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70話 かつての親友


 俺たちを含む、第一拠点にいた者たちは第二拠点へと引いた。第三拠点は魔物が襲い、クラウディウスをはじめ、S級冒険者のカムイが拠点全体に風の結界を張っていた為、被害は皆無だった。そして、避難中のところを襲われた第二拠点は被害を最も被った場でもあり、その立て直しと再三の襲撃に備えるためにカムイを除く主戦力が集った。

 そこで俺は負傷したアートの様子を見に行った。


「何だ、その髪は?」

「なんか気合いを出したらこうなった」

「なにその根性論……まぁ無事ならそれでいいか」


 アートの髪が一房、白く変化していた。

 どういう状況でそうなったのか知らないが、無事だった方をひとまずは安堵しよう。


「もう大丈夫だ。ありがとう」

「いえ、こちらこそ第二拠点を守ってくださって感謝いたしますわ」


 オリヴィエから受けた治癒で全快したようだ。前回の時は『瞬功』を常時発動させて全身の筋が切れて治癒に時間が掛かったが、今回は上手くコントロールできたようだ。


「上手く操作コントロールできたんだな」

「ああ、少し無茶はしたが慣れてきた」


 ぐっぐっと拳を握り直して体の調子を確かめるアート。『気圏』で感知してみると内包する魔力がさらに変化していた。

 なんというか……灯る光がさらに強くなっている。


「聞いたぞ。黒ハートを倒せたんだな」

「ああ。契約してなければ、マリーに勝てなかった」

「マリー?」

「彼女の名前だ。不鮮明だが記憶が蘇ってきた」

「……何か、変わりはないか?」


 いきなり「クハハ!蘇ったぞ!」という魔王的展開になってしまっても困るしな。記憶とは《魔王》と呼ばれた狼のものだろう。


「記憶が蘇ろうと、俺は変わらない。大丈夫だ」

「……そうか」


 すると、アートはいつの間にかこちらを見ていた。

 視線を外さず、ただ見つめていた。


「どうした?」

「いや……何でもない」

「うん?」


 俺の顔に何か付いているわけでもなさそうだ。

 と、そこで白狼フェンリルの獣人の声がかかる。


「エルヴィン?」

「お前たち、そろそろ来てくれ。クラウディウス様より今後の作戦について話があるそうだ」


◇◆


 革命軍のほぼ全戦力が集められ、各自に作戦を伝えられた。暗闇の隠密を得意とした梟の獣人の話によるとそろそろベヒモス軍とシバは衝突するそうだ。

 そして、衝突するタイミング……遠方の雷雲が轟いてから数刻間を置いてから我々革命軍は突貫を敢行することになっている。ネロに勝ちうる戦力も十分に揃っている上、作戦に文句はない。

 ただ………


「クラウディウス、少し聞いてもいいか?」

「おぉ、アベルか。どうした?」


 作戦が決定し、皆がいなくなったところを俺はクラウディウスを呼び止めた。

 先日のネロの奇襲があった後、即座に撤退命令があった。革命軍内には意思疎通のために『念話テレパシー』で情報が共有されていることは知っている。

 そして、状況を知った上での命令であることも。


「先日はなぜ引かせた。絶好の機会だったはずだ」

「先程も言っただろう。第二拠点の立て直しを……」

「それとは意味が全く違う」

「…………」

「あの時はネロが単身で奇襲してきた。そして、ベヒモス軍が到着するまで時間はまだあったはずだ。最小限の被害でネロを討てる機会はそうそうない。それを捨ててまで引かせた理由はなんだ?」


 クラウディウスは視線を下に向けて黙り込む。


「おい……」


 いらつきを隠せず低い声で呼びかけた。

 すると、彼は絞り出すように吐露した。


「───……奴は親友だったのだ。三年ほど前にネロの企みを知り、袂を分かった……な」


 それを聞いて、俺は怪訝な顔を浮かべる。


「まさか、それが理由か?」

「……ぬしたちが来る前、余たち革命軍がベヒモス軍に向けて奇襲したことを知っているか?」

「………ああ」

「あの時……奴の首に迫り、刃を交えたが惨敗した」


 確かにネロの強さは異常だ。特に耐久面が異常に高い。俺の拳を幾度と受けたはずなのにビクともしなかった。あの硬度は土くれの魔王(アケディ)以上だ。


「余は重傷を負い、革命軍は撤退した。しかし、ベヒモス軍に囲まれ、革命軍の存命すら危うかったのだ」


 俺も違和感を感じていたのはそこだ。革命軍の面々を見て分かったが、ベヒモス軍のど真ん中に構えていたネロを狙い撃ち、撤退も成功させられるほどの戦力ではなかった。


「余たちが存命し得たのは、ネロがその追撃を止めたからだ。とうに余を覚えていないはずなのに……」

「…………」

「……余はネロの目を見た。ヤツは自分で何をしたか理解できないようだが、余はそういうことであると知っている。だから、見逃された借りを返したまで。次は一切の情けをかけずに奴を討つ」


 俺はかりかりと頭を掻きながら、クラウディウスの言葉を飲み込むことにした。


「はぁ、すんなり納得はできないが、裏切りではないことが知れて安心した。……今回の作戦、俺も全力を尽くすことを約束しよう」

「………アベル、ぬしは……」


 と、俺は僅かに綻びながら部屋から出て行く。

 結果的に被害は最小限に抑えられたのだ。そこを責める気はない。彼の、決断は間違っていない。

 そう、これは俺個人の私情だ。


「……ネロ」


 本当は───すぐにでも殺したかった。

 革命軍を救うと決めたが、その憎悪は変わらない。

 変わるはずがないだろう。


「一石二鳥……か」


 ネロを倒して、復讐も革命軍の救済も叶えるという事だ。いつかエンジェにも言われたが、こんな早く機会が来るとは思わなかった。

 今回の作戦は俺たち次第で結果が変わるのだ。


「うん、そうだな。エンジェの言う通りだ」


 英雄ヒーロー、そして復讐者アヴェンジャー

 両方を叶えて、エンジェの元へ帰る。

 ────そう、誰も奪わせやしない。



◇◆


 その頃のシバ国。レイア率いる騎士団が門に構えていた。入国者には厳しい査閲を課され、少しでも不信があったら刃を突き付けられるほどである。"朧事件"の奇襲もあり、皆が殺気立っていたのだ。

 そして、それは王宮内でも同じだった。


「王宮は本当に安全なんだな!?」


 ロベリア商会の当主、クラークが喚く。


「おい、ディーヴはどうした! ディーヴは!」


 彼は小心者で最も嫌疑深い男だったが、ディーヴだけは心底信頼していた。さらに言うのであれば、ディーヴの見えているビジョンはクラークと近しい道であり、数少ない理解者でもあったのだ。


 ゆえに、ディーヴの不在が理解できなかったのだ。


「ディーヴはノアに向かわれています」

「なぜだ!? なぜ私の許可なしに行ったのだ!?」

「彼にも彼の事情がある。あまり責めてやるでない」

「ディーヴなしに安全とは言えないだろう!」

「今はアカイムがここを張っておる。彼の目と隠密、そして、その実績は知っておるだろう」

「ぐぅ……」


 六英雄の一人、”幽幻ファントム”と呼ばれる暗殺者はあらゆる嘘を見抜き、彼が一度守りに徹したら必ず守り、暗殺を命じれば必ず成功させてくる裏の英雄である。その偉業は褒められたものではないものもあるが、実績にものを言わせる絶大な信用がある。

 故に、クラークですら黙らざる得なかった。


「……なんであの様な人が当主なんでしょうか」

「ううん、彼はあれでも商才があって、一代で子爵から公爵の地位にまで登りつめたんだよ。……確かに小心者であることが玉に瑕だけどね」


 通りかかったのは朱色のドレスをまとう、レウィシア家の第一王女、エンジェ。そして、彼女に追従する小鴉丸である。


「でも、彼が不安になるのもわかるよ。だって、これから戦が起きるのでしょう。私だって不安だよ」

「いえ、クラーク様は保身的なだけでしょう」

「もう……口が悪いのは変わっていないね」


 二人は通りがかりに先ほどの会話が聞こえていたのである。そして、クラークの不安がうつったのか、エンジェは俯いて不安を零すように呟いた。


「アベル……大丈夫かな……」

「きっと大丈夫です。エンジェ様、彼らの身近で見てきた貴女自身が一番分かっているのでは?」

「うん、そうなんだけど……胸騒ぎがするんだ」

「……アベルの約束をしたのでしょう。帰って来ることを信じて待ちましょう」

「うん……」

「何かあれば扉にいますので声をお掛けください」

「小鴉丸も無理しないでね」


 と、エンジェは部屋に入る。

 冒険者を長らくやって来たのもあり、貴族暮らしが窮屈だった。子供の時もお転婆で作法など気にしなかった。その怠惰が今、自分に返って来ていた。


「はぁーーーー……」


 ベッドに突っ込んだエンジェは大きく溜息を吐き、「やっぱり心配」と零した。


「アベルが強いのはよく知っているけれど、何でもできるわけではないんだよ」


 強さは万能ではない。

 アートに教えられたことでもあった。


「……私がもっと強かったら」


 もっとアベルのそばにいられたのかな、とつい零してしまう。

 しかし、それはできない。自分では力不足。


「……ううん、それは私の役割じゃない。私は……私がアベルの帰る場所を作るんだ」


 強さではエリーやアートがいる。

 自分では到底叶わない場所。一生辿り着けないと知ったからこそ決意したのだ。強さで全てを救えないからこそ、決断した。


「……だったら弱音なんて吐いていては駄目だね」


 よし、と。

 エンジェはベッドから降りて、法や王政について勉強を始める。昔は自ら一度もやろうとも思わなかった。興味なかったのもあるが、勉強する意味できたのが大きいかもしれない。


「ごめん、小鴉丸、紅茶お願いできるかな」


 一息に紅茶が欲しく、小鴉丸を呼びかけた。


「……小鴉丸?」


 反応がない。もう一度呼びかけるも反応がない。

 いつもなら即座に返信が返ってくる。


「…………」


 まさか、と杖を持って恐る恐る扉に近づく。

 魔力の気配はないが、勘が警鐘を鳴らしていた。


「………っ!」


 背後に嫌な気配を感じ、咄嗟に振り向く。

 しかし、誰もいなかった。


「気のせいかな……」


 と、胸を撫で下ろして、扉に手を掛ける。


「キヒ……」


 そこに迫る黒い影。暗闇にきらめく凶刃。

 違和感に、再び振り向いた時はすでに遅く。


「───え?」



 ───その夜、ついにベヒモスとシバが衝突した。




読んでくださりありがとうございます。

第一部の終わり……第四章の執筆のため、長期休載とします。


◇ステータス◆

エリーゼ・レウィシア

等級:S

種族:妖精・人間 職業:聖騎士 属性:光

体力:A 筋力:A 耐性:S

敏捷:SS 魔力:SS+  魔耐:SS

固有能力ウェイクスキル『並列詠唱』『魔術強化』

種族能力シュタムスキル『魔力操作』『自然同化』

称号:”白銀” ”白の騎士”

悩み:最近、鎧が窮屈。特に胸。

※移動魔術『光動』と、ステータスの俊敏は無関係。

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