77話 目指した世界
俺たちは孤児。とある騒乱で救出されなければ、檻の中で死んでいたであろう薄汚れた子供だ。そんな俺たちが最初に抱いたのは、憧れ。自分たちを救ってくれた孤高の獣。彼の様な英雄になりたかった。
英雄になって、彼の正しさを認めてやりたかった。
だが、彼は既に世を去っていた。
その代わりに、俺たちは目指した。
『獣人が虐げられぬ世界』
蔑まれながらも、多くの獣人を救った災厄の獣。
世に疎まれた彼に報いたくて目指した世界。
全ての獣人の幸せを願い、国を作った。
歩んだ道は決して楽ではなかった。
二人の親友を失い、自分を信じてくれた者たちを死なせた。いくつもの犠牲の上に立ち、積み重ねた先にようやく獣人の国を建国できた。
その頃に、余たちは墓前で願った。
『余は王になったぞ。ネロも大将軍となり、強力な抑止力にもなってくれている』
『…………』
『余たちが願った国……その夢に辿り着くまで後少しだ。先は遠いが、まだ見ていてくれ』
クラウディウス・ライバック・ミスルトー。
余は友の名を背負い、《獅子王》として君臨した。
それからは順調に政の形が出来つつあった。
農業大国として名を馳せるようになり、かつて存在した『完璧な獣』の名を借り、ベヒモス王国とした。
『……クラよ、てめぇはここで満足か?』
『満足できぬよ。永遠の平和などない』
『……………そうだな』
『だから、余たちが戦い続けなければない。国ができたとしても、政に終わりはないのだ』
その時のネロの顔がよく分からなかった。
落胆でもなく、驚嘆でもない。ただ無表情の奥の何かが変化したということだけが分かった。
今思えば、この頃からだっただろうか。
理念が相反するようになった。
『平和』と『発展』。
余はベヒモス王国の恒久的平和を目指したが、ネロはさらなる発展を目指した。
ネロの増長は留まることを知らず、次々と他国を侵略した。他国の思想を認めず、ベヒモス王国の思想を強制した。そして、反逆者は次々と黙殺していった。
ネロの足元にはただ、死体が積み上がっていく。
余が何度注意しようと止まることはなかった。
そして、ついに同盟国にまで侵略行為を行った。
ネロは壊れた。もはや許容できない、と罰した。
『クラ、なぜだ!』
『ぬしはやりすぎたのだ。もはや許容できぬ』
『聞け!俺たちの目指したものは───』
『親友とはいえ、これ以上は看破できない。ぬしとの縁を切り、国外へと追放する。一切の入国を禁ず』
その時は、国王として正しい判断だと信じた。
相手が親友だったとしても、法の前は誰もが平等。
故に入国を禁じ、国外へと追放した。
───結果、彼の憎悪を増幅させただけだった。
怒りの矛先は、妻に、娘に、民草に向けられた。
彼の憤怒は世界をも脅かした。
彼の理念を理解してやれなかった。
理解しようとしなかった。
全ては、余の過ちに帰結する。
故に余が決着を付けなければならんのだ。
乾坤一擲。
ネロに一矢を報いることだけに全てを投げうつ。
激しい衝突音が森中に響き渡る。
「………!」
飛ばされる左腕。散る鮮血。
痛みを堪え、勝ちへと喰らい付く。
しかし。
顎を貫かれ、崩れ落ちる。
打ち負けたのは……クラウディウスだ。
「……………ネ……ロ………」
消えゆく友の姿。
掠れる視界に映るのは未だ。
憎悪に燃える……子供の姿だった。
「……この程度で俺様を討とうなどと思えたものだな」
その時、それは現れた。




