「聖女様の手が、俺を救う――そして、波乱の幕開け」
あの日の戦いを経て、王宮に戻ったカナコとアースファルトさん。
皆の前では毅然としていた彼も、聖女であるカナコを守れなかった自分を責めていた。
俯き、言葉を詰まらせる彼に、思わず手を伸ばしたカナコの行動は……?
想いが揺れる、甘く切ない王宮の一幕。
しかし、その扉の向こうから、波乱の足音が近づいていて――
アースファルトは静かにカナコの寝ているベッドの傍に立ち尽くしていた。
彼女は、あの瘴気に包まれた森で自ら命を懸けて戦った。
……それなのに、自分は。
騎士団長でありながら、あの戦いで何を成せただろうか。
結局、聖女である彼女に守られてしまったのだ。
その事実が、心に重くのしかかる。
「命を賭してお守りするなどと誓っておきながら……」
彼は、悔しさと自責の念に拳を強く握った。
「……俺は、役立たずだ」
その声を聞き取ったのか、カナコがふわりと微笑んだ。
「全然そんなことありません!」
彼女の声が、痛む胸に染み入るように響いた。
驚いたように顔を上げた彼に、カナコはベッドから身を起こすこともせず、そっと手を伸ばした。
そして――
「アースファルトさんは、ずっと私を守ってくれてます!」
俯く彼の頭を、両腕でぎゅっと抱きしめた。
その動きはあまりにも自然で、彼女自身も一瞬、自分が何をしたのか気づいていなかった。
けれど、すぐに我に返る。
「わっ、わたし……い、今のは……っ!」
バッと顔を真っ赤にして手を離し、カナコは視線をそらす。
アースファルトはそのまましばらく固まっていた。
頬は赤く染まり、目は何かを堪えるように震えていた。
やがて、まるで何かがほどけたように表情をゆるめ、カナコに顔を向けた。
「聖女様……」
その手が、彼女の頬へと添えられたとき――
「――カン、カンッ!」
不意にノックの音が響いた。
驚いて距離を取り、慌てて姿勢を整える二人。
アースファルトがドアを開けると、そこに立っていたのは、透き通るような青い髪と瞳を持つ、気品ある少女だった。
「ごきげんよう、聖女カナコ様。……ご無事のようで何よりですわ」
現れたのは、リーディア・エルネスト。
王国宰相の娘であり、第一王子の婚約者――そして、かつてカナコに「王子に近づかないで」と冷たく言い放った張本人である。
部屋の空気が、また一段と張り詰めた。
アースファルトさんの揺れる心と、カナコのまっすぐな想い。
ふたりの距離が縮まりかけたその瞬間に、まさかの“嵐の予感”が舞い込んできました。
リーディア登場で、また波乱の幕開けです!




