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そうだ、修行しよう


 朝になり、全員がロビーに集合した。


「ニト」


「ん?」


 ブレアに声をかけられた。顔を見ると何となくお怒りのご様子。思い当たる節は多いが……昨晩のことですよね!


「夜は楽しめたかしら?」


「え、ええ。ははは、まあ魔法王の要望があって答えただけというか、何というか……。メスブタにも女豹のコスチュームあげたかったし」


「ふぅん? 他人の為にとても精を出すのね。立派だわ」


「いや、それほどでも……」


「……なんでメテオとアルマはいて私はいなかったのかしら」


 あ、いじけてる面も少なくないな。可愛い奴め。しかし対応を間違えると意識が飛ぶだろう。恐ろしい奴め。


「アルマは勝手に来たんだ。でも、ごめん」


「なぜ謝罪を?」


 俺をまっすぐに見据え、長いブルネットの髪をかきあげる。


「いや、ブレアが一人で寂しかったんじゃないかと」


「…………そんなことないわよ。ただ、ほかの女と私抜きで楽しんでいたのなら野生の豚にでも食われて死ねばいいと思ったけど……」


「そ、そんなことを……」


 抜きじゃなかったら良かったのか?


 こんな美女にそんなこと言われたら滾ってしまいます。え、そろそろ2回目が許されるのでしょうか。


 とにかく、これは拗ねてるだけだ。わかる。ちょっと残念がっているのだ。のけ者にされたみたいで悲しいのだ。手でもつないであげよう。


 そっと手を握る。彼女の体は特に動揺した様子はない。ただ、こちらを見て一言。


「やめてくれるかしら」


 そう言って手を離された。しかし、耳たぶの下のほうが若干赤いのが分かる。照れてるな。無表情だが、耳たぶの下部分だけ照れている。大事なことだから何度でも言うが、耳たぶの下部分だけでも照れてくれたのなら満足だ。そう、耳たぶの下部分だけだとしても。



 チェックアウトし、俺たちは宿を出た。ガチャの中でも荷物になるだけだったり、ここの悪魔のほうが使いこなしそうなものについては売った。アルマ先生のパワーで白金貨43枚になった。売ったものがわけのわからいものなので、多いのか少ないのかは正直わからない。


 サタンとベルフェゴールに挨拶をしておこうかとも思ったが、忙しそうに働く公民館の悪魔たちを見て遠慮し、お礼だけ伝えてもらうよう言付けて魔界村3を出た。


 そして、魔界村3から魔王のトイレには飛んで戻るしかなかった。入り口近くの悪魔たちに聞いたが『え? 飛べないの?』みたいなリアクションしか返ってこなかった。あいつらみんな飛べるらしい。まあ元天使だからか?


 勇者をまた抱えて、ぬるぬるにして便器の下から突っ込む。ぐいぐい押して便器から勢いよく飛び出た勇者は天井に激突していた。頭だけ刺さってぶら下がるなんて本当にあるんだな。ギャグみたいだ。


「アンデッドがいないな……」


 勇者の言う通り、どの部屋にもアンデッドはいなかった。


「ああ、来た時は部屋いっぱいにいたりしたのにな」


「魔王の仕組みがぁ、終わったからなんですかねぇ〜……」


 魔法王の何処と無くしんみりした声はリーフレイヌを思い出したからか。しかし、俺の頭は昨日の痴態でいっぱいだからそれ以上考えることはできなかった。


「人間界のマナの終着点というのは変わらないようね。あちこちに流れてくるマナを感じるわ……これから先ここはどういう場所になるのかしら」


「たしかに。マナは此処から何処へ行くんだろうな」


 悪魔たち、あるいは神々がどうにかするとは思うが。神々は魔王の代替手段を作るのだろうか。何より勇者の存在とはいったい。そこはまだ答えがない。


 そんな話をしながら俺たちはダンジョンを出た。危険など少しもない、魔王城とは思えない穏やかな場所だった。ある種の聖域ではないかと思えたほどに。



 ダンジョンから出ると、ブレアが軽くため息をついたのが分かった。復讐相手のことだろう。


「あー、やっぱりいなかったな」


 声をかけると彼女はすこし驚き、珍しく微笑をたたえて答えた。


「大丈夫よ。アンデッドにも慣れたわ」


 そしてすぐにいつもの無表情に戻った。感情を出すことを恐れているのか。

 家族をすべて死霊術の犠牲にされた怒り。やった本人もアンデッドとなって『生きて』いる。


『復讐がしたい』


 そいつにすべての過去を後悔させるためにはどんな復讐をすればいいのだろう。俺には見当もつかなかった。



 ……なんとなく鍛えながら帰ることにした。


 変質者スキルでマナフィールドを広げていく。物質を変質させる。はじめは止まっているもの、冷たいもの。次に動いているもの、熱いもの。


 そして、他者のマナフィールドの配下にある物質。メスブタの衣服の腰ともおしりとも言えない微妙な部分を変質させようと試みる。


 穴あけー穴あけー。


 さすがメスブタ。全然空かない。抵抗がすごい。再生スキルもあるしな。だが負けじと強く強く変質の意思をメスブタのマナに訴え、説得していく。あ、空いた。少しだけだが。よし、いまだ! ぱしんとその部分をたたく。


「よ、敵がなかなかでないな。メスブタ」


 メスブタのケツ間際の生肌に触れることに成功した。なんて進歩だ。素晴らしい。


「暇だっ……あれ?」


 肌が直接たたかれたような違和感を覚えたのだろう。振り返るときにはすでに服はメスブタの能力によって再生していた。ミッション達成だ。


「あいててててて」


 ブレアに頬をつねられた。


「ゴミは初めからゴミだったわけじゃないわ。誰からも必要とされなくなった時にゴミになるのよ。自覚しなさい、ゴミ」


 見られていたか……俺がゴミになる瞬間を。


「すまん、変質の練習にちょうどよくて」


 そう言いながら両手でブレアの右手をにぎる。目線が一瞬下を向いた! 恥ずかしがっていたな。ふっブレアの恥ずかしいポイントが最近分かってきたぞ。


「せめて許可をとるのね」


「今度からそうするよ」


「うそね」


 今度はガチの冷徹な目だ。しまった油断していた。マナ視スキルホルダーを舐めていた。


「今度は嘘ではありません」


「……いいわ」


 髪をふわりと風に揺らしながら道の正面へと向き直り、また歩き始めた。


 ふー、あっぶね。


 だがまあ、改めて自分の力がわかった。メスブタほどの力量でかつ再生スキルを発動して強く干渉している物質に対しても俺の変質者スキルで変質させることができる。


 物質ならどんなモノでも──例えばそれが聖剣でもどうにかできるだろう。勇者が持ち歩いてくれてたら確かめられたんだが……謎の技と筋肉で戦ってたからな。


 そしてその先がある。マナの変質だ。分散しているマナなら問題ない。収束しているマナが問題だ。魂に近いほど難しいだろう。


 誰かの魔法を打ち消す、メスブタの拳のスキルを消す、アバドンちゃんを魂ごと滅ぼす。ざっくり考えて、難しさはこんな順序かな。


 ともかく、マナを分散させることができるなら『次』のアンデット退治の時にも役にたつだろう。


 まずは魔法を打ち消すところからか。


「ブレア、なんか魔法を撃ってくれないか? 軽いやつで」


「ナイトメア」


────…………


 森の中、巨人が歩く音が響く。あれは巨大な勇者だ。ぬるぬるして『筋肉』を探す勇者だ。ガチムチのボディを黒光りさせ、微笑んでいる。


 すでにジーラさんは取り込まれた。広背筋の一部として活用されている。魔法王は脂肪分だ。むっちりさせる係を担っている。


 あ、勇者が、勇者が俺に気付いた。逃げろ、逃げるんだ。森の中を駆ける。足が痛い。靴はどこへいったんだ。なぜ俺は裸足で……え、俺……裸じゃん! やだーなんで裸なのー!


「ワガハイワガハイ」


「うわっ! しまった!」


「ワガハイワガハイ、ガチムチ、ワガハハハ」


 裸だったことに気を取られ油断していた。巨大な勇者に鷲掴みにされている。やめろ、俺に触れるな。


 ふと周りを見渡すと巨大な勇者が10匹ほど笑っていた。ま……さか。ウソだろ。そんな、やめろ、やめろ!


 口が臭い。俺をどうするつもりだ。あ、やめろ、やめ、やめろおおおお! アッー!


…………────


 気付いたら俺は魔法都市にいた。ブレアがソウルコンバージェンスを唱えたみたいだ。こっちを見て微笑んでいる。え、どんなメンタルで微笑んでるの?


 喉はカラカラだし、汗をたくさんかいたのか服が湿気ている。


 久しぶりに相当強くなった気がする。でも……やりたかったのはこういうことじゃないんだけどな……。


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