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爆発都市なのです!


「む? おはよう、ナイスガイ!」


「あ、起きたかい? 急に倒れるんだからビックリしたよ。あんたみたいな人外でも倒れるときゃ倒れるんだね」


 酷い言い様だな、おい。


「えぇ、まぁ……。えっとここまでは誰かが担いでくれたんですか?」


「はぁ……メテオちゃんだよ」


 ジーラさんは疲れた様子だ。


「運んだっ!」


 なんとなく背筋がゾッとした。どうやって運んだんだろう。こいつのことだから普通に持ち歩かないだろうが──


「気絶した人間が空をぐるぐるびゅんびゅん舞うのを見る機会なんて中々ないのです! 感謝なのです!」


「鳥みたいで素敵だったわよ」


 なーるほど! 投げてキャッチで運んだのね。どこも怪我してないみたいだし……んん? 背中の服がまるっと破れてるぞ。落としたのか? で、アルマが治したのか? ……いいや、後で着替えよう。


「じゃ、宿を探すか。勇者たちはどうする?」


 背中が破れてることに気付きながらスルーした俺に驚きの目を向けるジーラさん。ここ(この3人のトライアングル結界の内側)では常識なんて豚の餌にもならないんだぜ?


「我輩は魔王がもう発生しないこと、しかしそれに代わる脅威がある可能性を知人に伝えて回ろうと思う」


「アタシもついてくよ」


 そうか。大事なことだしな。神々が魔王に変わる脅威を用意する可能性、そして謎の赤い女の話だろう。しかし。


「わかっていると思うけど、神々の話は触れない方がいい。何かの禁忌に触れて大変なことになる可能性がある」


「わかっているさ。忠告感謝する」


 白い歯を輝かせて笑う勇者は、世間的には素敵だろうが俺の中ではただの変態だ。


「えっとぉ、わたくしはぁ一応魔法王なのでぇ。都市の運営と防衛、それと魔法王の存在意義を~~「わかった、気をつけてな」


「あー……」


 残念そうな魔法王を置き去りにして俺たちは宿に向かった。来た時と同じ宿にしよう。『魔法少女の秘密基地亭』だ。


 流石に繁盛店という事もあり、かなりの客数だったが、勇者のツテもあり優先して部屋を取ることができた。使えるものは使って楽をするのが俺たちインフィニティガーデン……だっけ? の、基本スタンスだ。



◇ ◇ ◇



 夜、一人でベッドに転がり、勇者について考えていた。


 勇者たちは『魔王が誕生しない』という事実を周囲にどのように説明するのだろうか。そして、神々が魔王の代替手段として新たな脅威を用意するかもしれない可能性について、どう説明するのか。赤い女にしても情報があまりにも少ないまま何ができるのだろう。

 しかし、何ができるのか答えを探しながら動き続けるのだろう。彼らはただ純粋に人類を守りたいのだ。間違いなく勇者であり英雄だ。変態でも。


 政治、軍事、学問、各方面で影響力のある知人もいるだろうが、事は魔法都市だけのことではない。魔族領全体、そして周辺諸国にも影響は及ぶ。指示系統が取れた一国の軍ならまだしも、今回のように影響範囲が複数の集団にまたがる場合の説得は大変な事だ。

 個人が外から意図して集団を動かすのは非常に難しい。為政者はそれぞれの意図をもって動くだろう。いずれの集団も一枚岩ではない。それらの垣根を超えて勇者は新たな脅威の可能性を示唆し、何ができるかを考えて行くのだ。成し遂げればまさしく偉業だろう。ヒーロー、英雄だ。変態でも。ド変態でも。


 ヒーロー、英雄、そして勇者。それは物理的な戦闘によって他者を守る者だけではない。戦闘職ではないものにもヒーローはいる。武器を作った者、鎧を作った者──勇者の場合は筋肉だが──あるいは、先ほどのような多くの集団をまとめる偉業を成し遂げた者。


 何がヒーローをヒーローたらしめるのか。いつか勇者が話していたパン屋の言葉を思い出す。


──人生は選択の積み重ねだ。


 迷いと決断の繰り返し。選び続ける事。今、この瞬間に何を見るのか。何を聞くのか。何をするのか。すべて選択だ。道で通り過ぎる女性たちの、どのおっぱいを見るか、それも選択だ。


 ヒーローとは、困難な選択を自ら選び、進み続ける者ではないか。間違っているかもしれない。間違ったかもしれない。打ちひしがれ、敗北感に苛まれても、自分は大丈夫だと奮い立たせ、立ち上がれる者。どんな時でも、次の選択を『大丈夫、自分は正しい』と、信じて立ち上がれる者ではないか。そんな者こそ、人々が賞賛する結果を出すのだ。結果は重要だ。だが、俺は結果が伴わなくても彼らを支持したい。


 『決断し、前に進む』とはそれほどに難しい事なのだ。引きこもりニートだったからよく知ってる。布団から出るのとかめちゃくちゃ困難だった。俺はいつも『このまま寝る! 今日も休み!』と強く決断していた。決断し、留まっていた。それはそれで良いと今でも思うが。


 勇者はすごい。変態だが。仲間が倒れていっても立ち上がって進み魔王を倒した、やり方がわからなくとも魔王の仕組みを終わらせようと動き続けた、支持者がいなくとも高級リゾートをヌーディストビーチに変えようとした、そして今、世界の驚異が魔王から新たな何かへ変化しようとしている事を伝えようとしている。それが受け入れられ、対策を取られるまでが果てしなく遠い道のりであることがわかっていても、一歩目を踏み出した。


 結果が出たものも、未だ出ないものも、まさしく英雄の所業なのだ。変態でも。そう、変態でも。ド変態の吐き気を催す男でも。


 一つひとつ全ての選択が、無限の可能性の中から掴み取る未来へと繋がっている。俺自身、まさか魔法王が現地ペットになるとは思いもしなかった。あんな雌豚だとは。


 要は、俺が思うヒーローとは『決断して前に進む者』なのである。『偉業を成した者』ではない。俺は女の子のダークヒーローになりたい。男のヒーローはゴメンだ。やるべきは1つ。女の子に背後から声をかけるのだ。気配を消して、さり気なく。それこそがダークなヒーローの第一歩だ。



 でも今日は眠いし寝よう。服もボロボロだし。着替えるのも面倒くさいし。布団から出るのは本当に困難だなぁ。



◇ ◇ ◇



 魔法都市に滞在して数日。買い物や観光を楽しむも、これ以上は特にやることもないし、あと数日したら出発しようと決めた。


 今日は街の外でブレアと魔法の訓練だ。といっても、俺が唱えるわけでわなく、ブレアが発動した魔法を霧散させる訓練だ。うまくマナフィールドでブレアの意思の波動を捉えて打ち消す。これが中々成功しない。


 今回はあらかじめちゃんと意図を説明して精神崩壊魔法のレベル1メンタルダウンを使ってもらっている。失敗するたびに朝家を出た瞬間にウンチを踏んだぐらいの嫌な気分になるが、これぐらいなら全然許容範囲内。


 レベル7のシニスターインビテーションとかこんな場所で唱えられたら、この魔法都市を巻き込んでどれだけの人が死ぬか分からない。下手したら全滅だ。


「何考えているのかしら?」


「いや、何も……」


 魔法都市全滅とかやべーな、と考えていました。


「マナに畏怖の念を感じるわ。私に向いてる」


「……精神崩壊魔法の恐ろしさを痛感していました」


「……レベル1で? 上げても良いのよ?」


「いいえ、レベル1で続けましょう!」


 そんな話をしていた時だった。

 魔法都市の中心部から轟音が響く。


「爆発?」


「爆発ね」


 どうやら中央塔が爆発したらしい。煙が上がっている。

 マナフィールドを中央塔まで広げる……怪しい存在は感知できない。


 事故か? いや、中央塔を襲いそうな奴でマナフィールドで感知できない奴なら知っている。

 赤い女だ。奴がいるとしたらやることは一つだろう。勇者の仕組みの破壊だ。


「マナフィールドを広げたけど、怪しい存在はいそうにない」


「あら、なら急いだほうがよさそうね……けど、やれることもないわね」


 ブレアも同じ考えに至ったようだが、確かに赤い女がいたところで俺たちにできることはない。どうするか考えていると、街のほうからアルマとメスブタがやってきた。速いな。


「爆発したのです。爆発都市なのです。すごいのです」


「爆発したっ! どっかーんっだっ!」


 アルマとメスブタは身振り手振りで爆発の凄まじさを伝えてくれた。サンキュー。

 ただ、それはそれとしてもう少し理知的にリアクションできないだろうか。ブレアのように。『急いだほうがよさそうね』みたいな。


「いいか、二人とも。爆発したのはみんな分かっている。だから何なのかを言ってみよう。『爆発したから、私は○○だと思います』だ。自分なりの付加価値をつけて発言するんだ。できるかな?」


 まずはアルマが頷き、発言した。


「爆発都市なのです。ほかの塔も爆発すればもっとすごいのです」


 目を輝かせて言うがそれは大変恐ろしい。

 続けてメスブタが頑張ってくれた。


「えっと……塔は爆発したが……塔は、殴っても爆発しないぞっ! 消滅する!」


 お前の拳に限ってはそうだな。


「よくできたな。今の姿勢をわすれないように。」


 もうどうでもいいや。


「バカなこと言ってないでどうする?」


「それもそうだ。うん、かかわる必要はないな。危ないから」


 ブレアとアルマはうなずき、メスブタが『もうちょっと近くで見たいんだけどな』という雰囲気を出したところで、街の方からジーラさんがこちらに走ってくるのが見えた。ここ数日は同じ場所で訓練していたからな。場所はわかっていたのだろう。なんか嫌な予感がする。


「ジャンが、ジャンがさらわれた! 助けてほしい、赤い女が!」


 泣きそうな顔のジーラさん、いや、泣いている。マナフィールドを介して嫌というほど悲しみが伝わってくる。


「赤い女っ!」


 案の定、メスブタがリアクションした。ほらもう。嫌な予感がど真ん中を突いてきた。


「赤い女はなぜ勇者をさらったか、何か言ってましたか?」


「わからない。『お前が勇者だったのか。あの時捕らえればよかった』と言ってジャンを連れて行ったんだ」


 もともと勇者は捕らえる予定だったと。ならばすぐに殺す予定はないのかもしれない。何かに使うのだろう。筋トレのレクチャーか。


「何が目的でしょうね。殺すならその場だったと思いますが」


「何かスライムみたいなものを持って無かったかしら?」


 ブレアの問いかけにジーラさんはハッとした。


「……持っていた! たぶん、勇者の源泉」


「魔法王は?」


 ペットの行方も気になる。


「あ、そういえば一緒に捕らわれた」


 ジーラさん、仲間なんだから魔法王も気にしてあげてよ。


 魔王の仕組みを排除したことにあわせて、勇者の仕組みも排除するのだろうか。まとめて何かしらの処理が必要とかかもしれない。

 あれ、ということは第4勢力だな。めんどくさ。


 ・魔王:背後は神々。狙いは世界停滞。

 ・勇者:背後は謎。狙いも謎。

 ・俺達:背後は変質神。神々とは一部敵対。狙いは世界変質。

 ・赤い女:背後は謎。狙いも謎。魔王、勇者、俺達と敵対。


 魔王と勇者の仕組みを排除する点では、世界を動かすことになりそうなので赤い女の狙いは俺たちと似ている気がするが。

 いや……勇者の背後が変質神、あるいは赤い女の背後である可能性もある。そうすれば勢力は3つだ。


「3人は待っててくれ。ジーラさんも。俺が行ってくる」


 あの時のように危ない目には合ってほしくない。

 勇者が死んでも『まあしょうがないかな』って思うけど悲しむジーラさんを見るのは忍びない。ジーラさんのためだ。


「あたしもっ!」


「まあ……メスブタはそうなるよな。絶対離れるなよ」


「……っ!」


 離れるつもりだな。そこは何とかするか。


「じゃあ、私も」


 ブレアもね。お姉さんは妹分たちの面倒を見ないとだからな。


「アルマも行くのです。爆発都市なのです!」


 気に入ったんだなそのフレーズ。行く理由としては意味不明だが。


「アタシも行くよ。待っているだけなんてアタシにゃできないよ!」


 すでに彼女からは悲しみの感情が消え、決意に満ちた強い感情で満ちていた。


「了解です。じゃあ、行きましょう!」


 こうして俺たちとジーラさんは走り出した。中央塔へ向かって…………。


「って、まてまて、中央塔に向かっても今更だろ。赤い女はどっかに逃げたんですよね?」


「逃げてたね。爆発した壁の穴から」


 ああ、慌ててたな俺。マナフィールドを広げていく。勇者、魔法王…………いたいた。

 ん? それになんか変なのが二つあるな。似ているのが二つ。

 一つは勇者の源泉か? そしてもう一つが……赤い女か。どういうことだ? 存在が似ている。というのも、普通に探知すれば見つからないが、見つからないはずと思って探すとマナの空白地帯が見つかるのだ。同じように二つ。

 とにかく行くしかない。


「街の東の森の入り口にいる。行くぞ」


 こうして俺たちは今度こそ、走り出した。


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