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93話 二つの影


 『人獣大戦』。戦というには一方的な戦だった。

 ベヒモス大国が要塞王国シバを攻め込み、呆気なく返り討ちされたという。


「……そっか」


 その戦いに《魔剣聖》が参戦していた。

 呆気ない戦だったとはいえ大きな喪失もあった。


「アート、会えて良かったよ」


 花束を墓前に置き、手を組み合わせる。


「……あの世でも安らかに」


 隣のエリーゼは当時のことを思い出すように手を合わせている。聞けば、彼女の目の前で撃たれたことが原因で亡くなったという。


 どれだけ心苦しかったか、想像に難くない。

 大切な人を失った気持ちは理解できる。


 だけど、それは言えない。

 自分はそこにいなかったのだから……


「リゼ、もう来ておったのか」


 すると、子供のような少女が近づいて来た。

 小さな体躯と肌の色からしてドワーフの妖精だろうか。


「ユニさん?」


 エリーゼが敬称を使うほどの人だ。

 一応、礼儀を見せないと。


「ボクは……」

「ああ、大丈夫じゃ。わしはアベル君の代わりに墓参りに来ただけじゃ。すぐに去るよ」

「……アル君が?」


 ごそごそ、と手に持つ袋からそれを取り出した、それに少女は驚きを隠せなかった。


「そうじゃ。以前は毎日来とったようじゃが、今は忙しくして毎日は来れていないそうじゃ。でも、その気持ちだけは蔑ろにしたくないらしくての、これを預けられているのじゃ」


 それは、レナッツだった。

 彼が子供の時に作っていた、野菜の一つだ。


「……やっぱり、アル君はここにいるんだね」


 長年、探し続けていた彼と会えるまであと少しだ。

 その一歩が大きく進んだような気がして嬉しかった。


「……アベル君を知っとるようじゃが、誰じゃ?」

「ユニさん、彼女は───……」


◇◆


「これで8件目です。このままでは……」

「そんなことは分かっている!」


 首に富を蓄えるおっさんが声を荒げる。

 彼はロベリア商会の取締役、クラーク・ロベリア。


「では、どうなされるつもりで?」


 ここのところ頻繁に見られた《罪人》の脱走には手引きをする者がいる。それもシバで権力者に当たる自分たちの目を欺き、かつ裏社会に詳しい者だ。


「……目星はついている。だが、証拠が足りない」


 罪の公表前に処刑を下す。これはあってならない。

 そもそも国内で私刑は認められていない。故に、ただの殺人事件として隠蔽された。


 そう、これは『彼』の独断によるものだ。


「何者か!?」


 執事は一瞬の気配に身構える。

 しかし、目視したのは薄っすらとした【影】。意識しなければ、そこにいるという事さえ忘れてしまいそうな程に希薄な気配だった。


「……来たか」


 姿を現した男は暗殺者というには似つかわしくない。例えるならば、そう魔導士……その深淵に至った者のようだった。


「わざわざ私を呼んだのです。何か提案でもあるのでしょう?」

「ああ、理由は知らないが【亡霊】を追っている者は他にもいる。それは知っているな」

「…………吟遊詩人ミンストレルですね」


 ここ数ヶ月に耳にする吟遊詩人ミンストレル

 人通りの少ない場所で謳う謎の少女で、どういうわけか【亡霊】の現場に必ず現れるという話だ。格好も目立つため、度々報告を受けていた存在でもある。


「彼女には悪いが、餌になってもらう」

「……しかし、そうそう簡単に現れますかね?」


 ふん、と。クラークは当然のように答えた。


「問題ない。その為の信用は既に得ている」


 確実な証拠は得られなかったが、積み重ねてきた信用がある。それをひっくり返す時が来たのだ。


「あなたも悪い人ですね」

「なに、悪者と卑怯者とは違う。私は悪者にとっての卑怯者なら、いくらでもなってやる」


 これがクラークの怖さであり、裏社会には隠している『爪』だ。騙すとも言えるが、商売においては必要な能力でもある。もちろん、表では正々堂々と交渉をするのもこの男の特長でもある。


「……分かりました。その代わり───」


 彼も利益を得るべく、対価を求めた。

 その交渉にクラークは少し眉間を寄せるが、


「………良いだろう。ウォルター、用意しとけ」

「かしこまりました」


 執事はすぐさま部屋から出ていった。

 それを見計らったようにクラークは目を細める。


「……しかし、貴様なら強引にでも捕縛できたはずだろう」

「無理ですよ。すでに不機嫌な騎士団長二人を完全に怒らせてしまいます」


 クラークは彼の本質を理解していた。

 いや、どんな人間にも共通していることだ。


「……私は本音を聞きたいのだ。気まぐれで動く人間ではないだろう」


 それは『理由』。これがない限り人間は動かない。

 復讐であれ、金であれ、人を動かすものがある。


「本音、ですか………そんな大したものじゃない」


 礼儀を弁えた喋りとは打って変わり、無気力とも取れる低い声色に変わる。

 そして、彼は踵を返し、闇に溶けていく。


「奪われたものを取り戻す。その為に俺は在る」


 そう言い残し、彼の気配が完全に途絶える。

 まるで【亡霊】のように……



読んでくださりありがとうございます。

ちなみにクラークは70話で初登場しますが、悪い所が剥き出しでした……

今回はかっこいい感じに描いてみました。ぷよぷよのおっさんですが。

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