがある。
……魔族の上位種がやることではない。
「ヴィルゼル様、本日の予定表でございます」
私が声をかけると、彼は筆を止めて顔を上げ、にやりと笑った。
「セレヴィス、僕の詩の感想を言ってくれるのは、君だけだろう? 頼むよ」
――いや、それは断固無理だ。
だが、彼の頼みを無下にできない私は、結局静かに頷く。
ヴィルゼル様は、朗々と一節を読み上げる。
「君が笑えば、この胸がきしむ――どうだい?」
「……耐久性の低い胸をお持ちなのですね」
「おや、僕の胸板は君も知ってるだろう? 硬いはずだが」
――なぜそんなことを自信満々に言えるのか。しかも私に。
心の中で頭を抱えつつ、主の背中を見つめる。
この人の奇行と情熱は、もはや芸術か狂気か、その境界線上にある。
その時、書斎の扉が静かに開いた。
「セレヴィス、さっきの詩の返事はまだかい?」
「まだ読了しておりません、ヴィルゼル様」
「では、今ここで読んでくれ。君の声で」
「……なぜ、私が」
「君の声は落ち着くからね。僕の詩と相性がいいんだ」
――そんな理由で部下に恋文朗読をさせる主が、この世にどれほどいるだろうか。
しかし視線を逸らすと、彼はわずかに口元を緩めた。
「それに……君が読んでくれると、本当に胸がきしむんだ」
……やめてほしい。言葉の意味も、声色も。
私の耳が熱を帯びるのを悟られぬよう、無表情を装い、詩の紙束を手に取った。
この先も、彼の詩の後始末――そして時折、心臓の後始末も――続くのだろう。
今日も一日、静かに覚悟を決める。
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今回は、セレヴィス視点でお届けする番外編「秘書の仕事は詩の後始末」です。
ヴィルゼル様の飄々とした詩心と、セレヴィスの苦労(?)を、少しブロマンス&ギャグ風味で描きました。
この番外編で一旦『天使様』シリーズは区切りとなりますが、もし「また読みたい!」や「このキャラの話がもっと見たい!」というお声があれば、特別編として再び書くかもしれません。




