番外編④「リーディアとダメ王子、その後」
今回は「天使様」本編のその後、番外編です。
主人公カナコはあまり出ませんが、あのダメ王子キルファンと婚約者リーディアの物語になります。
魔王討伐後も続く王宮でのすったもんだ、そして意外な結末――
コメディ半分、ちょっと胸が温かくなる後日譚をお楽しみください。
魔王討伐からしばらく。
カナコたちは、まだ王宮に滞在していた。
……とはいえ、穏やかな日々とはいかない。
「聖女様!今日こそお会いしたい!」
「いやー、今日は用事があるので」
カナコは、廊下の向こうから走ってくるキルファン王子を見つけると、反射的に曲がり角へ逃げ込む。
そもそも王子には接近禁止令が出ているはずなのだが、次期国王という肩書きで押し切られると、護衛も止められない。
王命は王命。だが、その立場は日々怪しくなっていた。
そんな王子を案じた婚約者――リーディアは、何度もお茶会に誘ったり、さりげなくカナコとの接触をやめるよう促していた。
しかし返ってくるのは冷たい言葉ばかり。
「茶会など行かん!」
「お前などに興味はない!」
「お前さえいなければ、私はカナコ様と――」
刃のような言葉に、リーディアの心は少しずつ削られていった。
そしてある日、公務に向かう途中――
疲労で視界が揺れ、そのまま意識が遠のく。
気づけば、誰かの腕の中。
「大丈夫か!」という低い声。顔を上げると、それはアースファルトだった。
後ろには、驚いた表情のカナコたち。
そこで、記憶は途切れた。
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目を覚ますと、王宮の一室。
隣にカナコが心配そうに座っていた。
「あっ、起きた!大丈夫?」
あんなに酷いことを言ったのに――どうして、そんな優しい顔をしてくれるの?
その瞬間、涙が溢れた。
それでも、どこかで「王子も来てくれるはず」と願ってしまう自分が嫌だった。
カナコはそっと頭に手を添えた。
「事情、侍従さんから聞いたよ。……しんどかったね」
優しい声に、胸が張り裂けそうになり、リーディアは子供のように泣いた。
「生まれたときから決まっていました。私は王子の妻になるのだと……。王妃になり、国をよくせねばと!」
「でも王子は私に興味がない。政務の手伝いも虚しい……。それでも、私にはこの生き方しか……」
気づけば、カナコの顔が鬼の形相になっていた。
「あのクソ王子!!リーディアさんをここまで追い詰めやがって!」
あまりの言葉に目を丸くするリーディア。
しかしカナコは、すぐに優しいトーンで続けた。
「リーディアさん、今まで本当によく頑張ったね。もうあんなヤツやめちゃいなよ。あなたなら他に素敵な人、絶対いる」
「……でも、婚約は家同士の――」
その時、ドアが勢いよく開いた。
国王と、リーディアの父である宰相が立っていた。
「うちの愚息が本当に悪かった、リーディア嬢」
国王は深くため息をつく。
「あやつは次期国王としての器に欠ける。廃嫡するつもりだ。リーディア嬢、婚約破棄でどうだろう?もちろん、公の場では我々の責任とする」
宰相も頷く。
「お前はよくやった。王子に好意があると思い静観していたが、それがないのなら……破棄して構わん」
さらに国王は続けた。
「もしよければ――キルファンの弟マリウスとの婚約はどうだ?年は五つ下だが政務もこなし、何よりリーディア嬢を慕っている」
突然の提案に、リーディアは固まる。
そんな彼女の手を、カナコが握った。
「それいいじゃん!王妃教育も活かせるし、何より好きって言ってくれてるんだよ?もうキルファンとはお別れ!」
リーディアは一瞬ポカンとし……やがてクスクスと笑った。
「聖女様、そのお言葉、淑女としてどうかと思いますわ。でも……ありがとうございます。そして、今までごめんなさい。護衛の方にも謝罪いたします」
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こうして、リーディアとキルファンは正式に婚約破棄。
新しい皇太子にはマリウスが立ち、リーディアと婚約。
やがて二人は仲睦まじい夫婦となり、国王・王妃として国を発展させた。
ちなみにキルファン王子は庶民に降格され、何か叫んでいたらしい――が、誰も耳を傾けなかったという。
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最後までお読みいただきありがとうございます!
リーディアは本編では苦労人ポジションでしたが、この番外編で幸せになってもらえて私もスッキリしました。
キルファン王子のその後は……また別の番外編で描くかもしれません(笑)
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