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19 格差

 翌日の昼休みに、ぼくはさんざん小岩井さんからお説教をうけた。


 女の子を殴るなんて男子として最低よ、とか、女の子に死ねだなんてありえないわ、とか、もっと平井くんはフェミニズムを身につけるべきね、とか、霧島さんの体操服に田宮くんの唾液がついてしまったのかと思うと二度と体育で霧島さんとペアストレッチができないわよ、だとか、ぼくは椅子に縮こまって座り、退屈なのでちらちら窓の外を眺めていたりしていたが、小岩井さんの、

「もし平井くんが本当にバイオレンス思考の持ち主だったのなら、とてもじゃないけど将来結婚は無理ね」

 という言葉に反応して、

「ぼくのことを結婚を前提に考えていたのか。嬉しいよ」

 なんてことをのんきに口走ったら、小岩井さんは顔をかんかんに真っ赤にして、声を今までの二倍くらいに拡張して、さらなる小言をつらねた。


 やっぱり女の子に、体操服を嗅ぎたいと思う男子の気持ちは分からないのだ。




 休み時間にトイレに行った帰り、廊下でばったり霧島さんと出会った。

 昼間の小岩井さんのお説教のおかげで、ぼくはすっかり卑屈な気分になっており、営業マンもさながらに腰も低くなっていたため、とても慇懃な態度で霧島さんに謝罪をのべた。


 霧島さんは照れくさそうに頬をかいて、「わたしも悪かった、蹴って」と言って、小走りで自分の教室へと駆けていった。

 今日を振り返って、ひとつだけ奇妙に思ったのが、田宮くんの変態行為が噂になっていなかったことだのだが、今の霧島さんの態度を思いだしてみると、それなりに納得してしまった。昨日、田宮くんにひどいこと言って、霧島さんも一応反省しているんだろう。

 でも、なんでぼくのことだけ小岩井さんに告げ口しやがったのだ。




 ぼくはてっきり、田宮くんが昨日のショックで鬱にでもなってしまうのではないかと心配していたが、放課後になって、田宮くんがいつもより数段晴れやかな表情をたたえ、ぼくら二組の教室に入ってきた。田宮くんはぼくの席に近づいてこう言った。

「俺はまた、新しい恋を探すんだ」

 鼓膜がやぶれそうなくらい恥ずかしい台詞だと思った。ぼくは偉ぶった感じで深くうなずいて、田宮くんの肩をぽんと叩いて、がんばれよ田宮、って上から目線で言ってやった。ぼくが同い年を呼び捨てにするのは、たぶん今日が初めてだ。


 ぼくの中での今日の格差ランキングは、小岩井さん>霧島さん>ぼく>田宮くんという順で、かなり明確であった。

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