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105話 誰も知らぬ決別


 エリーは大きく背を伸ばし、目を覚ました。


 爽快な朝とは程遠く、なにせ外も真っ暗なのだ。

 よく見ると霧のようで、そうでない影が充満している。


 朝に太陽がないってすごく違和感がするわね。


 いつもなら太陽の光を浴びながら軽く走ってから、剣の鍛錬しているけど、ここまで暗いと妙にやる気が湧いてこない。


 それに、今が朝なのかも分からない。


 確か昨日はアルたちと森を抜けて、アステル村に入った。そして、痩せこけた老人に宿を案内された後に少し気分転換にと思って散歩をしたけど、星もなく、月もない夜空を眺めていても何も転換できなかった。


 少し憂鬱になっていたら、アルと会ったっけ。


 それから………


「あれ?」


 ………そういえば、いつの間に寝ていたっけ?


「エリーちゃん!!」


 扉を叩き開けられ、思わず肩を震わせてしまった。

 出てきたのはダイアナだ。


「ど、どうしたの? 顔色が悪いわよ」

「はぁはぁ………よ」


 ダイアナの様子は尋常ではない。

 何かあったのだろうか。


「アル君がいないんだよ!」


 ────え。


「ボクもさっき起きて、アルの部屋に魔力反応がなくて様子を見に行ったら……」


 アルと会った後の記憶が消えている。

 そして、この部屋に残った僅かな魔力残滓……


「まさか……」


 眠らされた?


◇◆


 雪嵐が吹き荒れるなか、漆黒が雪をかき分けて進んでいく。黒のマフラーで口を覆い、ひたすらに前へと踏み出した。


(────もう奪わせない)


 それはかつて誓ったこと。

 母を殺され、師を失い、決意した。


(死なせたくない。失わせもしない)


 前世で『繋がり』を渇望したが故に、失いたくなかったのだ。


(そして……不幸にもさせない)


 その根幹は変わらない。

 しかし、それでも手から溢れ落ちるのだ。

 どれだけ必死に戦おうと、失うものは失う。


 だから。


(俺と関わった全てを───なかったことにする(・・・・・・・・・)


 それが、彼にとっての救い。

 悲しませもしない、皆が皆の人生を生きる。

 自身と関わった因果(不幸)を消し、全てをやり直す。


 ただ───それだけでは足りない。


「……………」


 彼は立ち止まり、雪嵐の彼方を見つめた。


 瞬間、積雪が噴流のように巻き上がった。


「───テメェが【亡霊ゴースト】か」


 四つ腕の巨影が、彼を見下ろしていた。


◇◆


 白鎧をまとい、体を覆うほどの盾を装着する。

 そして、白い剣の刃渡りを見て、腰に納めた。


「…………」


 机上の白いヘルムに触れ、小さな声で呟く。


「元々、この見た目が嫌いで、隠すためのヘルムだったものね」


 綺麗だよ、と彼が子供の時に言ってくれたけど、それでも素直に受け入れることはできなかった。


 老婆のような白い髪に、非対称な瞳のせいで忌まれた。良い思い出なんてごく僅かで、嫌な思い出のほうが多いのだ。


 だから、素直に好きになれなかった。


「エリーちゃん? ヘルムはつけないの?」

「………ええ」


 でも、変わらなくてはならない。

 ひとりで頑固になっている場合でもない。


「今度はちゃんと向き合って、話がしたいのよ」

「……そっか」


 彼に会って、いっぱい文句を言ってやる。

 溜まりに溜まった気持ちを全部ぶつけてやる。


 そんでもって……彼の気持ちを聞くんだ。


「ボクは、ここで索敵魔術は使えないから役に立たないと思うけど……」

「そのブレスレット、アルから貰ったんでしょ」

「確かに貰ったけど、これがどうしたの?」


 ダイアナは腕に装着しているブレスレットを眺めてみた。何かしらの効果が付与されているのは分かるが、それがどんなものなのかは分からない。


「それ、自分に向けられた魔術を無害なレベルにまでカットする効果が付与されているものよ」


 無効とまではいかないが、太陽を浴びるが如く人体を大きく影響しない程度にまでダメージ軽減することに成功したのだ。


「無害……そっか、それなら!」


 エリーゼは戦闘において、光速で移動する魔術を操る為に、周りの障害物を認識、分析する能力に長けていたからこそ付与されている効果を即座に見抜くことができたのだ。


「うん、頼むわね」


 ───実のところ、エリーゼにその効果を見抜かれることを、彼は想定していなかった。


「少し待っててね」


 ダイアナは目をつぶり、魔力を広範囲に放ち、アルの魔力を探し始めた。改めて、彼女の強みに称賛の念を覚えた。


(魔力はそれほどではないけど……)


 これほどの広範囲に展開できる者は知る限りではごく僅かだ。緻密な魔力操作、僅かな反応を逃さない鋭敏さ……それらを総じて実現できる高い精度。


 おそらく村どころか、国ひとつに匹敵するスケールを脳内で立体構築しているのだろう。


 それは、大魔導士《朧火ディーヴ》を彷彿させた。


「───いた」



読んでくださりありがとうございます。

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