第56話 アメリカ人だってバカじゃねえ
「日本は銃。
アメリカはな、限りなく魔法士に近づける為に機械獣を作った。
儂らは獣の遺伝子を呼び起こすが準魔法士は機械獣を“纏って戦う”のさ」
どうだ、すげえだろ?
って感じで胸を張るジャイル。
凄いとは思うが、凄いのはお前じゃない。
「彼ら彼女らは一般の生活に紛れて民間人を守護する、の。
ちゃんと国に保護されている軍の子たちだからケンカはしないように、ね」
特にカノ、と目を向けるエンリに。
「向こうが売って来なきゃな」
と浅い返しを、カノ。
カノの気性荒いしなあ。売られませんようにと祈っておこう。
「う~ん、アメリカ人のこちらが言うのもなんだけれど、アメリカ軍人って意外とケンカっ早いの、よ」
それは知っている。
日本人、結構なめられてきたから。民間人も自衛隊も。
「だから、糸掛たちが絡まれても銃は向けないで、ね」
「善処する」
……その場合絡まれるオレたちはどう切り抜けたもんか。スルーしたらしたで因縁つけられそうだし。
「大丈夫さ。
アメリカ人だってバカじゃねえ。
からかって日頃のうっぷん晴らししたいだけだ。それが済めば勝手にどっか行くから安心しろよ」
「それのどこが安心出来るのか」
自分のうっぷんくらい自分の中で処理してください、マジで。
「まあここで話しててもしようがないよ。
早く行こう。私、散策してみたい、ゲーミング――じゃない、光の道渡ってみたい」
「そうだな、行こう」
確かに石見の言う通りだ。ってかやっぱりゲーミングの光に見えるんだな。感覚が一緒でなんとなく嬉しい。
と言うわけで早速光を渡って一番大きな陸地を目指す事にしたオレたち一行。
おっかなびっくり光に脚を降ろしてみると、
「暖かいな」
少しだけ熱を持っているのが靴を通して伝わってきた。
「頑丈ではありそう」
これは当然か。崩れたらシャレにならないし。
何度か光を強く踏みつけてみるがビクともしない。
飛び跳ねても大丈夫だ。
けれど。
「兄さん、手」
「ん? おぉ」
心樋に手を握られた。
光の道は幅広い。横に大体二十メートルはありそうだ。けれど、手すりも柵もないから心樋は少し怖がっていて。下がすこーし薄っすら透けて見えているのも手伝っているか。
「可能な限り真ん中に寄って歩こう」
「うん」
安心させるようにオレは手を握り返し、言葉通りに道の真ん中あたりへ。
みんなもついてきた。
どうやら石橋を叩いて渡りたいタイプが多いようで。
一歩、二歩と用心しながら足を進める。
何人かの現地人とすれ違い、気軽に挨拶をしあい、道の中程まで来るとある程度メンバーにも余裕が生まれたのかあえて下を覗き込むフォゼにタータル。端に寄ってみる石見にカノ。一方意外とビビっているエンリ。ビビっているのを悟らせたくないのか震えながら大きく笑顔を作っているジャイル。オレにしがみついている心樋。オレはオレで「ここで光が消えたらヤバいだろうなあ、ビルに叩きつけられるか海にドボンだろうなあ」なんて思いながら妹を怯えさせたくないので顔には出さずに。
さて、中間を超えた。光の道は虹のように上下に曲線を描いているからここからは下りだ。
緩やかとは言え滑って落ちないとも限らないので上りより慎重になる。
そうして光の道が――終わった。
「はぁ~」
陸地に脚を降ろし、安心したのか大きく息を吐く心樋。
何人かは名残惜しそうに後ろを眺め、何人かはここから先へと目を向けて。
オレはほぼ透明なドームに指先を触れてみる。と、触れる事叶わずに中へと侵入してしまった。
「これ、人は苦もなく通れるんだ」
「人だけじゃなさそうですよ、鳥も通っています」
おや本当だ。フォゼに言われて上を見ると確かに鳥たちもドーム内外をなにもないかのように行き来していて。
「便利だな」
んじゃ、早速入らせていただくとしようか。
ドキワクしながらドームの中へ。
ゆっくりと一歩を踏み出して――入った。
爽やかな空気が顔にあたった。
外とは違う、澄んだ空気だ。気温は日本の春をイメージさせられる。ここに季節はあるのだろうか? 外は秋なのだが。
「シャボン玉みたい」
と言うのは心樋。
確かに巨大なドームの中に浮かぶ小さなドーム付きの島々は――多くの住宅はそう見える。全て小規模の光の道で繋がっていて、まるで別世界に飛び込んだかのようだ。
その中で、一つだけ大きな建物があった。
三つの細いガラスの塔だ。これもまた浮かんでいて、細いドームによって守られていた。
「住宅に入るのはダメだろうし、かと言ってすぐに引き返すのもなんだか嫌だし」
ちょっとだけ後ろを見て、改めて前を向く石見。彼女は三つの塔を見据えていて。
どうもここは住宅専用の大陸らしく、渡ったは良いモノの見学する場所は少なそうだ。
ここで特別な建物は三つの塔くらいかな? 電車はあるがこれは建物じゃないし、三つの塔が大陸の中央に鎮座しているのを見るに絶対重要な施設。
「あれに行くで良い? 入れるかは解らないけど」
一応確認、オレ。
みんなが頷くのを見て、
「電車乗れるかな?」
オレはそれの駅へと向かって歩き始めた。




