第91話 河が終わるよ
「魔法石の精練をしたいのです」
「魔法石」
「うん」
ホテルを出て、オレたちはちょっとだけカフェに寄った。今後の予定を、次にどこに行くかを決める為に。公園に行っても良かったのだがカノが「名物の茶があるってよ。行こうぜ」とオレたちの同意を得る前に進み出してしまったもんだからやれやれと思いつつもついていき、入店したわけだ。
そのカノはお茶を――紅茶をすこ~しずつ飲んでいるところ。思ったよりも熱かったようで息を吹きかけ冷ましながら飲んでいる。
心樋は朝食をホテルで摂ったばかりだと言うのにたっぷりとクリームが乗った&蜜のかかったパンケーキを満足そうにいただき中。
フォゼは昔日本で大流行したメロンソーダを注文。上に乗ったアイスをスプーンで食べている。
オレはコークを注文し、ストローでゆっくり飲み進めたのだが三分で飲み干してしまい、テーブルにあったアンケートを記入中。
石見は眠気覚ましのアイスコーヒーを頼んで角砂糖を五つ投入し、セットでついてきたチョコレートと代わる代わる飲んでいた。
で、アイスコーヒーを飲み終えた石見が言ったのが魔法石の精練について。
「大分魔法石たまったんだけど、純度が低いの多いから。
この辺に工房があれば寄りたいなって」
魔法石を精練するには持ち運び出来ない機材がいる。そして人材も。工房とはこの二点が揃った場所の事だ。
日本であるならスゥさんのところに寄るのだが、アメリカの『ドーン・エリア』だしな。
「どこにあるだろう、工房」
「あるとしたら土惚の都。
交易の街らしいから色々入って来ていると思うんだよね、魔法石も、機材も、人も」
「大陸の方ですか? イーラ・スカイの別区画?」
「近くに行けば魔法石が集まっている場所――かたまった魔力を感じられるから解ると思うよ」
「んじゃまずはイーラ・アースの影響を受けている区画に行ってみっか。
そこになかったら大陸の方行ってみようぜ」
「お土産買えるかなあ」
誰への土産だい妹よ。シエルだったら兄ちゃんちょっと妬くが。
「ん?」
「うん? どうした心樋?」
「ん~なんか外に人が増えてるなあって」
「外?」
おや本当だ。フェスティバルは終わったと言うのに人がごった返している。
なんだなんだ?
「あ~、そっか」
様子が気になり外に出てみたオレたち。通りかかった人になんの集まりなのかと話しを訊いて超納得。
フラワーフェスティバルの片づけと掃除の時間が始まっていたのだった。
「祭りの後の現実か」
「どうするよ? マインらは旅行客だからスルー出来るけど」
「う~ん、ちょっと悪い気がするから私たちも参加しようよ」
「だねえ」
「気分良く次に行きたいですしね」
働いているメインは運営スタッフだがボランティアも多数参加中。これを無視して進む度胸はなくて。だから大人しくオレたちも参加した。
その後も参加者は増え続けて片づけと掃除は一時間とちょっとで終わりを見た。
で、参加者にお菓子が配られたからこれを間食とし、次の区画への路面電車に乗る時間になった。
「さあ、旅立ちだ」
「うん」
他の観光客が路面電車に乗り始める前に急いで乗って席を確保。
乗客はどんどん増えてあっと言う間に満席になった。良かった急いで。
今日はご老人が立ったままでも子供が立ったままでもなく、オレたちは席に座り続ける事が出来た。
「「「お~」」」
今までいた区画と新たな区画を隔てる大きな河の上に出た。
路面電車の速度は落とされて、河の雄大な景色を眺める時間だ。
河の上にあるのはレールと歩道と車道のみ。
歩道では釣りをしている人が何人かいて、写真を撮っている人も何人かいて。
釣果は人それぞれって感じかな。バケツいっぱいに魚が入っている人もいればゼロの人も。
写真は路面電車と河、その背後にある空と街を合わせて撮っているようだ。
なんとなくピース。カメラマンに笑われてしまった。まあ良いけど。
「ふ」
石見にも笑われていた。い、良いんだけどさ。
「ふふ、ほら糸掛、河が終わるよ」
「あ、ああ。次の区画に入るな」
河が終わった。
交易の街・イーラ・アースの影響を強く受ける区画に入ったのだ。
幾つか停留場を経由するごとに大きな荷物を持つ人が増えてきた。
旅行客ではない。お仕事に勤しむ人たちだ。きっと様々な人たちと交流をしているのだろう。
オレたちの目的の人物はいるだろうか。
鬼とか蛇は出んでくれ、頼む。




