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むちむちでえちえちの唄


 ぼくは、むちむちという状態を、柔らかそうなお肉が張りつめたお肌にぱんぱんに詰まっている様子のことをさすのだと理解しています。それは弛んで重力に引きずられた状態とは違うと思います。でも、ちょっとはゆとりがあってもむちむちかなって思います。場合によってはたゆんたゆんな状態もむちむちかなって。あれぇ、むちむちがわからなくなってきたぞ!

 まあ、ともかく、ここでは普通よりはちょっとお肉が多めで、それでいて悪い気がしないのがむちむちということにしましょう。



 玉座を見る。そこには黄金色に輝くロングヘア―のむちむちが座っていた。もちろんメスだ。

 その名を魔法王ゾアという。その眼光は鋭くない。たれ目だ。のんびりとした空気が彼女の周りを漂っている。こんな厳かな謁見の間の玉座ではなく、晴れた日の農場のリンゴの木の下とかのほうが似合いそうな風貌だ。右手にかじりかけのリンゴ、左手にもかじりかけのリンゴ、口の周りにはリンゴ汁。うむ、そうあるべきだ。具申すべきだろうか。


 彼女の良いところはむちむち魔法使いであるという点に尽きる。

 いつか問題提起したいと思っていたが、魔法使いってやせ気味な傾向にある。小太りの魔法使いおじさんとかブタと見紛うほどの肉を纏った魔女とか、なかなかない。少なくとも見たことはない。

 でも、考えてみると、おとぎ話の絵本に出てくる魔法使いは、ちょっと中年太りしたおばさん魔女だったりするのだ。むちむち魔法使いは若くして原点回帰した世代を超えた存在なのだ。すごいぞむちむち魔法使い。


 しかもだ。むちむちなだけではない。彼女はえちえちなのだ。たゆんたゆんなお乳にちょっと余計なおなかとバイーンて感じのお尻。それらを包むはチューブトップとミニスカートだ。ぱつんぱつんの太ももが元気いっぱいにミニスカートから生えている。叩いたらいい音するよー、叩いてみなよー、そんな太ももの声が聞こえてくる。そしてチューブトップからは惜しげもなく胸の余った肉をはみ出させ、谷間を目いっぱいアピールしている。ペンとかー、指とかー、杖とかー、聖剣とかー、いろいろ挟んでみなよ、って声が聞こえてくる。


 むちむちでえちえち。


 唄でも作れそうだな。


────

 むちむちでえちえちの唄

 作詞:ニト 作曲:ニト


 むちむち、えちえち、むちむち、えちえち

 きょうもたくさんごはんをたべよう

 ふときづく つつまれるやさしさ おいてきたかなしみ

 みてごらん あれがぬくもり


 むちむち、えちえち、むちむち、えちえち

 すこしのかいだん とまらないあせ

 ふときづく だきしめるよろこび わかちあうたいおん

 みてごらん あれがぬくもり


 むちむち、えちえち、むちむち、えちえち

 もっとじぶんに じしんをもって

 ふときづく いつもみていた めがはなせない

 みてごらん あれがぬくもり


 ぼく と あのこ

 しっているよ みりょくとは

 からだをかさねて かんじる やわらかさ

────



 俺、疲れてるわ。


 昨日のパーティ会議でもう疲れてたし。次の日に謁見とか。勇者、アポ取り上手だな。

 むちむちを前にしたガチムチが華麗なお作法で挨拶をしたのち、本題を話し始めた。


「こちらのアルマ殿がゾア様を跪かせたいとのことで──」


 本題じゃなかった。あれ、いや俺たちにとっては本題だが。勇者自身の本題はどこに。

 アルマが勇者を押しのけ前に立った。お、もうやっちまうのか。むちむちをお偉方の前で足蹴にするのか。そのお偉方はちょっとざわざわしている。理解が追い付いていないようだ。だめだな。


「跪くのです! アルマは権力も武力も金もものともしないのです! それとも……この鞭と棒の世話になるのです?」


 少しも恐ろしさを感じない唐突な恫喝に周囲は騒然とした。小娘が何かを言い出したぞと。

 魔法王ゾアはその鋭くないたれ目でアルマを睨むと、尊大に構えた。玉座にゆったりと深く腰掛けている。腰を悪くする座り方だ。あのむちむちが『あー、腰が痛い』とか言って腰をトントンしていると色々と想像してしまう。お盛んですね、なんて思ってしまうだろう。

 しかもあんな高さの玉座に座っていたらパンツが見えてしま…………わない! 見えないぞ! むちむちの太ももが鉄壁のガードとなっている。くそ、ミニスカートで足を開いているのにパンツが見えない! なんて奴だ!


 そしておもむろに、魔法王ゾアは口を開いた。


「は、はひぃいいいい! わわわわたくしめに、鞭を、鞭をいただけるのですかあああ? ありがた、じゃなく、ややややめてくだされぇえええ。わたくしは魔法王なのですからぁ! 権力とぉ、武力とぉ、金があるんですぅ! かんべん、かんべん!」


 そう言いながらもずりずりと玉座からずり落ち、こちらに近寄ってくる。


 え、怖いよ。なにこれ、予想を無に帰すイカれっぷり。ちなみに予想では、魔法王が鼻で笑って『間の抜けたことを抜かすな』とか言うものの、力づくでアルマにお仕置きされる感じだった。さらに、周囲のお偉方とか近衛が迫ってくるからブレアが空間魔法で壁を作って、みたいな。みたいな。無に帰したわ。なんでじわじわずるずるむちむちと近寄ってくるの。怖いよ。


「え、ええ? なのです」


 まだ『なのです』をつける余裕があるのか。


「やだあああああやめてよおおおお! 鞭なんて、棒なんて、怖いのおおお!」


「魔法王はすごいわね。詠唱を始めているわよ」


「なに……? あ、本当だ。もしやアルマの実力を見抜いたうえで隙をつくって攻撃するつもりか」


「おそらく……」


 ブレアと確認しあう。危険が無いかマナフィールドを広げ、どんな魔法を使おうとしているのか感じ取る。


──周囲に自分をおぞましいものに見せ、罵らせる魔法……


 おっと、真性のお方だったようだ。あ、魔法が発動した。

 俺たちと変態勇者、ジーラさんと一部の方々は抵抗に成功したが、周囲のほとんどは抵抗に失敗していた。


「気持ち悪いんだよ! 生ゴミ!」

「床が汚れるだろうが! くっせえ汁たらしてんじゃねーよ!」

「魔族の面汚しが! マゾ族だよ、てめーは!」

「おら、腹でてんじゃねーか! ちょっとは節制しろや! 縛ったらはみ出るんじゃねーか?」

「醜い身体だな! お前には生身の身体はもったいねーわ。木の棒でも使っとけや」



 真顔のブレア。さっき『すごい』とか言った自分を悔いているのか。その気持ちはわかる。


 アルマも真顔で近づき、とりあえず縛って、鞭で叩いた。叩くたびに魔法王が鳴く。


「ごめんなさいいい、ごめんなさいいい! ダメな女王様でごめんなさいい!」


 アルマは偉い。こんなことになってもちゃんと権力者を跪かせたのだ。あとはアルマを様付けにする件だが……もういいだろう。


「ニト! これって卑しいのかっ?」


「ああ、よく気付いたな。よく見ておくといい。これが卑しいということだ」


「なるほど……なんか卑しい気がしたんだよなっ!」


「そうか。こいつこそまさに雌豚だ。ブヒブヒ言っているだろ?」


「うんっ!」


 思いがけずメスブタの教育につながった。役に立つじゃないか魔法王ゾア。


「アルマ、そろそろいいんじゃないか。もう十分だろう。終わりにしよう」


「……ニト、アルマはもう、もう皆と一緒にいてはいけない体になってしまったのです。穢れて、堕ちて……ふええええん」


 泣くほどだったのか。


「ほら、おいで。頭撫でてやるから」


 唾でも吐くかと思ったが、意外にも素直に俺の胸に顔をうずめてきた。股間がうずく。


「ふええーん、ひっく、ふぐぅ、悔しいのですぅ」


「大丈夫、豚を弄っただけのことだから。弄らされたわけじゃないさ。弄ったんだ。アルマの勝ちだ。そうだ、魔法を教えてやるって言ってただろ? あれももういいよ。お前から何かを施してやる必要なんてないさ」


「えーーん」


 アルマを優しく抱きしめて数分。

 周囲の方々は魔法が解け冷静になり、魔法王は玉座に戻った。アルマも無事に泣き止んだ。


「ニト、ありがとうなのです。これ、お礼なのです」


「ん?」


 顔にツバ吐かれた。


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