「ヴィルゼルの真意と、騒がしい日常」
※少し長めの回になります。
ヴィルゼルとカナコの距離がまた一歩近づく(?)お話です。
さらに、アースファルトさんの男気も炸裂します……!
それから再び、私はアースファルトさんらと共に浄化活動に出るようになった。
ある時は、瘴気に覆われた川を。
またある時は、魔族に襲撃された村を。
どの依頼も順調にこなしていき、私の体もすっかり戦いの感覚を取り戻していた。
とはいえ、全てが順風満帆というわけではない。
途中、浄化活動に支障をきたすとして、王様にお願いし――あのキルファン王子に“接近禁止令”を出してもらったのだ。
すると当然のように、王子は嘆き、悲しみ、そして……そんな私を批判するリーディアと、少しばかり揉め事にもなった。
……まあ、今となっては、いい(?)思い出である。
基本的に、弱い魔獣や中位の魔物はアースファルトさんと私で難なく討伐できた。
だが、たまに現れる大型で凶悪な魔物――
そのときは決まって、ヴィルゼルとその補佐のセレヴィスさんがどこからともなく現れ、助けてくれるのだ。
最初は驚いたけれど、最近では、なんとなく**“そういう流れ”**が出来上がってきた。
周りの兵士や隊員たちも、いつの間にかヴィルゼルたちの登場に動じなくなっている。
そんなある日。
私は、ずっと気になっていたことを彼に尋ねてみた。
「ねぇ、ヴィルゼル。あなた……どうして私たちを助けるの?
一応、“魔王直属の先鋭部隊・黒翼団”の一員なんでしょ?」
するとヴィルゼルは、「なんだ、そんなことか」とでも言うように、肩をすくめた。
「僕ら魔族の上下関係なんて、あってないようなものさ。
強い者に従う。弱い者は消える。それが魔王たちの流儀。
でもね――僕はそういうの、興味ないんだよね」
淡々と語るその声音には、どこか冷たさと、温かさが混じっていた。
「今は、カナコと一緒にいる方が楽しいし。
なんなら――魔王を倒して、僕が新しい魔王になろうか?
君が望むなら、和平を結んで平和な世界にしてあげるよ」
あまりにあっさりと言われて、私は目を見開いた。
「そ、そんな簡単にいくわけ……!」
言いかけたその瞬間。
ヴィルゼルはそっと私の顎に手を添えて、顔を近づけてきた。
「君が望むなら、今すぐにでも取りかかろう」
その低く甘い声に、思わず瞳を閉じてしまう。
距離が……近い。吐息が、頬に触れて……
――その時だった。
「ヴィルゼル! これ以上の無礼は許さん!」
アースファルトさんの体が、私とヴィルゼルの間に滑り込んだ。
「協力してくれるのは感謝している。だが、それとこれとは別だ。節度を守れ」
ヴィルゼルはため息混じりに肩を落とす。
「……また君か。ほんと、毎度毎度、邪魔ばっかり」
けれどすぐに気を取り直し、セレヴィスさんの方をちらりと見る。
「まぁ、いいや。そろそろ他の仕事もあるし。今日はここまでにしておこう」
「……では、カナコ。またね」
最後にそう微笑むと、ヴィルゼルとセレヴィスさんは、空間ごと溶けるように姿を消した。
残された私は、心臓がバクバクと音を立てるのを抑えられず、顔も真っ赤になっていた。
だって、こんな風に――
男の人に迫られたのは、生まれて初めてだったのだから。
「大丈夫ですか? 話に割り込んでしまい、申し訳ありません」
アースファルトさんが真剣な表情で私を見つめ、静かに謝ってきた。
「い、いえ! 助かりました……ありがとうございます!」
慌ててそう返すと、彼はほっと安堵したように微笑んだ。
――そんなこんなで、今日も騒がしく、慌ただしく。
だけど、どこか温かい日常が続いていく。
私はまだ、このとき知らなかった。
この後、世界の運命を揺るがす“予兆”が、すでに動き出していることに――
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ヴィルゼルの真意、ちょっと危険な香りがしますよね……。
一方で、アースファルトさんの“守りたい”気持ちも静かに熱くて、私は書きながらドキドキしてました。
次回は、またひと波乱ありそうな予感……お楽しみに!




