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爆発都市アバドンちゃん!


 その場所には3人の男女がいた。勇者、魔法王、そして赤い女だ。彼らの背後には大きなスライム状の塊がある。ダンジョンコアに似ているな。

 魔法王は気絶しているようだ。お漏らしして倒れている。こいついっつも漏らしてんな。すごく興奮する。

 勇者は意識はあったが、オリハルコンかミスリルか、魔法金属の塊に体を包まれて身動きが取れないようだ。身動きひとつ取れない状態で脱するのは難しそうだ。ガチムチの拘束とか誰得だよ、くそ。


 そして、倒れた2人と大きなスライムの前には赤い女がいた。こちらを見て面倒くさそうにため息をつく。


「ヨソモノ預言者か。邪魔しに来たのか」


 これどう考えたら良いのか。ヨソモノというのは並行世界をさしているのか?


「いやあ、偶然だな。邪魔も何も何をやろうとしているかわからないからな。何してるんだ?」


「貴様に言う必要はない。消えろ」


「俺たちはそこの2人が気になるんだ。仲間だからな」


 そういうと赤い女は魔法王をこっちに蹴っ飛ばした。意識を失っているが魔法王は『ふごっ』と声をだした。豚かよ。


「女の方は持っていけ。暴れたから拾ってしまっただけだ。だが勇者はだめだ。やることがある」


 やること、ね。やはり筋トレのレクチャーかな。あるいは……え、えっちなこと? コイツの強さだと、すごく激しいことになりそうだ。場合によっては死にかねない。


「そ、それは死につながるようなことか?」


「おそらくは死なないが、場合によっては死ぬ」


 赤い女は顔色を変えずに言い切った。やっぱりえっちなことなのか。ずるい。勇者が参加するのは大幅減点だが、えっちなことなら俺だって死なない程度に参加したい!


「じゃあ許容できないな」


「ならばどうする?」


「俺も手伝おう?」


 俺が答えた瞬間、周りの全員が不思議そうな顔をした。え? 間違えた?


「何をするか分かったうえで言っているのか?」


 間違えていたとしたら言いたくない。どうしよう、秘密にしなきゃ。あ、でもすでに背後に立つブレアにはバレてる気がする。振り返るのが怖い。振り返ったらその瞬間に絶対、罵倒される。


「えーと、何をするかはわからないが、手伝うことはできるんじゃないか? 何かをやるにしても勇者が死なないような方法を一緒に考えるとか。正直、お前みたいな強者とは戦いたくない。戦わずに解決することが出来るならそうしたい、と言いたかったのだ」


 大丈夫か。この言い訳で通るか?


「なるほど……だがそれは無理だな。他の者はどうでも良いが、貴様のマナがまた星に刻まれるようなことになれば面倒だ。邪魔するなら殺す」


 ほっ。良かった。最後に『殺す』とか言ってくれたインパクトでさっきの俺の失言がどっかに行った。危なかった。間一髪だ。エッチなことじゃなかったんだな。


 さて『邪魔すれば殺す』ということは『邪魔しなければ殺さない』ということだろう。ただし、邪魔しなければ、勇者が死ぬかもしれない。逆に邪魔すれば勇者だけじゃなく俺たちの誰かも死ぬ可能性がでてくる。

 戦わない方がいいじゃんって少し思うが……秘密兵器があるのだ。全力で臨んでみるか。どうせいつかは殺しあうかもしれない相手だ。


「じゃあ、邪魔をさせてもらおう」


「……なに?」


 意外な答えだったのか、その白い肌を紅潮させ怒りの形相でこちらを睨む。

 秘密兵器を使ってからしゃべるんだったな。俺は急いで秘密兵器を取り出した。そう、インターホンだ!


「アバドンちゃん召喚だ!」


 ぽちっとボタンを押す。アバドンちゃんで赤い女を始末するのだ。彼女も修行中だとか言ってたし、ちょうど良いんじゃないかな? 頑張れアバドンちゃん!


「えっ! エッチなやつだっ! ニトっ、こんなところでっ?」


 メスブタが叫ぶ。そっか、メスブタにはエッチだからと言って預かったんだった。しまった。赤い女がさらに怒っている。憤怒だ。サタンを超える怒りを感じる。


「貴様ぁ、この場でエッチな魔道具だと? ふざけてるのか? 絶対に殺す!」


 そんなに怒らなくてもいいじゃないか。生死の境に性はあるというし。


「ちがう、エッチなのは魔道具じゃなくて俺だ! そして、それは女性全般に対してどうしようもなく生じるリビドーで、このインターホンはエッチじゃない。あ、でもインターホンってなんか語感がエッチな気がしてきた」


「なんだ、結局どっちなんだ!」


「結局のところ、動くものはみんなエッチだ! ああ、いや違う。動かなくてもエッチだ!」


 むずかしい、エッチを簡潔に伝えるのは難しい。


「訳が分からん。エッチじゃないものを教えろ!」


 それならわかる!


「ない、皆無だ!」


「皆無」


 赤い女は、俺の言葉を繰り返し愕然とした顔をしていた。アバドンちゃん全然来ないんだけど。予想外だ。もっと押した瞬間、転移してくるような感じかと思っていた。


 その時だった。インターホンに向かって空から何かが降ってきた。慌ててインターホンを投げる。轟音とともに、インターホンがあった場所にはクレーターが出来上がっていた。土煙の中、俺たちは集まり結界を構築、戦闘の準備を整えた。


 土煙が晴れたその場所にはイナゴっぽい翅をはやした女がいた。人間にイナゴの翅と触角を付けたような風貌の女。アバドンちゃんだ。以前に首をはねたときのアバドンちゃんよりは、グルガンで出会った幼女の姿に近い。まだ女として認識できる。それでいて相当に強くなっているのを感じる。


「ブレア、マナ総量は?」


「250万よ。相当復活したようね」


「よし!」


 亜神に片足突っ込んだサタンが仕留めきれなかった相手だが、250万ならなかなか期待できる。

 アバドンちゃんは厳かに顔を上げ、そして目を瞑ったまましゃべり始めた。大物っぽいぞ。

 赤い女は警戒している。


「……我は奈落の王アバドン! 呼んだのは……あ、お主らか! やっほー!」


 めっちゃフランクじゃん。一回殺したことあるのにめっちゃフランク。すごく懐の深い女だな。イナゴリラにならなければいいのに。というか顔見知りじゃなかったらどんなセリフが続いたのか。


「やっほー、えっとだいぶ成長しましたね」


 俺が答えた瞬間、アバドンちゃんは姿を消した。赤い女が仕掛けたのだ。稲妻かと思える速度の背後からの蹴りをアバドンちゃんは危なげなく避けた。そして、避けつつ振り向きざまに裏拳を放つ。赤い女はそれを躱し、腕を掴もうとするも蹴りの追撃に距離をとるように後ろに跳ねた。目にもとまらぬ攻撃の応酬。こちら側で見えたのは俺とメスブタだけだろう。


 アバドンちゃんは好戦的な笑いを浮かべ、仁王立ちで赤い女を見据えた。


「なんと! 戦いの最中であったか。これはこれは、良きかな。ふむ、ふむふむふむふむ」


 赤い女がいきなり仕掛けたのはさすがにアバドンちゃん程のレベルが相手だと危険と認識したからか。とにかく勝手に戦いを始めてくれたのなら俺としては何も問題ない。赤い女がいる以上、神サイドのアバドンちゃんが敵に回ることは無いと踏んでいたが。



「溶けて混ざれ!」


 赤い女が何らかの技──スキルか魔法かそれとも違う何か──を仕掛けた。マナフィールドで触れた瞬間に察した。これは俺たちは受けられない。受けた瞬間に魂ごと消失するだろう。事実、触れたマナフィールドのマナが消失している。俺のマナ総量が減ってしまった。若干だが。


 アバドンちゃん死んじゃうんじゃない?


 だが、それは杞憂だった。アバドンちゃんは赤い女の謎の攻撃を勇者を盾にして防いだ。ふむ、なかなかいい手だ……ってダメじゃん。勇者死ぬじゃん──と思ったが、オリハルコンに包まれた勇者は生きていた。それどころかオリハルコンは解けて消え、勇者は自由になっていた。


 不幸中の幸い。さっきのあれで叫ばなかった勇者はマジで勇者。勇者は素早く体の異常の有無を確認し、俺たちの方へとかけてくる。

 アバドンちゃんは勇者を盾にした瞬間、鋭い蹴りを放っていた。赤い女はそれを避けきれず、その美しく白い肌からはねばねばした白い液体が飛び散っている。地面と女を見比べて驚愕していた。


「やはりスライムかっ!? ばかな……スライムが意思を持っている? なぜ地上にいる?」


 そう、ねばねばした白い液体だ。血ではない。それはスライムのようにうねっていた。中身があれなのか。そうなるとあの赤い女に興奮するには上級者じゃないとちょっと難しいな。いや、赤い女の中身がうねうねしてるならそれはそれでスゴイのかもしれない。イケる。


 しかし、さっきエッチじゃないものは皆無と言ったがどうだろう。いや、間違いじゃないはずだ。ただ、難易度を考慮して考えてみる必要がありそうだな…………。


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