98話 伝言
またボクは目を覚ますと、既に日は暮れていた。
「……っ」
めまいが酷い。気が抜けたからか、定着が緩くなっている。魂の消滅までの寿命が加速しているのだ。
「そろそろ……かな」
覚悟はしていたことだ。
目的も達成したし、どうってことはないけど、今後はどうするのか、と言われれば考えていなかった。
「ここで、アルの行く先を見守るのも良いかもしれないね……」
窓を眺めながら、呟く。
そこには黄金の稲が広がっていた。
風に吹かれて揺らぐ黄金……美しい光景だった。
「……ん?」
家を囲う木柵の向こうに誰かがいる。
アルと……誰?
「近いうちに発ちます。今度も長期となります」
「……そっか。こっちのことは任せてよ!」
ショートの赤髪で可愛い子だ。身なりからして村娘のようだけど、あれは偽装だろう。汚れがほとんどなく、振る舞いが流麗すぎるのだ。
「じゃあね! 無理はダメだよ」
「はい、エンジェもお気をつけて」
どういう関係なんだろう。
アルの家……《魔剣聖》の家だということは隠蔽しているらしく、限られた人にしか知られていないそうだ。それを知っているということはアルに近しい存在だ。冒険者をやっていた頃のパーティーだったりするのだろうか。
それに、名前にどこか聞き覚えがあるような……
戻ってきたところに聞いてみよう。
「目を覚ましたのですね。あの後、倒れてビックリしましたよ」
「あはは……ゴメンね」
あの後に少し話をしたが、最後に気を失ってしまった。ちょっと前までは突発的に気を失うことはほとんどなかったが、ここ最近頻繁だ。
原因は分かっている。
俗世にいう『未練』だ。幽霊と概念的には近しいかもしれない。この世界に未練があったから、今ここに存在していたのだ。魂に刻まれた未練が肉体をつなぐ。消えたくない理由となる。
でも、ボクの場合は未練が満たされ、世界に固執する理由がなくなった。魂の存在理由が消え、恐らくいつ消えてしまってもおかしくないのだ。
とはいえ、どんな小さな未練でも魂の存在理由となる。だから、最大の未練が満たされたからといって、すぐには消えるわけではない。
「君はあまり顧みないようですが、エリーの言う通り体は大切にしたほうがいいですよ。いずれ死ぬ体だったとしてもね」
「……うん」
ふと、聞こうとしたいことを思い出した。
未練とは少し違うが、さっき気になったことだ。
「あ、そうだ。さっき見えていたんだけど、あの子って誰? どういう関係なの?」
少し早口だったかな。
でも、気になるものは気になる。
今躊躇って、後で後悔はしたくないしね。
「あー……婚約者です」
「うぇえ!?」
思わず変な声が出た。
「え、エリーちゃんとは?」
「エリーとも……そういうことになってます」
アルは落ち込むように肩を落とした。
「後悔はありませんが、相手にも失礼だということも理解しています。ですが、ちゃんと責任は負うつもりです。何とでも言ってください」
「あっ、いや、責める気は全くないんだけど……」
完全に受けの姿勢になるアルだ。
どうしよう。わ、話題を変えないと……
「そっ、それよりも話をちょっと聞こえてしまっていたけど……どこかに行くの?」
「……はい、『魔大陸』に行きます」
正式名称はアルマ大陸。
魔物の生息地帯であり、魔王の支配域でもある。おいそれ簡単に入れる場所ではないと同時に、未開の大地で未知が溢れているという。
「なんでそんな所に?」
「星の欠片に込められていた伝言です」
そこで彼は顎に手をやり、少し考えた。
そして、じっとボクを観察するように眺めた。
「……いずれ公表されるから良いですか」
それは、世界に衝撃を与える伝言だった。
「召喚された救世主のひとり……《勇者》が囚われたそうです」
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