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 幕間 表と裏


 シバ大国のさらに北方のある領地は、へーリオス大陸と隣接する境目だ。アルマ大陸を避けて通る唯一の入り口でもあった。


 すでに滅んでいるコロナ帝国と最も近かったのもあり、街は一国並みに巨大なものとなっていた。今でこそ単なる領土となっているが、アルマ大陸からの輸入を強化し、新国ベヒモスやシバ国への輸出する中間地も担うようになっている。


 その領土の名は、アサダ。かつては衰退の一途を辿っていたが、ある男が領主に代わって以来、コロナ帝国が存在していた頃とは変わらぬ繁栄を維持していたのだ。


「アルマ大陸からの馬車が襲われたそうです」

「早く冒険者を雇いなさい。金はこちらが出します」

「では、そのように致します」


 粛々と執事の報告に対して、即座に命令を下す。

 すると、扉から慌ただしく兵が入ってきた。


「ロベルト商会とベヒモスの獣人が喧嘩を始めたそうです!」

「仲介人は?」

「殴られて気絶しました!」

「では、二十分後に私が向かいます。ベスター、今すぐ準備を」


 毎日慌ただしく物流も変化し、感情でも左右される以上、思い通りにはならないのが条理だ。その全てを把握し、たった一人管轄している領主は、大商人に並び立つほどに敏腕である。


 そんな領主が一息をつけるのは夜だけであった。


 繁忙期は夜を通して仕事をすることもあるが、今日は比較的に早く片つけることができ、久しぶりに夜風に当たりながら紅茶を味わっていた。


「今宵も紅茶が美味しいですね」


 王城から見える景色も壮観だが、街よりも一つ高い階から眺める風景もまた綺麗なものだった。


 夜でも道に光が灯り、人通りも多くはないが夜でも輝いているということは栄えている証拠でもあった。


 束の間の休息に、これを眺めながら紅茶を飲むことが楽しみでもあった。


「さて、聞かせてもらおうか」


 カチャ、とカップを置き、視線を下へと向ける。


「はっ、アカイムの気配が消失しました。その同時に《原初の火(アドラヌス)》の消滅も確認しました」


 そこに囲むように《六道化》たち膝をついていた。

 青は全員、茶はハートを除く紋印が揃い、頭を垂れている。うち、青スペードが彫られたローブを羽織った導士が代表して報告を締める。


恙無つつがなく計画は進んでいます。────ゼスト様」


 世界円卓の第一席、ゼスト・ガーランド。

 妖魔アスーラ唯一の生き残りであり、かつてはコロナ帝国の宰相の席を預かっていたという噂だ。


「ええ、彼はよくやってくれました」


 紅茶の余韻を楽しむように微笑み、星の運河が流れる夜空を見上げて続けた。


「道化よ、計画の発起人が誰か知っていますか?」

「いえ……裏切り者(ティーヴ)ですか?」


 畏れ多そうに青スペードがそう答える。


「確かに彼も未来を思い描き、近しい道を辿ってはいましたが……彼は違います」


 他に誰がいるのだろうか、と道化たちはどよめく。

 なかで、茶の双子の姉が思い当たった。


「もしかして……『彼女』ですか?」

「ええ、私は先を望み、彼女は過程を望んだ。利害が一致していることで最初から手を組んでいます」


 彼女とは突如と世界に現れ、永久を生きた者。

 原初に最も近しい『知能生命』である。


「でも……『彼女』は敵対していたはず」


 双子の弟が頭を傾げた。


「彼女は曲がりなりにもヒトを受け入れていますからね。面目を保つ為にお前たちには隠していました。その点については悪かったと思っています」


 青色を染め上げた長髪の女がその真実に気づく。


「我らを味方するということは……!」

「うん、多大な犠牲を払いましたが、悲願まで目前となりました」


 沁み入るように道化たちは瞳を輝かせた。

 彼の口から目前と言葉された以上、それは約束される。永久にも思えるほどに長かった宿願が叶うのだ。


 そして、すべからく頭を垂れた。


「悲願が叶いしとき、どうか我らを……」

「ふふ、そこまで言う必要はありません」


 カップを持って、かしずく道化たちの間を通る。


「計画も仕上げです。君たちはいつも通り───」


 瞬間、夜風に強く吹かれる。

 はためくカーテンに隠れるように道化たちは消失した。


「笑え、嗤え、最後まで引っ掻き回せ。


 ───愚かな神の子たちよ」


 ケタケタ、と。

 夜街に笑い声が響き渡った。





読んでくださりありがとうございます。


半端な形となりましたが、五章はここを一区切りとします。もう100%続編という形になる六章は、前半が執筆でき次第公開したいと思います。

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