「戦、兆す」
※今回は「世界が動き出す」転換回です。
魔王アザルグレインの次なる一手、そして《五将星》の招集……ついに戦の兆しが――!
でもご安心を。カナコ組も相変わらず、赤面したり分析されたりしてます(笑)
いつものテンポ感で読んでください!
――魔王城、地下深く。
影も光も届かぬ閉ざされた空間に、六つの“気配”が集っていた。
「……以上が、《影喰い》からの報告です」
低い声が響いた瞬間、空気がびりりと揺れる。
魔王アザルグレインは無言のまま、玉座の影から立ち上がった。
赤い瞳が、一瞬だけ喜色を帯びる。
「……なるほど。想像以上だな、“聖女カナコ”」
「浄化の力は、単に瘴気を祓うだけではない。
空間の魔素構造そのものを書き換える可能性があると」
「つまり、我らの“根源”すら浄化されかねない、と……?」
「“神性”の力だとしたら、妥当な帰結でしょう」
沈黙が走る。
それを破ったのは、アザルグレインだった。
「ならば、“先手”を打つまで。――《五将星》を招集せよ」
「……五将星、全員を……!?」
「この時代を変える戦が始まる。……全てを終わらせるために」
――王都・王宮。
緊迫した空気が、玉座の間にも流れ始めていた。
「……これが、魔王軍の動きとされる報告です」
王宮魔導官が差し出した文書に、王は険しい眉を寄せた。
側に控える近衛団長も、重々しく頷く。
「《黒翼団》の全隊、そして……《五将星》の招集まで。
明らかに“開戦”の構えだな」
「急ぎ、全軍に動員命令を。民間の避難も――」
「お待ちを」
王の言葉を遮るように、澄んだ声が響いた。
静かに進み出たのは、カナコだった。
その隣には、アースファルトと……なぜか当然の顔をして立っているヴィルゼルとセレヴィス。
「……ヴィルゼル、君は本当に“こちら側”につくつもりか?」
そう問うアースファルトに、ヴィルゼルは肩をすくめた。
「何度言わせる気だい? 今さら魔王軍に戻るなんて面倒だし……カナコと一緒の方が楽しいからね」
「……楽しい、だけ……?」
アースファルトが苦い顔をする横で、カナコが頬を赤らめて目をそらす。
「そ、そんな風に言われると……照れるじゃない」
「おや、これは赤面反応。非常に貴重だ」
セレヴィスがそっとメモを取り始める。
「ちょ、何書いてるんですか!? やめて!? それ国家機密じゃない!?」
「主が微笑む頻度と、聖女様の赤面頻度には相関があるかと」
「分析いらないからーー!!!」
にわかに王宮の空気がゆるんだその瞬間、
王が苦笑まじりに口を開いた。
「……聖女よ。
この国は、そなたに全てを託すことになるやもしれぬ。
だが、我ら王宮も、全力で支援しよう」
「はい……必ず、守ります。この世界を」
カナコは真っ直ぐに王を見据え、答えた。
その声には、迷いも、照れもなかった。
そして――
西方の空には、不穏な魔の気配が渦巻き始めていた。
戦の火蓋は、静かに、確かに落とされようとしていた。
魔王サイド、さらに本格稼働しました……が、
相変わらず味方側では、ヴィルゼルが言いたい放題&セレヴィスがメモ取り始めてて平常運転です(笑)
カナコの赤面、久々に書けて楽しかった……!
次回はさらに深まる戦略会議、そして“彼ら”の登場予定です。お楽しみに!




