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102話 日を失った村


 蝋燭を持った老人に迎えられ、宿へ案内される。入れてくれた。かなり年季が入った木の建物で、足を踏みしめるたびに軋む。


「ごゆっくり……」


 アベルとは別々の部屋に案内される。


 老人に蝋をつけられ、明るくなった部屋を見ると想像していたよりボロくはなかった。壁もハケていなく、棚などの金属部分も磨かれていた。来るはずも無い旅人に備えていたかのように、部屋が綺麗に支度されていた。


「………私はちょっと外に出るわ」


 と、エリーは出て行った。

 アベル君の態度に思うところがあるのだろう。


 ひとり残されたボクは窓越しに外を眺める。


 見上げた夜空に、村の異様さに改めて理解した。

 見当違いではなければ、これは『魔素』だ。異常に濃い魔素が天を染め、『夜』をもたらしているのだ。


 これほどの魔素が一箇所に充満することなどあり得ない。自然災害でも霧のように留まり続ける現象なんて聞いた事もない。


「これが【魔王】の……いや………」


 そう呟くと、コンコンとドアを叩く音が響いた。


「私ですよ。アベルです」

「ど、どうぞ?」


 入ってきたその顔は神妙だった。


「あれ、エリーさんは?」

「少し涼んでくるって」


 そうですか、と少し悩むような仕草をした。

 何かあったのだろうか。


「えっと、エリーちゃんに用事?」

「そうではないのですが……それよりも、ダイアナに渡しておこうかと思いまして」


 懐の陰から出てきたのは白の宝石の付いたブレスレットだ。


「君を守ってくれる魔道具です」

「……ボクに?」

「はい、受け取っていただけますか?」


 ブレスレットを受け取る。

 飴細工も美しく、まるで恋人に贈るようなものだった。


「………でも、なんで?」

「全てを救えるほど、私は強くないですからね」


 彼の瞳は虚ろだった。深い絶望に囚われている。

 それは、きっと……


「必ず、付けていてくださいね」

「……うん、分かった」


 最後に微笑んで、部屋を去っていった。


◇◆


 一人残されたダイアナはもらったブレスレットを蝋燭の灯りに当てて眺めていた。


「これってロベリアのだよね」


 ロベリア商会のブランドものだ。細い金属の飴細工に、小さな宝珠が儚げさを表現している。

 確か、このブレスレットの謳い文句は……


「貴方に白き加護を、だったかな」


 アベルの気遣いは正直嬉しい。でも、先ほどの彼の言葉を言い換えるなら、こうとも取れる。


 『自らの力では救えない』


 救おうと力を振るい続け、その果てに諦めてしまった。手の届かなさに絶望したのだろう。


 ……でも、それは少し間違っている。

 確かに全ては救えなかったかもしれないけど、救えたものだっている。


 そう、アートはきっと救われている。

 その結末としては救えなかったかもしれないけど、少なくとも子供のときに見たアートは嬉しそうだった。アベルを見る目はいつも輝いていたのだ。


 きっと拾われた時から……救われていた。

 何も無い、真っ暗な闇に囚われていた時に救われたその気持ちは少なくとも、ボクは理解できる。


「…………」


 アートは、アベルを庇って死んだ。

 そして、それが逆だったとしても変わらなかっただろう。子供の時から変わらない頑固な性格だ。


「頑固といえば、エリーちゃんもだよね」


 ブレスレットを懐に入れて、小さく微笑む。


 彼女もまた、負け劣らぬほどに頑固だ。明らかに文句がある様子だったのに何も言わずについて来たのだ。アベルの態度が気に入らないのだろうけど、普通ならもっと行動に出ているはずだ。


 ここまで無言なのは滅多にない。

 あるとすれば自分の失敗か、約束を破った時かだ。


 子供の時もアベルと喧嘩して、一週間ずっと口を利かなかったこともあった。


「……そういえば、まだかな」


 ここに来てから小一時間は経過している。

 遠く行っていないと良いけど……


「一応、探してみようか」


 魔力を解放し、探索魔術を展開してみる。


(宿にはいないみたいだね。じゃあ、外に……)


 魔力を少し強め放ち、より広範囲に広げる。

 知覚できる魔力を外に伸ばそうとした途端。


「うっ!?」


 頭に激痛が走った。

 痛みというよりも、酷い目眩に近い。


「うっ……こ、これは……」


 反射魔術だが、現象的には反響だ。

 放った微弱な魔力を放ち、自分に返ってきた魔力で索敵するのだが、普通はここまで強く返ってこない(・・・・・・・・)


「そ、外では魔力を使えぬよ」


 いつの間にか、そこにフードを被った老人がいた。


「な、何も説明しなくて、すまんかったの」

「………外で魔術を使うと、魔術が自分に返ってくるからですか?」

「そ、そうじゃ。て、敵意のない微弱な魔力だったが故に、その程度の苦痛で済んだようじゃが……こ、この村では特定の魔術を除き、全ての魔術は使えぬよ」


 老人はフードを外し、蝋燭に照らされたその顔に、ダイアナは顔を歪めてしまった。


「……み、醜いものでしょう」

 

 血管が浮き上がった青白い肌に、紅く染まった瞳。

 肌の色素が抜かれ、まるで吸血鬼のようだった。


「こ、これは罰……行き過ぎた、先を求めた罪じゃ」


 かつての栄冠に悔いるように、そう零した。


「………お、お嬢さんには関係ないことでしたな。つ、次からは気をつけるようにの」


 そう言い残して、老人は消えていった。


「…………」


 これで分かった。

 やはり、村そのものに魔術が仕掛けられている。

 ……いいえ、魔術というよりも『呪い』だ。


「呪われた村……一体、何があったの?」


読んでくださりありがとうございます

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