101話 ありふれてない冒険
「うわぁ、見当たる限り大樹木だ……」
覆い尽くす大樹林に驚嘆を零す。
「こういう所は行ったことはないのですか?」
場に全く似つかわしくない黒の装束を纏って歩くのはアベルだった。
「私は街から街へと旅をしていたからね。こんな大自然を歩くのは初めてだよ」
街から街へ、移動の際もほとんど馬車だった。
故郷も廃れた街で自然とは程遠く、このように緑が覆い茂っている樹木が並び、自然の神秘には触れたことはなかったのだ。
苔が夥しく覆う樹木に、照らされる陽光。古代により存在する大自然で、未踏の領域だ。それがゆえの美しさに圧倒されずにはいられなかったのだ。
「ふむ、とりあえず方向は決まっていることですし、さっさと行きましょう」
彼は何の迷いもなく進んだ。冒険者の経験がそうさせているのか、涼しい顔で前へ進んで行く。
草むらに当たっても、スバッとひと薙ぎで進む。
魔物に遭遇しても、スバッとひと斬りで進む。
壁にぶつかっても、スバッとひと飛びで進む。
川に出くわしても………
「………ねぇ、冒険ってこんな感じなの?」
エリーゼは訝しげな顔で小さく聞いた。
「……違うと思う」
正直、こんな淡々と進んでいくとは思わなかった。
慣れすぎているのも考えものだろう……いえ、やっぱり彼が淡々としすぎている。感動もなく、驚きもなく、粛々と先へと進む彼が異常なのだ。
そして、一歩進むたびにエリーゼは不機嫌になっていく。圧も強まり、耐えられなくなったボクは提案することにした。
「アベル君、そろそろ休憩でもしないかな?」
「ふむ、そうですね。たいぶ歩きましたし、ここら一息をつきますか」
やっぱり淡々としている。
これでは冒険じゃなくて、ピクニックだ。
「さっき倒した山猩々を調理しましょうか」
「え……あれって不味いんでしょ?」
そう、山猩々は不味い。
肉の殆どが筋肉ばかりで固い。そして、極限にまで引き締まった肉には脂もなく、旨味すらないのだ。
そう、とにかく、とにかく不味い。
「少し待っててくださいね」
と、滑らかな手つきでさばかれていく。
火も魔術で、あっという間に薪火がおこされる。
「よし、できましたよ」
出てきたのはステーキだ。
それも店で出て来そうなやつだ。見た目に裏切られもせず、超美味しかった。塩が効いていて、肉も柔らかった。
彼が無駄のない熟練とした技で、冒険しているとは思えなかったが、楽にさせようとしてくれているのだろう。慣れていないボクたちに対する気遣いかもしれないけど……エリーゼは終始不機嫌だった。
◆◇
小休憩も終え、小一時間ほど歩いたところで妙に空けた闇に出た。薄っすらと見えるのは何かの建築物であるということだけだ。ダイアナはアベルを見て、ここが目的地だということが分かった。
でも、噂に聞く《アステル村》とは違う。
アルマ大陸の辺鄙にある小さな村で、魔術を研究しているという。そして、明るい村だとも聞いていた。外部にも寛容で様々な文化を取り入れ、小さい村ながらも繁栄に勤しんでいたという話だったはずだ。
「到着しましたよ」
ふと、気づく。
(待って。この時間はまだ、陽は出ているはず)
いつの間にか辺りは暗澹の闇に包まれていた。
錯覚か、自然な変化に気づけなかったのか。
黒雲で真っ暗なわけでもない。
霧で見えないわけでもない。
───夜だった。
「ようこそ……こんな辺鄙な村によく来たのう」
フードを深く被った老人に出迎られる。
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