番外編① 魔王、今日も全力で“見守る”
こんにちは、透子です!
今回は本編完結記念の番外編として、あのヴィルゼル様の“魔王になったあとの日常”を、ちょっぴりコメディタッチでお届けします!
彼がどんな風に政務を放り出し(!?)、どれほど聖女を“見守って”いるのか……
そっとのぞき見してみましょう♪
「……見つけたよ、聖女カナコ。今日も実に、いい笑顔だね」
「主。それを言うために、わざわざ民家の陰に潜まないでいただけますか」
セレヴィスは頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。
魔王となった今も、ヴィルゼルは変わらず“見守り活動”を継続中。
彼の言い分はいつも同じだ。
「いやいや、これは“視察”だよ。“監視”とは違う。“見守り”だ。大事だろう?」
「それを主が言うから説得力がないのです。しかもその望遠魔石……どう見てもただの盗み見では?」
「失礼だな。これは“遠距離型安心確認装置”だよ。科学と魔術の融合さ」
「まさか名前を勝手に捏造されました……?」
そんな会話をよそに、カナコは市場でパンを買い、小さな子どもに分け与えていた。
その優しい仕草に、ヴィルゼルの目が細くなる。
「……はぁ。あの笑顔、まさに聖女そのものだね。癒し効果が高すぎて、世界が浄化されてしまいそうだよ」
「主。声が漏れておりますし、鼻血も出そうです」
ちなみに、ここ最近のヴィルゼルの政務放棄率は上昇中。
その理由はもちろん――カナコ観察優先のためである。
「……あ。セレヴィス、ちょっと待って。あの角、曲がるだろう? 今、僕も散歩中のふりをして“偶然出会う”チャンスじゃないか?」
「主、それで昨日も三回失敗しておられましたよね」
しかしヴィルゼルはめげない。
この日も、草むらから高速でハンカチを拾って風の精のせいにしたり、
子どもに泣かれながら“通りすがりの謎の人”として助けたりしていた。
「……あれは決してストーカーではない。見守り活動だ。愛とは、見返りを求めず、そっと支えるものだからね」
「では政務にも、そっと支えていただけますか?」
「……政務は……その……また後で、ね?」
やがてカナコがその場を立ち去ると、ヴィルゼルは遠くから静かにつぶやいた。
「ふふ、今日も元気そうだった。……それだけで、十分さ」
「主。十分ではありません。政務が山積みです」
「まったく、セレヴィスは厳しいな。……けど、ありがとう。君がいなければ、僕はとっくに変な人扱いされていたかもしれない」
「いえ、今も充分にされております」
「ひどいなぁ。でもまぁ……いいさ。
彼女が笑っていてくれるなら、僕はそれで幸せだからね」
そんなヴィルゼルの背中を、セレヴィスはそっと押した。
「……主。せめて魔王としての威厳も、少しだけ取り戻していただければと」
「ふふ、じゃあ今夜は“魔王っぽい”日記でも書いておこうか。
タイトルは……『今日のカナコ観察報告』で、どうだい?」
「……もう、自由にされてください」
こうして世界は、今日も平和だった。
……たぶん。
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ここまで読んでくださりありがとうございます!
魔王としての風格? 威厳? ……そんなものより“カナコの笑顔”が大事なヴィルゼル様と、それを支えるセレヴィスさんの日常、いかがでしたでしょうか。
「本編のラストだけじゃ物足りない!」という方に、クスッと笑っていただけたら嬉しいです。
今後も番外編など追加予定ですので、ブクマ&お気に入り登録でお知らせをお待ちいただけると励みになります!




