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124話 断ち切ったもの


 突如と放たれた光に駆けつけると、そこにはダイアナが何かを抑えつけるように胸を押さえつけていた。


「ダイアナ!?」


「エ、リー……」


 苦しみを押さえつけているのでなく、まるで逃さないように自分の中に縛り付けているようだった。


 ダイアナの中から感じる気配に覚えがあった。


「アル……? そこにいるの?」


「……ううん、違うよ。これはアル君の『魂魄の繋がり』だよ」


 彼が願望のために不要と断じて切り捨てたもの。

 それは現世で生きるためには欠かせない繋がりだ。


「アル君は、自分の何もかも捨てながら……【魔神】と戦っている。今はボクが抑えているけど、いずれ消えてしまう」


 消失、それは死に等しい。

 彼は自分を代償に願いを叶えようとしているのだ。


「……私はどうすればいいの?」


「うん……『糸』を辿っていけばアル君の所に行ける。でも、一歩間違えれば、現世にある自分の体を放棄して消えてしまう」


 『糸』が道筋となるが、一度そこから外れてしまえば帰ってこない。暗闇の中を永遠に彷徨うことになるのだ。無とも呼べる暗闇に光が存在する余地もなく、いずれ完全に消失してしまう。


 そんな危険を冒させようとしている。とても残酷な願いだけど、それしか方法がないのだ。


「失敗すれば、二度とこの世界に帰ってこれない。それでも行ける?」


「当然よ」


 間髪を入れず、即答した。


「それにダイアナ、貴女だってそのリスクを顧みずにアルの『糸』を辿っていったんでしょ?」


「えへへ……バレちゃった?」


 アベルに繋がる縁を辿ってその世界に飛び込んでいったということは、ダイアナも無へ還ってしまう危険を抱えていたということだ。


 ダイアナも言うつもりはなかったが、隠せる相手でもなかったね、と小さく笑った。


「────だったら、私が賭けない訳がない。言ったでしょ。文句をいっぱい言って、無理にでも分からせるってね」


 と、エリーゼははっきりと答えた。


 かつて引っ込み思案のくせに、チクチクと文句を突き刺すだけだった自分はもういない。言うだけ言って逃げていた、気弱な自分は過去に置いてきたのだ。


「それで、私は何をやればいいの?」


「近くに来て。ボクが触れたら……そこに飛んでいけるよ」


 その世界は霊界とも似て非なる空間で、肉体という概念が存在せず、魂のみでしか入ることができない。


 魂魄を分離して『スピリチュアル』だけを飛ばす必要があるのだが、魂と魄が一体となっている生物にとって『繋がり』は必要不可欠で、魄を放棄し、魂だけの状態となると自壊作用のように魔素へと溶けていってしまう。


「……ボクがここに残って『繋がり』を保つから……遠慮なく言いたいことを言ってきて!」


 なんの因果か、魂魄の繋がりが不安定になっているがゆえに、彼女は他者の魂魄の繋がり(・・・・・・・・・)も感知できるようになった。


 彼女は魂魄を捕捉し、こちら側の世界から繋がりを維持し、魔力を注ぎ込み続ければ、魂の自壊作用を防ぐことはできる。


「……ダイアナ、あなたは大丈夫なの?」


「大丈夫、だよ。ちょっと苦しいけれど……孤独に旅をした日々と比べれば、なんて事はないよ」


「────……そう」


 ダイアナの口からは言わなかったが、アベルは何度も『繋がり』を断ち切っているのだ。


 彼女は、断ち切った魂魄の繋がりを、彼女自身を媒体として強引に繋げている。何度も切った繋がりを繋げ直すなど並大抵のことではない。


 そのことをエリーゼは知らないが、彼女の無理に笑った顔の奥に強い意志が見て取れた。だから、隠していることには何も言わずに、必ずダイアナの想いに応えると誓った。


「それじゃ、サキ、ゴウ、行ってくるわ」


 すると、二人は呆然とした表情を張り付けていた。

 まるで信じられないものを見るような顔だった。


「……二人ともどうしたのよ?」


 呼び掛けられて、はっと我に帰った。


「あっ……ううん、何でもないよ。でも、ひとつだけ……ひとつだけ教えて」


 ゴウと目配せするようにして、その名を口にした。

 その名は、エリーゼにとっては聞き慣れないものだった。


「───『黒神 瞬』って聞いたことはない?」


 それを聞いて、エリーゼは訝しげに傾げた。

 サキはそれを見て、飲み込むように目を瞑った。


「……ごめん、今聞くべきことじゃなかった」


 動揺していたのか、サキは小さく溜息を吐いて自分を落ち着かせた。


「あたしもここに残って君たちを守る。何人なんびとたりとも触れさせないよ」


 拳を胸に、宣言した。


 その世界に飛んでいったエリーゼも戦えないうえ、ダイアナもここからは動けない。そこを襲われたら無抵抗に殺されるか連れ去られてしまう。


 救うべきだと思った黒き剣士(アベル)のためにも、それだけはさせてはならない。


「だから、必ず帰ってきてよ!」


 エリーゼはひと頷きして、ダイアナの前に立つ。

 そして、彼女たちは両手を重ねて、瞳を閉じた。


「……いい?」


「いいわ。飛ばしてちょうだい」


「……じゃあ、いくよ。星々は道標、暗闇は魔、全てを内包せし世界樹よ、汝らを導きたまえ。今こそ、魔を以って道標を示さん───」


 ダイアナの抱える光がエリーゼと同調し、閉じた視界が光に染まっていく。


 体も自分のものではないような、えもいわれぬ浮遊感に包まれるが、不快感はなく、むしろ暖かい光に抱かれているような感覚だった。


 純白に埋まった視界で何も見えないけど、アルの気配だけは明確に感じ取れる。手を伸ばせば届きそうだけど、届きそうにない遠い気配だ。


 ……いいえ、違う。ここは、もうアルの中だ。


 ゆっくりとまぶたを開け、見えた光景は───



読んでくださりありがとうございます。

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