90話 人探し
彼がここにいる可能性が高まったからといって闇雲に探しても見つからない。だから、まずは彼と面識があるという人間に会うことにした。
「吟遊詩人か。女でやってんのは初めて見たぜ」
海を生業とし、大海龍を討ったS級冒険者。
───《海鳴り》のカスピだ。
「早速ですが……」
「《魔剣聖》のことだな。生憎だが、話せることはほとんどないぞ?」
「少しでも構いません。何か知っていることありませんか?」
少女の真剣な顔に、カスピは訝しげに目を細めた。
「一応聞くが、お前はあいつの何だ?」
「……友達です。大好きな、友達だった人」
少し暗い表情を浮かべ、そう即答した。
「だから、ボクは旅を続けているのです」
どれだけ時間を掛けたのか、カスピは感じていた。
遠い羨望の瞳……想いが目に見えてわかった。
「……そうか」
とはいえ、知らぬ女性に友人のことを喋るのには気が引けていた。
義理堅さ故のジレンマだった。
「何か、掴んでいるのか?」
カスピは、彼女がどこまで知っているのか。
どこまで喋って良いか度合いを探すことにした。
「推測の域を出ないものですが、構いませんか」
「ああ」
まずは、と続ける。
「《魔剣聖》の出身は ”コリオリ”……ボクもそこの出身です。故に、この冒険者が彼以外あり得ないのです」
「……同名がいるかもしれないだろう」
「それはありえません。ボクの父はコリオリで一番の小売店でしたから、来てくれた人の名前と顔は覚えています」
少女は《魔剣聖》が、かつての友と確信していた。
「続けますね。次に、噂になっている【亡霊】」
そこで、ぴくりとカスピは片眉を上げた。
「《魔剣聖》と入れ替わるように出現した暗殺者です。いえ……剣士と言うべきでしょうか」
目撃情報をいくつか挙げ、【亡霊】の動向や現場の共通点についても包み隠さず話した。少女は、一目でカスピを信用できる者だと見抜いていたからだ。
「これだけ共通しているのです。だから、彼を《魔剣聖》と睨んでいるのです。もっとも、現場を目撃したことがないので確証できないのですが」
カスピは驚きを隠せなかった。
噂のみで共通点を割り出し、確実に彼へと近づいていたからだ。
「……何か?」
「いや……よく集めたな」
これほどの執念を当たり前と言わんばかりの表情だ。友のため、という枠組みを超えている。
「…………すまない」
彼女の瞳は真剣だった。
なら、真摯には真摯で返すべきだろう。
「だが、俺より知っている者の居場所は教えてやる」
カスピは西に親指を立てて指した。
「朝日が出た頃に西の協会周辺を探してみるといい」
「そこに何があるのですか?」
「行けば分かる」
と言い残して、丈のほどの巨大な包丁を背負い、去って行った。
「西……まだ行ったことなかったね」
あまり重視していなかった場所だ。
噂は東が多く、彼も東の何処かにいるのだろうと踏んでいたが、少し偏っていたかもしれない。
「明日の朝に行ってみようか」
唾の長い帽子を被り、今日も少女は街に唄う。
◆◇
その夜。
光が途絶えた道で、男が何かに追われていた。
「くそくそっ! 何なんだ! 何が起きている!?」
焦燥に駆られている男は、元・奴隷商だ。
かつては国を牛耳っていたが、今や見る影もない。
「なぜ……今なんだ!?」
国の変革が誰しも良い影響をもたらすわけではなかった。物価の平定や貧困層への支援、そして、奴隷制の撤廃………
それは奴隷商人にとっては都合の悪い変革だった。
かといって、逆らうと『世界』を敵に回す。
「うっ……!」
すると、大通りに漆黒が立ち塞がっていた。
深く被ったフードの奥に無機質な紅い瞳が覗く。
奴隷商は、漆黒が恐ろしく、慄いて後退りする。
「く、くそっ!」
這うように背後を見せた瞬間、視界が暗転した。
いつの間にか、漆黒に見下されていた。
「や、やめ……!」
抵抗する間も無く、奴隷商人は処断された。
翌日、死とともに現れた【亡霊】に騒めく。
そして、それは少女の耳にも入った。
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