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74話 左方のチェシャ


 黒の剣士が経ってから半刻後。

 雨に濡れながら待機していたエルヴィンの頭にようやく、進軍の声が掛かった。大きな肺活量に空気をめいっぱい吸いあげ、大咆哮の号令をかける。


「全隊、突撃!」


 その瞬間、アートとエリーゼは凄絶な速度で真っ先に駆け行った。あれほどの速度、走力を得意とした獣人である我らでさえも置き去りにするほどのものだ。

 

 どれだけの鍛錬を積めば……否。


 これは想い。

 想いが彼らを駆り立てているのだろう。自分たちもクラウディウスに忠誠を捧げた者。その想いだけは誰にも負けない。


 そして、この戦いに勝てば、国に帰れる。

 平和だった時を取り戻せる。


 なれば、余力を残すなどあり得ない!


 エルヴィンはさらに体勢を低くして、地を踏む力を強める。後続も呼応して続く。


 狼人で構成された隊。暗闇を駆け、獲物を狩る。

 その団結力において獣人族の右に出る者はいない。

 狼人の隊全体が木々を縫って前へ、前へと進む。


 しばらくして、エルヴィンは違和感に気づく。


「停止!」


 隊全てが統一して足を止める。

 エルヴィンは全隊を見渡す。


「………こんなに少なかったか…?」


 元々少ない隊だ。出陣時の人数を間違えるなどあり得ない。明らかに減っている。


「消えた者は?」

「バルサ隊、2名です」

「ダラス隊、1名だ」

「クレイグ隊、0名です」

「……ドルフィン隊、5名です」


 少ない魔術師で構成された隊を中心に消えている。

 そして、クレイグ隊は各々に領域を常時展開してるため、不意の攻撃を感知して完璧ではないにせよ、かわすなりに弾くなりにできる。故に、防御が不得意な者から消しているのだろう。


「すでに奇襲が……?」


 と、バルサは不安そうに言う。


「それはないだろう。ワシらは魔剣聖とのは別方向から進撃しているのだ。そうそう簡単に気づかれるはずがない」


 ダラスはそう言った。

 確かにそうだ。魔剣聖が進んだルートはすでに警戒されている前提で別ルートから進んだ。今進んでいるのは、ベヒモス軍の背後を奇襲するため、大きく逸れてのルートだ。ファングの三隊もまた別のルートを進行している。


 いずれ見つかるとは思ってはいたが、こんなに早いとは思わなかった。可能性としては、誰かが情報を漏洩したか、かなりの遠視を得意とした夜目を持つ者がいるか………


「ドルフィン、広範囲で感知魔術を展開しろ」

「それでは敵に……」

「構わん、ただ一定範囲ずつ範囲を広げてくれ」

「一定範囲……了解しました」


 ドルフィン率いる魔術師は感知領域を展開した。その領域を少しずつ、少しずつ拡げていく。


「何かいます。ただ……」

「ただ?」

「姿が不鮮明です。もや(・・)がかかったように分かりづらくなっています」


 阻害魔術がかかっているのか、姿を正確に捉えることができないという。距離も予想以上に近かった。

 放っておく手はない。今ここで叩き潰す。


「クレイグ、敵の攻撃を弾きながら先導してくれ」

「わかっ…… ドルフィン!!」


 クレイグはドルフィンに体当たりをした。


「何を……!」

「くそ、いっでぇ!」


 足に小さな風穴を開けて呻くクレイグ。

 そこで、弾丸が飛んできた。

 

 ヒュ、ヒュ、と。

 次々と皆が倒れていく。


 ヒュ、ヒュ、ヒュイン、と。

 極小の弾丸が回転しながら飛んでくる。

 エルヴィンはクレイグを背後に剣を振るう。


「大丈夫か!」

「ぐっ、すみません」


 クレイグは後退して行く。戦力的に痛手だが、ここで無理させて失うよりは遥かにマシだろう。


「ドルフィン、敵はどこだ?」

「そ……それが明確に出現した気配が三つあります」

「……この戦法、あの猫か」


 夜目がきく上、長距離を狙撃する遺物アーティファクトを操る者。

 恐らくネロの左腕の……


「くっ!」


 間髪入れずに弾丸が飛んでくる。

 躊躇っている暇はない。


「分身がいる方向は?」

「前を少し右、左真っ直ぐ、それから背後です!」

「ダラス隊は左、バルサ隊は背後、俺の隊は前方右、エルヴィンは防壁を張って警戒しろ。敵を討ったら即座に前へと進むぞ!」


 各自に突貫する。相手はあのネロじゃない。

 隊で攻めれば確実に倒せるはずだ。


「散開!」


 においも補足できた。間違いなくいる。


《ショット》


 わずかに声が聞こえた直後に弾丸が迫り来るが、構わずに弾いて前進。敵はすぐそこだ。暗闇に揺らめく影が一つ見えた。

 そこを剣で斬りはらう。 


 しかし、影は斬られた瞬間消えていく。

 直後、四方から放たれた弾丸を浴びてしまう。


「ぐっ……!」


 そして、いつの間にか孤立していた。

 エルヴィンは脇腹の流血で膝をつくも、警戒を解かずに周囲に目を張る。


「……左方のチェシャ」


 そこに、緑の瞳をした少年が姿を現した。ピンと張った猫耳の少年は、長い筒状の武器を両腕で持ちながら近づいてくる。


「にゃはは、相変わらずにゃ」

「……チェシャ、なぜ……」

「サヨナラにゃ」


 元気溢れる声とは裏腹に、容赦無く。

 ダァン、と長筒が火を噴く。



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