85話 此処に在りて
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気がつけば、白い世界にいた。
真っ暗だった世界が純白へと塗り変わった。
この世界はどこか、暖かい……
そして、また気づけば、前に誰かが立っていた。
体毛全てが純白で、美しい姿だった。
いつもと違う姿だが間違える筈もない。
「アート……?」
そして、隣には黒髪の子供。
あれは……俺だろうか。
「アベル」
呼ばれて、俺はアートを見つめる。
俺を見つめる彼は優しく微笑んでいた。
「なんで……そんな顔をするんだ」
今生とばかりの顔だ。
駄目だ、と声を上げるも届かない。
「大丈夫。俺は幸せだった。お前と共にいられて、拾われて……幸せだった」
遠ざかるアートと子供の姿。
俺は手を伸ばしながら、追いかける。
「お前には、もう帰る場所があるだろう?」
どんどん小さくなる。
小さくなった先が眩く輝く。
「だから、戻ってこい。我が主よ」
瞬間、世界が塗り変わっていく。
清々しく広がる青空。
差し込める眩い日差しの先に、相棒の姿があった。
彼は、満足そうな顔で、崩れ落ちた。
「アートっ!」
俺は駆け寄って受け止める。
肩に倒れるアートは、小さく微笑んで。
「……少しは、恩を返せたかな」
「ッ、十分だよ。十分すぎるくらいだよ……!」
俺は堪えきれなくて掻き抱く。
ごぽりと血を吐き、彼は穏やかな表情で。
「それは……よかっ……た」
潰える瞳の光。
ゆっくりと、瞼を閉じた。
◇◆
アートを抱えながらエリーの元へ戻った。
彼女の瞳からも大粒の涙が溢れている。
「…………エリー、ごめん」
「っ、一番辛いのは……あんたじゃない……!」
エリーは俺の袖を握り、涙を堪えた。
俺は……
「まだだ! まだ、俺様は死んでねぇぞ!」
全てを失った王。
満身創痍のネロが血反吐を吐きながら叫ぶ。
エリーは盾と剣を構えて警戒する。
しかし、俺は何もする気がないでいた。
「…………」
こいつが目指したものは『差別の完全消去』。
それを目指した理由、それは…………
「アートの前世……アースガルドの為だったのか」
呑まれた時、彼の失われた記憶の一端を見た。
映っていたのは黒い、老いた狼人。
アートの前世の姿だった。
「〜〜ッ!そんな目で俺様を見るなぁ!」
歯軋りして怒りを露わにするネロ。
そこにひとりの獅子人が歩み寄ってくる。
「…………ネロ」
お前だって一人じゃなかっただろう。
かつて共に戦い、そして、裏切った友……
戦いの決着は彼がつけるべきだろう。




