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ぴっぴっぴー


「ウェーイ!」


「ニトが壊れたのです!」


「ヒュー! ぴっぴっぴー!」


「ニトが、ニトがぶっ壊れたのです!」


「いや、壊れてないから」


「壊れてなかったのです!」


 壊れてないけどテンションも上がるわ。だって後はガチャしてブタを調教して帰るだけじゃん。そんなん、こんなんなるに決まってるじゃん。すんげぇ開放感!


 難しいこと考えたり、交渉したり、強い敵と戦ったりしなくていいんだよ! ニト君は自由なんだよ!


 なんか、なんかそう考えると、もう……もうっ!


「ウェーイ!」


 くるくる回りながらアヘアヘしちゃう!


「ニトが壊れたのです!」


 目を見開いて驚愕するアルマ。どれ、このままもう少し脅かしてやるか。


「ヒュー! ぴっぴっぴー!」


 寄り目になって口を尖らせ、足を曲げて腰らへんで手をバタつかせる。これはどこからどう見ても壊れてる!


「ニトが、ニトがやっぱりぶっ壊れているのです! 大破! 大破なのです!」


「いや、壊れてないから」


 姿勢はそのままに真顔でお返し。我が事ながら狂気を感じる。


「よかった! 壊れてなかったのです!」


 笑顔になるアルマかわいい。呆れ顔の他の面々はスルーなのです。なお、アルマと似たようなリアクションが期待されるメスブタはずっと素振りしててこっちを見てない。いじけてるのか。わかるよ、サタンをボコりたかったんだよな…………でも、それは許容できません。


 という事でしばし歩いて到着しました『堕落の豚亭』。見た目は他の建物とそう変わらないな。中に入ると豚耳カチューシャの太ったおっさんがお出迎えしてくれた。


「ぶ、ぶぶぶ、ぶひぃ、ぶひぶひ」


 笑顔で皮ごとみかんを食べながら頭を下げられた。異文化は難しいな。どうしたらコミュニケーションが取れるんだろうか。適当に返事してみるか。


「ヒュー! ぴっぴっぴー!」


 姿勢はさっきと同じだ。


「え、こわい……」


 豚は怯えた。喋れんじゃねーか。


「チェックイン、7名だ。サタン様とベルフェゴール様には許可を頂いている。晩飯はみかん以外が良い」


「ああ、お客様でしたか。てっきり地底人かと…………」


 何だよ地底人って。いるとしてもそれはダンジョンに暮らすお前らのことではないのか。


「地底人ではない。我々は美とエロスの表現者集団だ。アーティスティックにエロティック。これがキャッチコピーだ。えろしく」


 『君エロいね、よろしく』という意味だ。えろしく。


「なんてこった……こんな豚亭にそんな方々が……っ!」


「ああ、だからいい部屋をたのむ。金はわんさか持ってる」


「え!? ワンさんが金を!?」


「違う。『ワンさんが』ではなく、わんさかだ」


「ああ……驚きました……。ワンさんが金を持ってくるなんて、って……」


 誰なんだよワンさん。そしてビビりすぎだよさっきから。


「早くしてくれないかしら」


 ああ、ブレア様がお怒りだ。


「なんてこった! 美だ! 美の体現者だ! 豚に死を齎す者よ! その美しさは卑しき豚に何を求めるというのかっ!」


「褒めてくれてありがとう。求めるのは部屋よ。死にたくなければ早く手続きをするのよ、豚さん」


「はい」


 テキパキと働き出す豚。やればできんじゃねーか。


 部屋は一人一部屋にした。案内された部屋は清潔感があり、落ち着いていた。少し大きめのベッドに、机と椅子。風呂とトイレも付いている。こいつはいい。


 晩飯までどうしようか。ガチャ引きに行くか? 悩んでいるとノックの音が響いた。同時に扉が消し飛んだ。文字通り消滅したのだ。何事?


「ニトッ! パーティ会議らしいぞっ!」


 メスブタでした。


「そうか。すごくびっくりしたよ」


「すまんっ! ニトを呼ぶと思うと手に力が入って……スキルがっ! どーんってっ!」


「……おう」


 一部が消滅した扉の残骸を踏み越え、静寂を失った部屋を後にした。さらば安寧の日々よ。



◇ ◇ ◇



「第2回パーティ会議を開催するのです。今回は勇者ジャン、ジーラ女史、魔法王ゾアをお招きしております。拍手なのです」


 パチパチパバーンッ! バーンッ! ダーンッ! バッチーン!

 今回もメスブタは全力で拍手してる。うるさい。あとで拍手の仕方を教えてあげよう。やり方を知らないのに怒るのもかわいそうだしな。


「アルマ先生、議題はなんでしょう?」


「魔法都市に帰還するまでの旅程なのです」


 旅程って旅行気分かよ。わかってるなアルマ。ここから先は墓参りじゃない、観光旅行だ!


「帰るのかっ?」


「帰るよ。観光してからな」


「あの赤い女はっ?」


「赤い女は難易度的に無理だな。魔王が誕生しないことがわかっただけでも良しとしよう」


「赤い女が無理ならサタンをっ!」


 メスブタはそうだよな。なるべく聞いてやりたいが……ちょうどいいのがいないな。


「すまんが今回はダメだ。次のダンジョンで下層のボスに出会うまで我慢してくれ」


「……わかったっ」


 ちょっと元気なくなったな。


「えーと、よく考えたら旅程もなにも魔界村3を観光して帰るだけだな。墓参りはおしまい、魔王は二度と誕生しない、勇者は自由、赤い女は創造神がなんとかするだろう…………よし! ガチャ引き行こうぜ!」


「あっ! そうだったっ! 行くっ!」


「そうなのです。せっかくのDコインの山。ガチャ引きまくるのです!」


「なにが出るかしらね?」


 よかった、メスブタも元気になった。


「すまん、ガチャってなんだ?」


 おっと、ジーラさん。そうか、知らないよな。ふふ、ダンジョンマニアとして優しく教えてやろう。


「ガチャとはダンジョンの女神ヘレン様が自ら御造りになられた、神の品々をDコイン1枚とランダムに交換する神聖で厳かな儀式のことです。Dコイン1枚をガチャ箱に入れて回転レバーを回すという、大変に簡潔な仕組みで利用者に優しいその在り様は、まるで女神の御心が暖かく我々を包むようです。感謝の念も絶えません。最終的には、射幸心を煽りまくられ、じゃぶじゃぶ課金するようなガチャ廃人になります」


「そ、そう……」


 伝わったようで何より。


「今回は1人14枚だ。7人で98枚。残った2枚は一番レア度が高かった人と低かった人に譲渡だ。引いた景品は各自のものということで。交換、売買は自由」


「さあ、行くのです! 今度こそフィギュアを引くのです! そして──レア度10を!」


 決意とともに俺たちは立ち上がる。


 アーティスティックにエロティック。美とエロスの表現者集団(地底人ではない)は行く。まだ見ぬレア度10を求めて…………。


──続く。


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