100話 《世界円卓》
────世界円卓。
行政機構でもあり、立法機構でもある。
いわゆる『世界政府』。様々な種族の代表や英雄たちを一つの机に集め、様々な法律や制度を制定する機構だ。世界的に強力な存在象徴を誇り、定められた『法』は絶対である。
(早く来たのは良いけど……早すぎたかな)
と、密かに思うのは並べられている十一席のうち、九の文字が彫られた席に座る女性。彼女は人間代表の一人であり、王国シバの女王でもある。
「他の人たちはまだ来られていないのですか?」
第九席 エンジェ・レウィシア。
女性でありながら、若くして王となった人間だ。
「そうですね。そろそろ四席か五席が来るかと」
現在、彼女の他に座しているのは一人のみ。
優しげな表情を浮かべながら答えた青年のような男こそが《世界円卓》の発起人である。一見、青年に見えるが、実際の年齢は千を超えるという噂だ。
第一席 ゼスト・ガーランド。
そして、一瞬の雷光と共に現れたのは、世界最高の大魔導士と呼び名高い《六英雄》のひとりで、現在は魔術を学ぶ学園、ノアの学園長を務めている。
第四席 ウォーロク・レウィシア。
続いて、突如と風が吹き荒れ、迸る竜巻から銀色の竜人が降り立つ。竜の里の頭領であり、唯一の《竜神》に選ばれている。
第五席 ヒエン。
「よォ、ちょっと寄ってきたが三席は来ないとよ」
「……全く、自由気ままなのは変わらないのだな」
第三席は鬼人族の代表であり、
和乃国の頭領……《鬼神》イズモ である。
「二席、十一席も不参加だそうです。どうもアルマ大陸の様子がおかしいとの事で駆り出されているとのこのです」
そして、重々しく扉が開かれる。
残る四人が揃い踏みで入場だ。
第六席 ツニート・エスキモー。
巨人族代表。本人は巨人と人間のハーフだが、巨人の血を色濃く受け継ぎ、かつ聡明な賢人でもある。
第七席 リアーナ・タイターニア。
妖精族代表。背の美しい羽が特徴的な光妖精で、秘境の森に住んでいる妖精の女王だ。
第八席 クロエ・ヘーゼル。
黒妖精代表。肌色が褐色で、耳が尖った猟奇的な黒妖精で、戦闘部族をまとめあげた女帝だ。
第十席 クラウディウス・ネロ。
獣人族代表。獅子の獣人で、再建された国ベヒモスの王だ。一度は破滅しかけた国を立て直した功績を認められ、席次を任命された。
それぞれ席につき、円卓会議が開催される。
「今回の議題は制度でもなく、法でもありません。世界の守護者たる《勇者》が囚われた件についてです」
第一席のゼストは皆に聞こえるような声で話した。
「……傲慢、暴食、嫉妬、三体の【魔王】を討った英雄がそうそう容易く囚われるとは思えない」
「そうよ。《勇者》には魔王殺しのスキルを持ってるはずでしょ」
銀の竜人が疑問を言葉にする。
そして、妖精は棘のある口ぶりで見下した。
「その辺は第二席の方がよく知ってるんじゃないのか」
場でひときわ体躯の大きい男が問う。
「すみませんが、第二席からは目下調査中とのことで、それ以外は何も知らされていません」
「……第三席も怪しいぞ。半凶堕ちだと聞いている」
黒妖精の女戦士はゼストに疑念の念を向けた。
対し、白銀の魔導士が答える。
「言伝をもらってるぜ。【死神】の気配がするから不参加します、とよ」
そこで、獅子の獣人は人間の少女に声掛けた。
「エンジェ君、おぬしの所の学校が《和乃国》に修学旅行に行っていなかったか?」
「はい。イズモ様直々に引率なされているそうですが……少し心配です」
少女は心配そうな表情で視線を少し下に落とす。
「ですが、あの《鬼神》が味方なのです。ひとまずは信じてみるしか道はありません。それに……」
そして、ゼストに注目するように視線を向ける。
「今回の話はそれではないでしょう?」
少し間を置き、ゼストは本題を話した。
「ええ……私の睨みでは【魔王】が結託したと見ています。長年相反していたはず六道化も結託したとこともある。可能性としては皆無ではないかと」
「……六道化は其々に理想を持つが故に、だったか」
常に相反し続けてきた者たちが結託する。
そこには共有意識がある。
それは『己の願望』を叶えるということ。
しかし、六道化は皆、己の願望が叶えられると信じてやまなかった。それが必然的に指し示されるは……
「憤怒のイーラ、この男が結託するとは思わなかったです。戦闘に特化した魔王で、乱暴者が故に他者と手を組むことはないと思っていたのですが……」
それは馬鹿げていて、途方も無い願望。
成就するべき『その願望』が叶うならばあり得る、と人間の女性は頭の片隅で考えていた。
「ということは《勇者》の救出が今回の核か」
「………黒の女帝よ、誰が救出に行くか、だろ」
《勇者》に貸しを作る。
それはつまり、兵器を保有することと同義。
現世風に言い換えると『核』。絶大な威力を誇るがゆえに他国より優位に立てる。それも大きな武力を持つ国ほど、保有する意味が強まる。そして、小国が持てば大国に対する牽制材料にもなれる点が恐ろしいところだろう。
「オレは抜ける。学園の子供達の方が大切だからな」
「我もだ。巨大な力など不要だ」
「今が大切な時なのだ。余も抜けさせてもらう」
四席、六席、そして、十席が降りる。
立ち位置、国の状況を理解しているがゆえである。
続いて、統率と力に自信のある者たちの答えは……
「………当方は一人だけ遣わせる」
「子供たちに行かせるわ!それもいっぱいね!」
「黒妖精からは精鋭の数百を引き連れて行こう」
三種族が揃い、ゼストは静かにひと頷きする。
軍規模ではないにせよ精鋭だ。【魔王】を相手するには十分な戦力だが、あとひと押しが必要である。
「いずれにせよ『彼』の協力も必要になるでしょう。エンジェさん、取り持っていただけますか?」
人間の代表になり得て、その資格を得た者。
《勇者》が囚われた今、『彼』なしに救出は成せないだろう。
しかし……
「───取り持つまでもないよ。既に向かいました」
そう言い放った瞬間、空気が固まる。
「……其れはいつの話だ?」
「つい一昨日です。目星は付いてるとのことです」
白銀の魔導士は天井を仰ぎながら、ため息を吐く。
「一応聞くが…『それ』は何の立場で言っている?」
「もちろん、ただの報告です。多少の力添えはしましたが、それはシバの王としてではありません」
当然、場は不穏な空気が漂っている。
「そんな話で納得すると思うの?」
皆、内通を疑っているのだ。
見ようによっては『抜け駆け』とも取れる。小国ならまだしも、千年の歴史を持つ大国であるシバが更なる力を持つことを恐れていたからだった。
「………嘘は言ってないな。眼に濁りが無い」
第五席のヒエンの一言で皆は沈黙する。
違和感はする、納得もできない。だが、ヒエンが『嘘ではない』と明言した以上、エンジェという人間の言うことに偽りがないことが証明されたからだった。
「では、私たちはどうしたら良い?」
「……答えは一つでしょう」
決定が下される。全ては『彼』に託された。
それだけの力が彼にはあるのだ。
「彼を信じて、帰還を待ちましょう」
◆◇
世界円卓による会議が終わり、それぞれが自国へと帰った。一人残された第一席は広い廊下を出た。
カツ、カツ、と。
歩を進めるたびに大理石が響く。
カツン……と。
そして、響く音が止まる。
「来ていたのですか。《幽幻》」
柱の影には、漆黒を纏う暗殺者がいた。
「ずいぶん信用しているんですね」
「いえ、ね。世界の秩序を乱す怨敵……【魔王】を倒しうる彼の力を信じているだけですよ」
天井の窓……星空を見上げながら面白げに笑う。
「はてさて、彼のサイコロはどう転ぶのやら」
人は人と争い、そして……神は神と争う。
そう、神を引きずり堕とす時は近い────
読んでくださりありがとうございます。
ついに100話達成しました!




