104話 勇者と魔王
【魔王】とはヒトと相対する邪悪な存在である。ヒトの枠に生きる者では倒せず、いくら束になろうと容易く屠られる。そして、決して勝てない理由は他にもある。
それは『転生』。
魔王を倒せば、必ずどこかで復活する。何度討とうと、その力と記憶を受け継いで転生されるのだ。さらに復活するたびに力も増し、倒せてもより強くなってしまう。故に、【魔王】の棲むアルマ大陸は禁忌とされ、人から隔絶された大地となっている。
「おい、今どんな気分だ?」
「【憤怒】……」
そんな絶大な力に対抗できるのは《勇者》のみ。
魔王に匹敵するだけの力を持ち、その能力を持つ。
それは『魔王殺し』。
転生を無効化させる能力を持つのだ。それ故に、魔王に対する人類の切り札たり得る。
「生意気な瞳だな。だが、テメェのお陰で己たちは強くなったんだ」
ただ、それでも過酷な道のりに変わりはない。
勇者に討たれた魔王は転生せず『個』が失われるが、その代わり────力は『集約』される。
魔王を殺せば、別の魔王へ継承されるのだ。
「油断しなければお前たちなんか……ぐぁっ!」
みぞおちに武骨な拳がめり込む。悶絶しながら頭を垂れるも、髪を引っ張り上げられる。
「っ……!」
「己は拷問官ではない。只でさえ力は増しているんだ。つい殺しちまう前に【怠惰】の居場所を吐け」
【怠惰】とは現存する三魔王のひとりである。
森の最奥に隠れているという魔人である。起源も、経歴も不明ながらも魔王となった特異な存在でもある。
頭角を示したのは数百年前のみで、それ以来は同じ魔王ですら観測し得なかった。
そんな魔王と接点がある。それだけでも異質だが、これまで召喚された勇者は異常な速度で魔王を次々と倒していったのだ。
召喚勇者は、あくまで魔王ひとりに匹敵する。
ほぼ互角の戦いで魔王が討たれただったと前提に考えたとしても、一人や二人ならばまだ納得できた。
しかし、目の前の勇者は短期で三人も討ったのだ。
「テメェが【怠惰】と繋がっていることは分かってんだよ」
結託し、力を【怠惰】へと集約させるべく謀略した。
その果てに何を求めているのかは知らないが、そうしか考えられなかったのだ。
しかし。
「………ディア?」
血反吐を吐きながら、胡乱な瞳で疑問を露呈した。
それを見た【憤怒】は四つの腕を組み、目を細めた。
「…………なるほど」
ならば、コイツから得られるものはない。
そう思い踵を返した。
瞬間、背後に衝撃が響く。
「……強引に『聖気』を暴発させて鎖を破ったか」
手足に血を流しながら立つ勇者がそこにいた。
その強い瞳には、なにがなんでも刺し違える決意が込もっていた。
「くくっ、良いだろう。テメェの全てを叩き潰してやる」
【憤怒】は凶悪な笑みを浮かべ、拳を握りしめた。
「【強奪】」
「ううっ!」
力奪われ、勇者は膝をついた。
「【強欲】、余計なマネを……」
「ヒョヒョ、これは仕方なかろうて。今のお主では殺してしまうじゃろう。それでは心ゆくまで闘うことはできなかろう」
「………ちっ」
フードを深く被った老人が出てきて、やつれた手をかざすと勇者は再び縛られた。
「それで、どうじゃ?」
「ダメだな。コイツ、おそらく何も知らない」
「ヒョ。【怠惰】も残酷なことをするのう」
哀しげな言葉とは裏腹に、老人の顔は面白げな笑顔に歪んでいく。
「それよりも【亡霊】が向かってきているようじゃ」
「……ちっ、貴様は何をする気だ?」
「わしは無知な小娘に少し……のう」
裂けた笑みのまま、ちらり、と勇者を一瞥する。
「勝手にしろ。己は征く」
興味なさそうに、踵を返す。そして、そのまま壁を砕き、荒れる雪嵐の中を飛び出していった。
「……扉から出ていかんか」
面倒だやつだ、と思いながら視線を戻す。
近づいてきた老人に、勇者は射殺さんばかりの瞳で睨む。
「さてのう、少し話をしようかの」
「…………」
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