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「魔王、動く」

※今回はいつもより少しシリアス寄りの回です!

魔王サイド、ついに動き出します……!でも、読者目線な“あの人”も登場(笑)

ぜひ緊張感とちょっぴりのニヤニヤ、両方味わってください♡



――魔王城。

重厚な漆黒の石壁に囲まれた玉座の間は、静まり返っていた。


その中央に立つのは、魔王アザルグレイン。

血のように深紅の瞳と、漆黒の角、そして薄く笑う口元が、恐ろしいほど静かだった。


「……“聖女”の力が、予想を超えているな」


そう呟いた声には、焦りではなく――冷たい興味と、微かな警戒が滲んでいた。


 


玉座の下にひざまずくのは、魔王直属の部隊《黒翼団》の中でも、最古参にして最凶とされる者たち。

その中の一人、鱗状の仮面をつけた女が進み出る。


「浄化活動の報告、すべて確認いたしました。

 瘴気を完全に浄化できる者など、数百年ぶり……いえ、前例がありません」


「その力、ただの“奇跡”ではあるまい」


「……はい。何らかの“神性”に起因する力である可能性が高いと」


「つまり――放っておけば我らの支配に干渉する“脅威”になりうる、ということだな?」


 


静かに、しかし確実に空気が凍りつく。


魔王アザルグレインの瞳が、玉座の前にひれ伏す配下たちをなぞるようにゆっくりと動いた。


「このまま“聖女”が勢力を拡大すれば、魔族内部の統制にも乱れが出る」


「では……潰しますか?」


背後から問うたのは、獣のように背の高い魔族の男。

その言葉に、アザルグレインは笑みを深くする。


「否――まだ時ではない。こちらの“力”を測るにも、まずは様子を見るとしよう」


「……では、潜入か?」


「いや。……《影喰い》を遣わす」


「ッ……!」


数名の配下が小さく息を呑んだ。


《影喰い》。

それは情報収集と破壊工作に特化した、存在すら噂でしか語られない禁忌の諜報部隊。


「“聖女カナコ”……その力を使う理由。

 そして、傍にいる“あの男”――ヴィルゼルの動向。

 すべてを明らかにせよ。無駄は許さん」


 


……そこで仮面の女が、少しだけ口元を歪める。


「……それにしても、“聖女”殿。

 あれだけ周囲から好意を寄せられていて、本人はまるで気づいておりません」


「――……愚か者か?」


「いえ。可愛いのに惜しい、という意味で。

 報告書、読んでいて思わず歯ぎしりしました。読者のように」


「……貴様、報告書の読み方が間違っているのでは?」


「……申し訳ありません」


 


一瞬、魔力がぴくりと揺れるが、すぐに収束した。

アザルグレインは咎めることもなく、むしろ面白げに目を細めた。


「……ふふ。滑稽だが、面白い。

 人も神も、恋も戦も――皆、支配のうちだ」


「世界の均衡を壊すのは、我が意思である。

 ……神にも、人にも、選ばせはしない」


 


玉座の間に、禍々しい魔力がうねり始める。


《黒翼団》は静かに頷き、姿を消していった。


 


──その頃、カナコたちは、また次の浄化地への支度をしていた。


「カナコ様、食料の確認を――」

「だーっ!またパン忘れたー!?え、今日パンじゃなくて肉まん?やった!」


笑い合い、未来を見つめながら。


彼女たちはまだ知らない。

遠くの闇が、音もなく、確かに蠢き始めていることを――


魔王アザルグレイン、初登場でした!威圧感バッチリだったでしょうか……?

そして黒翼団の“あの仮面の女”、報告書に歯ぎしりするあたり、完全に読者代表ポジです(笑)

ここから物語のバランスも変わっていく予定です♪


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