【番外編】「……感想、聞かせてくれる?」
※この話は番外編です。本編の時系列としては、カナコが王宮図書館で“例の詩”を受け取った翌日あたりになります。
深淵の主ヴィルゼル様が、例によって全力の“愛の詩”をカナコに届けに来ます。
セレヴィスさんが静かに胃を痛めてる話でもあります。
※シリアスな本編の合間に、ちょっと息抜きしていってください。
王宮図書館、翌日――
私は今、全力で逃げていた。
なぜって?
昨日、“深淵の主”ヴィルゼルから届けられた一通の詩が、あまりにも衝撃的すぎたからだ。
『君のまつ毛に落ちた雫に、僕の世界は静かに滅びた――』
……どこの世界が!? なにがどうして!?
あまりのポエム威力に、思考が3秒フリーズした。
(いや、冷静に考えて。これ書いたのって、“あの”ヴィルゼルだよ!?)
机の下に潜みながら震えていると――
「……見つけたよ」
ひいっ!?
「……カナコ、そんなところで何をしているんだい?」
そっと顔を出すと、そこにはひときわ存在感のある男が立っていた。
――長く艶やかな黒髪。
まるで闇を思わせるそれは、わずかな光さえも吸い込んでしまいそうで。
そして、その瞳。静かに燃えるような深紅の瞳が、じっと私を見つめていた。
そう、彼こそが……“深淵の主”ヴィルゼル。
「えっ……うそ、本人が……!?」
「昨日、セレヴィスが詩を届けたはずだよね」
「……感想、聞かせてほしくてさ」
その柔らかい声と微笑みが、逆に怖いんですけど!?
そしてその背後には、当然のように控えているセレヴィス。
「主。お言葉遣いは、なるべく穏やかに。聖女殿は非常に……繊細ですので」
「もちろんだよ。僕はいつだって、やさしくしたいと思ってる」
「……過去、三度ほど“言葉だけで泣かせた”記録がございますが」
「泣くほど感動したんだろう?」
「“怖すぎて涙が止まらなかった”と記録に……」
セレヴィス、そんな詳細なデータ残さないで!?
「で、カナコ。詩、読んでくれた?」
「あ……はい、一応……」
「“一応”?」
赤い瞳がじっとこちらを見る。
うわ、まばたきしないタイプだこの人!!
「あの、すごく……情熱的な詩でした……。滅んでましたけど」
「うん。君のまつ毛に、雫が落ちたからね。……それで、僕の世界は、静かに、ね」
「静かに滅びられても困るんですよ!?」
「激しく滅びた方が、良かったかな?」
「そういう問題じゃないですから!!」
「……僕としては、君に伝えたかっただけなんだ。あの瞬間、世界が止まったってことを」
そんなふうにしれっと言うの、やめて!? こっちは心臓に悪いんだよ!?
私は思わず机に額を打ちつけた。
「主。今回も、真意を解説いたしますか?」
セレヴィスがすっと紙束を差し出してきた。
『詩に込めた想いについての補足(全13ページ)』
「補足、長すぎません!?」
「あとがきは6ページあります」
「あとがきだけで小論文じゃん!!」
「カナコ、また次の詩も、読んでくれるかい?」
ヴィルゼルが、少しだけ首を傾げながら言う。
「えっ、また……?」
「今朝、四時二分に――神託を受けたんだ」
「出たよ神託!! なんで神様は毎回深夜に詩を降ろしてくるの!?」
「きっと、夜の静けさの中にしか降りてこないものがあるんだよ」
ヴィルゼルが詩人モードでキメている横で、セレヴィスがひっそりと呟いた。
「……主が詩を捧げる対象として、これほど情熱を注がれた方は、後にも先にも……」
「やめてください、セレヴィスさん。私の胃が滅びそうです」
そんなこんなで、
“深淵の主”に詩の感想を求められた聖女の心臓は、本日もギリギリで持ちこたえたのだった――。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
深夜四時に“神託”を受ける系男子、ヴィルゼル様でした。
そして被害担当(?)のカナコと、胃薬常備のセレヴィスさんもお疲れさまでした……。
ヴィルゼルの詩が思ったよりも強烈で、何度もカナコの精神を滅ぼしかけてしまうんですが、
本人は「伝えたかっただけなんだ」って本気で言うので、もう誰も止められません。
気に入っていただけたら、ブクマ・感想・リアクションなどぜひ!
次回、本編も更新予定です!




