表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/158

アンデッド行進曲


「それでぇ、えっと…………墓参りに行くのぉ? 勇者」


 先ほどまでの痴態など無かったかのように魔法王ゾアは勇者に語りかけた。無かったことにするには無理がありすぎる。もうこいつを人の上に立つ存在として認識できない。


「うむ。そろそろ行ってやらねば墓が増えてしまうから、ね」


 いつの間にか勇者も敬語をやめていた。あの惨事の後では当然か。ガチムチとむちむちの2人と同列に英雄として語られるジーラさんが不憫でならない。


「そうだねぇ……実は、今回はわたくしも同行したいなぁ、なんて思っててぇ」


 周囲のお偉方は落ち着いた様子だ。魔法王も初めから墓参りとやらに同行する予定で根回し済みということか。


「おいおい。魔法王がここを離れちまっていいのかよ。責任を持つべきはかつての戦場じゃない、ここ魔法都市だろ?」


 ジーラさん、こういう場でも変わらないんだな。いいこと言ってるっぽいけど……なんかムラムラしたせいか、ジーラさんの水着姿で頭がいっぱいだ。良かったなぁ。白い水着は素敵だったなぁ。


「構わぬぅ。防衛は何とでもなるし、政治は言わずもがなぁ。それよりもぉ、昨今のダンジョン異常を考えると魔法王自らが行くべきってわけでぇ。魔法王的なぁ責任的なぁ行動的なぁ意味ではぁ、ねぇ?」


 ダンジョン異常? 聞き捨てならんな。何だそれは。


「もちろんだ。聖王国のダンジョン『バトゥール』の出入り口消失。かつてない事例だ。そして、先日、同じく聖王国のダンジョン『グルガン』でも異変が起きた。ボスが消え、魔物の数が爆発的に増えた。近隣のダンジョンで2箇所、かつて例がない異常が立て続けに起きている」


 あ、我々が異常の原因ですね。これは失敬。


 さて、バトゥールとグルガンで状態が違うな。なぜだろう。違いはなんだ。バトゥールは踏破していない、グルガンは踏破した。ボスを殲滅したのは同じ。グルガンには悪魔が住んでいる。穴ガチャもあるし。バトゥールは閉鎖して、グルガンは魔物を増やして営業中。

 踏破云々は関係なくて、単純に悪魔が住んでるから出入り口を塞がなかったのか? これが自然かもしれないな。


「そうなのぉ、ダンジョンについてはぁ、まったく原因がわからない状況でぇ。はぁ~~、もう、かんべん、かんべん。ついでにぃ、聖女の件とか、人間の中にも不穏な動きがあったりぃ。やだわぁ」


 ああ、それも我々が原因。はい失敬失敬。


「うむ。今回、魔王城はしっかり確認せねばならんと思っていた」


 ちょっと待った。


「よろしいでしょうか」


「何ぞやぁ?」


 魔法王がたれ目で俺を見る。さっきのヨダレだらだらの顔を見てるから、そんな真面目な顔で見られるとキュンってしちゃう。


「勇者殿に質問なのですが……あ。先に自己紹介を」


「そういえばぁ。まあ、事前に聞いてるけどぉ」


「私はニトです。後ろの3人は、ブレア、メテオストライクブースター、アルマです。特にあてもなく旅をしており、先日、勇者殿と知り合い魔法都市に参りました」


「うんうん。ニト君、ブレアちゃん、ニセブタ……ごほんメテオストライクブースターちゃん、御主人さ……アルマ様ね」


 なるほど。アルマが崇拝されている。明らかにアルマは嫌がっているがな。魔法王はドMに見せかけたSではなかろうか。相手にSさせるのを喜ぶS。うーん難解。


「はい、よろしくお願いいたします。さて、勇者殿。ダンジョンに異常があると、なぜ魔王城を確認すべきなのでしょう?」


 質問に勇者が答える前に魔法王が勇者に質問を重ねた。


「ジャン、墓参りの話をしてないわけぇ?」


「うむ。我輩とジーラの2人で赴こうと思っていた故に、な。しかしこの魔法都市までの道中、4人の力量を目の当たりにして思い直した。この謁見の後にでも同行を願い出ようと思っていたところだ」


「なーるほどぉ。にゃんならここで話しなよぉ。時間はあるからぁ、気にしないで。ここにいる重鎮どもの中にも『墓参り? 南無南無』ぐらいの認識しかしていない者がいるのでぇ、周知の意味も込めてどうぞぉ~」


「よろしいのですか、な?」


「構わぬぅ。隠すことではないゆえにぃ。繰り返し続ける失敗という意味では、ある意味、恥部ではございますがぁ」


 え、恥部なのか。さっきの痴態より恥部なのだろうか。


「では……ナイスガイ。実は魔王城とはダンジョンだ」


「ほー」


 ダンジョンだったのか。てことは完全に魔王は神々の手の者だな。ヘレンちゃんの管理下にあるわけだから。

 そうなると、勇者が魔法王の手によって誕生するのが誰の意思によるのかが、ますます気になってくる。


「魔王は魔王城で誕生する。ゆえに魔王城を破壊すれば魔王は誕生しない……という仮説は古くからある。しかし、未だ魔王城を破壊できていない。それは、魔王城がダンジョンであるが故にだ。ダンジョンの破壊ともなれば、いかな災害を引き起こすか予想もつかない」


 ヘレンちゃんが呪いの叫びをあげて周囲の大地が腐るかもしれないな。


「さて、墓参りとは端的に言えばアンデッド退治だ。魔王城はアンデッドの巣窟でな」


 ブレアのお目当ての奴がいるかもしれないな。ちらりとブレアを見るが動揺する気配はない。


「魔王退治では毎回恒例なのだが、魔王を倒すと周囲にいた人間の中から相性がいい者の魂に魔王の魂の残滓が寄生し、アンデッドになる」


「え」


 気持ちわる。


「そいつは魔将軍と呼ばれる。魔王ほどの軍勢は率いないが、次の魔王誕生まで魔王城でアンデッドを増やし続ける」


「なるほど……」


 ブレアの復讐相手はあまり関係なさそうだが……アンデッドの巣窟ともなればお目当てのご本人様がいる可能性ほゼロじゃない。


「定期的に間引きしないとアンデッド大行進が起こる。都市が陥落した例も少なくない」


「なるほど、それは大事な仕事ですね。なら軍が動くべきでは?」


 なんでそんな大事な仕事を個人でやるんだよ。魔法王がアレだし、勇者もコレだから『筋肉の名のもとに!』とかいう理由がありえそうで怖い。


「そうだな。実はそれはこの筋肉のためだ」


「マジかよ……」


「マジだ。この筋肉は軍勢よりもパワフルなのだから、ね!」


 ウインクされましたー。でも納得の理由。


「確かに魔境を超えて出てきたアンデッド軍団を軍で迎え撃つより、筋肉勇者が定期的に単身で魔境を超え、魔王城に乗り込んでアンデッド殲滅する方が良いよな。安い、早い、確実って感じで」


「そうなのだ。ただ乗り込むとなると問題が一つあってな」


「ふむ……魔将軍かな?」


「ご名答。奴を殺せないこともないが……殺せばまた周りの誰かが新たな魔将軍になる」


 どこかでそんな話が……ああ、死なないアバドンちゃんだ。マナを確実に分散させることが出来れば魔将軍制度もなくなるだろう。何とかならないものか。


「今の魔将軍は八英雄の誰なのかしら? その能力は生前のものを引き継いでいるの?」


 ブレアが質問した。それもそうか。魔王を倒した時に周りにいた一人なのだから八英雄になるわけだ。戦闘後に一人死んだって言っていたし、これのことか。


「……エルフ族の精霊術師、リーフレイヌだ。今も精霊術を使う」


「今も? 会っているのか?」


「2年おきに墓参りをしているが、その度に、ね」


「そうか……」


 それは辛かろう。かつての仲間が死んでいった道を超えて魔王城に赴く。そしてそこでは仲間の死体が襲ってくるのだ。


「良い女だった。凄腕の精霊術師で、裁縫が得意で、花と緑をこよなく愛していた。服も全部緑で、髪の毛も緑に染髪して、暇さえあれば緑の染料を肌に塗っていた。一度だけ寝たが朝起きた時に吾輩の筋肉まで緑になっていたのは驚いた。うむ、良い女だった」


 俺にはわかる。それは良い女ではない。だが浸っている勇者にそんなこと言わなくても良いだろう。

 ジーラさんは切ない顔をしていた。リーフレイヌさんのことを思い出し、死を悼んでいるのか。勇者たちの緑色の行為の気持ち悪さにゲロ吐きそうなのか。どっちかだろう。


「魔境を超えて、魔王城ダンジョンでアンデッド退治か……」


 3人を見る。メスブタは問題ないな。アルマはむちむち魔法王をちらりと見て、少しだけ怯えた顔になりながらも頷いてくれた。そうだな、そう言えばそいつも行くって言ってたな。

 ブレアはどちらかと言えば行きたそうだ。アンデッド退治の練習になるだろうし、復讐相手がいるかもしれないし。

 そもそもダンジョンだし行ってもいいかな。神とか天使とかいそうな奥まで行かないように気を付けよう。まだもう少し時間をあけたい。


「どうかな? ナイスガイたちがいると非常に心強い。『筋肉にプロテイン』ってわけだ」


「そうか、『三つ編み眼鏡の司書さんにシックスパック』ってことかな。いいだろう、行こう。墓参りに!」


 俺と勇者は強く握手をした。勇者が熱く濡れた視線を俺に注いでいたので思わず手をつぶしそうになった。くそ、油断していた。


 なお、魔法王はいつのまにかヨダレを垂らして寝ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ