第90話 と! 取ったった!
結果から言おう。
凶悪犯はいなかった。が、フラワーフェスティバルと言う人がごった返すお祭りに便乗してスリが多発していたらしく、警察だけでは手が回らないと言う事で軍人や賞金稼ぎが駆り出されていた。本日ついさっき更新されたリストにも何人かが賞金首として載っていて、オレたちにも助力を求められた。
エンリたちも確かに新掲載されているが、今はそちらではない。
だもんで。
「こ、これで何人目だ?」
「十一人! だよ!」
肩で息をしながら乱暴に言葉を発するオレと石見。
心樋もカノにフォゼも「もうええわい」と若干自棄になっていたり。
十一人。十一人のスリを探し出し追いかけっこをしてもう四時間。疲れるわ。
しかもまだスリはいるようで。
みんなで治安考えようよホントにさ。
「はぁ、次行くか」
結局、他の人たちも動いた事でオレたちが捕まえたスリは十九人。捕まったスリの合計は四十九人。悪い人多いな。いや善い人はその何倍もいるんだけど。
とりあえず確認されたスリは全員捕まったようで盗まれたモノもある程度持ち主へ戻った。お金は多くの人が現金ではなくデジタルマネー持ちだから盗られたモノは身に着けている貴金属がメイン。被害者の多くは酔っ払いさん。アルコールは程々に。
「賞金は合計二万エールか」
ちょっとだけ贅沢な飲み食いが出来る感じの額だ。
「それぞれが少額だったけど数が多かったからね。
良い方じゃない?」
「まあ、マインら疲れはしたけど危険はほとんどなかったしな」
たまにナイフや銃で攻撃・威嚇されたけど。
「んじゃフェスティバルはもう終盤みたいだし、私たちはどうする?」
「最後に幸運の花言葉を持つ花々が空からまかれるらしい。参加したくない?」
そう言うオレの心はもうドキワクしているのだが。
「空から? ひょっとしてあれ?」
「多分」
心樋が指さす先に浮かんでいるのは十の気球だ。フラワーフェスティバルが終盤に近づくにつれて数が増えていった。空からの観光は空飛ぶ車や空を歩ける靴が担っていたから気球には別の意味があるはずだ。
「あ、始まったな」
やはりだ。やはり気球から風船つきの花がまかれ始めた。風船一個に花一輪。ゆっくりと地上に落ちてくる。
「取りに行こう!」
興味をひかれノリノリの石見に手を引かれ、風船の落下地点に――行ったは良いものの人々にもみくちゃにされてゲットは出来ずに。
諦めずに別の風船・花を狙う。失敗・失敗・失敗。
飛べば楽に取れただろうけれどそれは衝突防止に禁止されていたから地上にて奪い合いである。
「よっしゃ取ったー!」
指を二本おったててピースサイン、石見。
これでオレ以外取った事になる。そう、オレ取れてない。一方で髪はぐしゃぐしゃだ。
こ、この恨みは花のゲットで相殺する!
「と! 取ったった!」
どこぞのおっちゃんの背を駆け上がり、遂に手に入れましたお花さま。ごめんよおっちゃん。
「街中にいてももみくちゃになるだけだよみんな。離れよう」
「だ、だな」
人波をかき分けて手近なビルに入る。と、どうやら同じ考えの人がいたらしくこちらも人がいっぱい。だからビルを出て、別のところに入って出てを繰り返しちょっとだけ古いアパートの屋上に避難した。街の外れだから人はまばら。ようやっと一息つけた。
「えっと、恋愛運・絶好調。相性ピッタリな恋人と進展があるかも? だって」
幸運の花にくっついていたメッセージを読んでニヤリと笑う石見さん。いや、つい昨日進展したばっかですよね? みんなにからかわれた時も思ったが短時間に今以上を求められても困りますん。
「オレは、と。金運・絶好調。難を超えると大金が舞い込むでしょう。オレ別に拝金主義者じゃないんだけどな」
お金は大切だがあくまで必要なモノを買う為のアイテム、道具の一つと言うのがオレの考え方だ。まああって困るモノでもないけど。
それよりも。
「難、か」
「大きな賞金首が現れる、とか? 兄さん」
「だとすると確かに難ありだな。このメッセージがどれくらい当たるのか知らないけど、気にはしておこうか」
「うん。進展を気にしとこう」
「う」
上手に話題そらしたと思ってたのに。
「そ、そっちはオレたちのペースでな」
「はいはい。
じゃあ次だ。今日の内にこの区画は――出たとして次に着くのは夕方か夜に入ってからだね。
もう一泊して、明日発とうか」
「だな」
オレとフォゼはともかく夜に女性陣を歩かせるのは危険だ。用心しつつも最悪のパターンを想像しておかないと。
なのでオレたちはこの日ホテルを取った。
石見とは同じ部屋だがベッドは別。進展はしなかった。いやだって、これ以上の進展って婚約とか結婚ですよ? え? 意気地なし? ふんだ。




