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スキルの力


「変質者ね。お似合いじゃない」


「く……認めよう。俺は変質者だ……っ。間違いなくな!」


「潔いのね。まあ、お似合いというか、得るべきスキルを得たって感じかしらね。だってあなたの魂って辛うじて魂として保たれている危うい状態なわけじゃない? 変質者以外の何者でもないわ」


 え。辛うじて…………。たしかに危うさは感じていたが。というか、それをブレアが言うのか。清々しいまでの他人事っぷりだ。何とも言えないこの感情。

 ひたすら殴られ続けて『ひどい顔ね。ゴブリンの集落に帰ったら? いつまで人里にいるつもり?』なんて言われたような気分だ。

 凄いのが本人に悪気が全くないところだ。悪意なんてかけらもなく淡々と思ったことを伝えているのだ。

 人を壊す人とはこういう人なのかもしれない。深い。そんなブレアが素敵だと思う。とても良い。脱獄後が楽しみだ。ブレアはどんな風に…………あ、変質者だわ俺。いま改めて納得した。



「ブレア、落ち着いて聞いてほしい。俺は変質者だった」


「知ってる。さて、何ができるスキルなのかしら?」


 見事な流し技だ。


「何が……とは?」


「スキルですもの。称号とは違うでしょ? 何かしらできる事があるはずよ。しかも神界のスキルなわけだし」


「…………そうか、たしかに」


 こんな名称でもちゃんとした神界のスキルなわけだ。

 つまり、神々の中にこの変質者スキルを持つものがいるというわけだ。変質神だ。


 あれ? ということは俺は世界のトップランナーではないということか。なんてこった。高らかに宣言してしまった。恥ずかしすぎる。声に出さなかったのが救いだ。マナ記憶には刻まれただろうが。


『ぷぷぷ。ニトお兄ちゃんダサーい。マナ聞いてたよぉ~』


 くそ、マナも言うようになったじゃないか!

 いつかマナ記憶の改竄か暗号化を覚えねば。俺の記憶は未来に残してはいけない負の遺産だ。


 しかし変質者っぷりは人間の中ならトップだろう。いや、まて。それは『オラはこの村一番の力持ちだぁ! 俵も十表持てるどぉ!』みたいな感じじゃないのか。

 すごいけど。すごいけど、ある時ふらりと村を訪れた旅の者にコテンパンにやられてしまうのではないか? 『力だけの能無しか』みたいな感じになりやしないか。

 いつか変質神が現れて『人間とはこの程度か。神界ではこの程度の変質者は下の下よ』なんて言われてしまうかもしれない。そうだ、頭にパンツでも被るか。簡単すぎるか? まあやっておこう。


 たしかに俺は人間界では優れた変質者だろうが、決して驕ってはいけない。上には上がいる。


「何してるのかしら?」


 パンツを脱いだところでブレアに問いかけられた。


「このままでは俺は負ける」


 パンツを頭に被りながらキリリと答える。


「なるほど。全く意味がわからないわ。急いではいないけどスキルの確認はお願いね」



 そうだった。スキルの確認だ。変質者スキル。よし、まずは変質者として得意とするジャンルを明確にしていこう。


 そうなるとやはりこだわりが必要だな。こだわりは執着に、執着は得意領域になる。


 なんだろうな。まず女の子は全般好きだ。ああ、人族だけじゃなくてエルフやドワーフを含む人間の女の子だ。ゴブリンは含まない。


 いろんなジャンルが好きだ。


 年齢や職業も幅広く好きだ。

 見つめたり見せつけたり、触ったり触られたりするのも好きだ。

 最近は痛めつけられるのも悪くないと思い始めているし、そんな中で痛めつけてみたいという思いも芽生え始めている。


 オールラウンダーだ。俺はオールラウンド変質者だ。



「ブレア、俺はオールラウンダーだ」


「全く意味がわからないのだけれど、どういうスキルなの?」


 そうだった。また忘れていた。


「すまん、スキルね…………えっと、ちょっとまって。哲学的な話になるけど変質者って何だろう?」


「別に哲学的ではないわね。まず、変質とは性質が変わることよ。そして変質者とは通常とは異なる性質、つまり異常な性質を持つ者のことよ。多くは性犯罪を犯した者の事をさすわね」


「俺じゃん」


「あなたよ」



 なんてこった。ドンピシャで変質者だった。魂が壊れてるのも変質者。異常な性質も変質者。最近では機能固定という性質変化に躍起になっていた。変質が許されない牢獄で狂おしいほどに変質を望んでいた。何より神話級の性犯罪者だ…………色々考えたがこの一点に尽きそうだな。


「スキルは性的な方向なのか、性質の変化的な方向なのか………」


「脱獄を考えて後者を希望するわ」


「いや、希望されてもどうにもならないが、どうやったらスキルの効果がわかるんだ?」


「ああ。知らなかったのね。ずっと無能だったのだから仕方ないわね。哀れだわ。お友達から話を聞くこともなかったのかしら?」


「うん……」


 驚くべきことにコレは嫌味ではない。ブレアは素直なだけだ。たまにナチュラルに俺を殺そうとするから怖い。


「スキルに聞くのよ。ステータスをさらに深く掘るイメージね」


 掘る、掘るね。オーケー。余計なことは考えずに掘ってみよう。



──────

【変質者】

 概要:質を変える者。

 対象:自身、物体、他者、世界。自分を除けばマナの収束量が低いほど容易に、高いほど困難になる。

 効果:質の変化が可能。性質、質感、質量、品質、体質、気質、素質、資質、本質など。

 備考:自分の性質は変えられない。ご愁傷様。こんなスキルを獲得しちゃうそのままの自分でがんばって。

──────


 だれだ備考を書いたやつ! 出て来いや!


「とまあ、こんなスキルだった。正直、チートすぎる気がしないでもない」


「そうね。使いこなせればこれ以上ないほど今の状況向きね。まずは今の時点でどの程度の変質が可能なのか、マナ収束量でどれだけ難易度が変わるのかを確認してからね」


「それもそうか。ちょっとスキルの検証をしてみるか。椅子でどうかな?」


「いえ、まずニト自身に」


「俺?」


「身体力が下がっているでしょ?」


「ああ、そういえば。なんで弱くなったんだろ。身体は神のスキルで固定されていたはずなのに」


「そうね、あなたの意思がそれを上回らない限りは変化することはないはず。上がるにしろ下がるにしろね」


 彼女の言いたいことがわかった。俺のスキルが神のスキルを上回ったのだろう。


「なるほど。これも変質者によるものなのか」


「そうかもね。使ってみたら?」



 どうやるんだ? とりあえず念じてみるか…………なんか違うな。


 もっとこう、なんか興奮する感じ。変えたいっていう思いがないとダメな気がする。


 あー、だめだ。変えたい理由があんまりない。マッチョマッチョマッチョ。違うな。俺にとってマッチョは連呼して気持ちのいい言葉じゃない。間違えた。


 全然こない。



「鉄格子を捻じ曲げるところみてみたいわー」


 突然の事だった。ブレアが無表情でこちらを見ながらそう言った。なんだそれ。


「かっこいいとこ見てみたいわー」


 え、ちょっとまって。なにそれこわい。全然見たく無さそうなんだけど。いつもの事ながら目に光がないんだけど!?


「抱かれたいわー」


 こわっ……いけど…………あれ? いい。いいじゃん。よっしゃ。捻じ曲げてやる。捻じ曲げてここを出てやる、なんて気分になれた。やるぞ!


「どりゃあ!」


 鉄格子が曲がった。頭が出るほどに。しかし、すぐに閉じてしまった。出れる程ではなかったな……。


「曲がったわね」


「……ああ。そっちには行けなかったが。魔法よりは曲がっている時間がちょっと長かった気がする」


「無意識かしら? 鉄格子にもあなたのスキルが効いていたように見えたわ。あ、あとステータスを見てみて」


 ステータスはおかしな事になっていた。


──ニト──

【総合能力】

マナ総量:170,000

【基本能力】

身体力:169,000

精神力:100

【スキル】

変質者:レベル1

【称号】

真なる変質者

神話級性犯罪者

視姦する者

ブレア様の犬

矛盾様

──────


「強っ」


「基本能力でほぼマナ総量になっているわね。変質者スキルの獲得に要したマナはどうなっているのかしら? スキルの維持にマナは使われないのかしら? 謎だわ」


「マナの質が変わっているとか?」


「それこそスキルがスキルとして成り立たなくなるんじゃないかと思うのだけれど…………そうなのかもしれないわね」


「ともかく、使いこなす訓練をすればここから出ることは出来そうだな」


「そうね…………長かったわ」


 珍しくブレアはその美しい顔に感情を浮かべていた。一年半見つめ続けた俺にしか分からないだろう、本当に微かに見て取れる程度の表情。それは悲しみとも怒りとも虚しさともとれる、ひどく人間らしい、そして彼女らしくない表情だった。


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