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86話 空虚の王



「……ネロ」


「〜〜〜ッッ!黙れ黙れ!誰だが知らねぇが、どきやがれ!俺様が諦める訳にはいかんのだ!」


 ズキズキと頭を抑えながら睨む。

 なぜ、死を覚悟してまで抗ったのか。獣人の為に戦っているはずの自分に歯向かう理由が分からない。

 それを尋ねるよりも先に。


「ネロ、ぬしは何のために戦っている?」

「知れたことを!それを止めるために歯向かっていたのだろう!決死で戦ったのだろうが!」

「………………」

「獣人が鱗を持てば異端とされる!体毛が黒ければ忌まれる!世界は────永遠に不平等なのだ(・・・・・・・・・)!」


 政に終わりはない……それは不平等の永遠。


 だから、獣人のための世界……

 世界を一つにまとめようとした。そして、ひとりの支配者のもとに種族ごと領分に区切って種族間の不平等を消したかった。


 どれほどの重責を背負うかも理解している。


 業がどうした、罪がなんだ。

 彼は誰よりも蔑まれ、誰よりも多く獣人を救った。


 全ては彼、アースガルドが報われる為。

 憧れた英雄の願いを叶える為。


「……まだ分からないか」

「………てめぇは何を言っている?」


 対し、クラウディウスは憐れみ……ではなく。

 真摯な瞳で彼を見つめた。


「ネロ・クラウディウス・ライバック・ミスルトー」

「!」

「なぜ、この名を刻んだ?」


 そこで声が止まる。

 そして、気づく。


「────……まさか」

「……………」


 なぜか、知っていた。

 その名を。


「……てめぇ、クラか?」

「やっとその名を呼んでくれたな」


 微笑む獅子人。見覚えのある姿だった。

 しかし、そうであれば何故……


「確かに不平等だと言った。まつりごとに終わりはないと言った。………だが、それは世が移り変わるからだ。故に、まつりごとの形も変わるのだ。永遠のカタチなど無い」

「…………結局、不平等ってことじゃねぇか」

「いいや、それは違うぞ」


 言葉の真意を告げる。その上で考えを明言する。


「移り変るからこそ、不平等が薄れていくのだ」

「………あ?」

「一度に全てを変えることは出来ぬよ。だから、移り変わりゆく世に沿ってまつりごとを変えていく。その中で差別をも削っていくのだ」


 その世界は、獣人も含めた全てのヒトが幸福でいられる。確かにそれも一つの平等な世界だろう。


「時間がかかるのも理解している。だが、俺たち(・・・)が諦めなければ、未来に種族間の違いなど笑って飛ばせる世が創れると信じている!」


 ……だが、夢物語だ。

 移り変わりゆく中で変えることが出来なければ、無に帰する。だからこそ、一度に全てを変えるのだ。


「そして、彼……アベルはコリオリ出身だ。ぬしが滅ぼした街でもあり、余を誘い込んだ場でもある」

「…………」


 知っている。コリオリは、北陸の最果ての地。

 邪神のアンラを全て復活させた場だ。


「ネロよ、今のぬしはただの暴君。かつて余たち獣人を奴隷として暴虐の限りを尽した王と同じだ」

「────っ!」

アベルの憎悪もまた、ぬし自身が自分に向けさせた刃。ぬしの理想が生み出した憎悪のひとつだ」


 そんなもの、分かっている。

 全てを背負った上で目指したのだ。

 理想のためならばどんな犠牲も厭わない。

 死んでいった者の為にも諦めるわけには────


「ここが、終着の地。ぬしの果てだよ」

「………そんなもの」

「もう一度言おう。ぬしは負ける」


 彼は知っていた。

 ネロという獣人を。

 強情な負けず嫌いである事を。

 敗北を容易く認めないという事を。


「────あ」


 ズキン、と記憶が覚醒する。

 消されたはずの記憶(・・・・・・・・)が蘇った。

 それは唯一敗北を認めた戦い。


 将軍となって初めての初陣。

 偶々寄っていたという一人の鬼人によって、取るに足らないと侮っていた小国に大敗した。


 その時、世界の不条理……圧倒的な力を知った。

 這いずりながら逃げ、力尽きそうになった時。


『ややぁ、君がネロっすね』


 とある少女に会った。

 ……あいつは誰だ(・・・・・・)



「……ハハッ、なんだ。そういうことかよ」

「ネロ……?」


 確かに、これは敗北だ。

 彼は取り返しのつかないところまで進んだ。

 全てを失い、全ての獣人に忌まれるまでに至った。

 それでも認めようとしない。

 

 ああ、なんと愚かな道化か!


「クハハハハッ!結局、道化だったのは俺様か!」


 ネロの嘲笑が響き渡る。

 笑い声が収まり、一拍置いたところで、黒剣士が抱えている狼人を睥睨する。

 そして、黒剣士に視線を戻す。


「………おい、アベル」


 ならば、のこそう。

 俺様という愚者がいたということを。


「俺様は何も譲る気はねぇぞ」


 最後まで、強情ぶろう。

 それが愚者の最後に相応しい。


「…………ああ、分かっている」

「そうか。なら一つ教えてやろう」

「………?」

「確かにコリオリを滅ぼしたのは俺様だ。だが、結局、俺様も道化だった。その意味を考えろ」


 そう、結局は己の願望のために生きた。

 獣人の平和の為ならば何でもできた。

 覚悟があった。曲げられない信念があった。


 ……だからこそ、利用された。


「それから……クラ、あの世から見ているからな。てめぇの語る夢物語、その実現をな」


 僅かに微笑んだネロは黄金の翼を広げる。


「何を……?」

「俺様を討った後に責を負うつもりだろうが……させねぇよ。責も、悪評も、全て俺様のものだ。てめぇは精々────理想に死んでいけ」


 見下しながらも、瞳にはかつての光が灯っていた。

 変わる前のネロに戻ったのだとクラウディウスは理解できた。


「………ネロ」

「ふん、じゃあな」


 瞬間、凄まじい風が巻き上がる。

 全てを失った王は天駆け、再び全てを睥睨した。


「【一よ、全へと還れ】」


 僅かに残ったアンラの力を解き放つ。

 支配していた獣人たち、全ての洗脳を解除した。


「あれ……俺は……何を……」

「確か最後の記憶は……」

「なんで私は武器を握っているの……?」


 ヘビモス軍は次々と武器を落とした。

 今までの我が行いを咽び泣くものや、発狂する者もいたが、解放されて喜びに満ちる者たちも多くいた。


「───…洗脳した兵を利用するつもりだっただろうが、何もかも思い通りにはさせねぇよ。ジュリアン」


 星に最も近い青空で、何かを見据える。


【─────】


 瞬間、鱗が軋み始める。

 目から、口から、あかが溢れる。


「………さらばだ、我が友よ」


 笑みを崩さず、ネロは散った。



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